第63話 過去の警備依頼?
「やっぱ魚って美味ェよなァ。肉もいいんだが、魚の方が素材の味がハッキリしてるっていうか……わかる?」
「分かりますよ。俺も海が近い町で生まれ育ったので」
敷かれた野菜の上にある鯵に舌鼓を打つ。
ヒビネさんは猫らしく……というのも変だが、魚が好きなのは知っていた。だから探して見つけたこのお店の料理が気に入ると思ったが、案の定だったようでなによりだ。
「にしても、あっちィなァこの国」
「赤道に近いですからね。海がある分、風は涼しいですけど」
「……赤道って何?」
「この星に直線を引くとき、一番長く引ける位置のことです」
「あ、んー、ん? それで、なんで赤道だと暑いんだ?」
「一年を通して太陽に近いからですよ」
「……???」
分かってないなこれは。
固まったヒビネさんは置いておき、料理を食べ進める。
海の国は確かに暑い。日本も夏はそこそこ暑いが、ここはそれ以上だ。
この前まで寒いところに居た身としては、温度差による体調の変化に気を配る必要があり大変だ。
特に依頼で戦闘をした後など、運動でなる熱中症には警戒しなくてはならない。後で話しておこうか。
お互いに注意し合えるならそれが一番だ。
「ヒビネさん、赤道についてはまた後で教えるので……」
「お、そうかい。じゃァ詳しくわかりやすく解説してくれよ?」
「任せてください」
◆
10月10日。
『スウェル大図書館』の中は静かだ。
机に何冊か本が重なっている。
─パタン
今しがた読み終えた本を、さらにそこへ重ねる。
新しい石板の情報はおろか、空間を移動する魔法もまだ理論が確立されていないようだ。
一ヶ月探し続けてこれか……。心が折れそうだ。
ヒビネさんになんて言おうか……。嘘をつくわけにはいかないし……。
本を棚に戻しに移動する。
─ドン…! パサッ……
いっ……! 肘が当たってしまったか。
衝撃で落ちた新聞紙を拾……新聞紙? そういえば、新聞紙はチェックしていなかったな。
本から探すより何倍も大変だが、やってみる価値はあるか。
今日のところはもう帰ろう。
◆
「あ、おはようございますヒビネさん」
「……おう」
部屋から出てきたヒビネさんは暗い顔をしている。
「元気ないですね。体調でも悪いんですか?」
「いやァ、そうじゃねェけど……。なァゴウ」
「なんですか?」
「今日から12月だよな?」
今日は12月1日だからその通り。
「そうですよ」
「だよなァ……。暑くねェ?」
「8月9月に比べたら全然ですけど」
「いやそれはそうなんだが」
確かに『天使の国』にいた頃からは考えられないが、この国ではこれが普通ですし。
「初めてだぜ。この時期に半袖なんてのは。日本でそういうことはあんのか?」
「俺は一度もありませんね」
沖縄では……いや、沖縄でも冬は長袖だと思う。行ったことないから分からないが。
「くァ……暑かったり寒かったり、この世界は不思議なもんだぜ」
「いつか科学が全部解明してくれますよ」
「そんときゃオレら死んでねェか?」
「恐らくは」
「ダメじゃねェか」
◆
場所は冒険者ギルド。
いつものように依頼を受けに来た。
「サメ狩り、盗賊退治、博物館の警備、今日はどれにするよ?」
「いや他にもありますよね?」
「今言ったのが楽に稼げる依頼なんだよなァ」
ヒビネさんにとってはどれも楽でしょうけど、俺にとって戦闘行為はストレス掛かるんですよ。
それで言うなら、警備の仕事が一番楽か。
「なら、警備の依頼にしましょう」
「よしきた」
◆
『コンソール博物館』という普段は穏やかな空気が流れる場所で、今日は三節棍の余波が吹く。
「オラッ! 盗賊は帰れッ!」
壁や天井を使いながら、速度を落とさずに連撃を放つヒビネさん。
─ゴンッ! ドッ!
「「うわぁぁあ!?」」
それで壁壊さないで下さいよ……?
「死ねぇぇい!」
盗賊の一人がナイフを持って突っ込んできた。
俺も黙って突っ立ってる場合ではないか。
「『氷塊』!」
足元から空気を伝い、相手の四肢を拘束する。
「ぬおォォォ!? 魔法だとォォ!?」
「やたらと声の大きい人ですね……」
「ゴウ!」
「お願いします!」
「うおォォォ「そォい!」──」
ヒビネさんは強烈な飛び蹴りを顔面に浴びせ、反動で綺麗に宙返りして着地した。
男は気絶した。
なんだか、昔見た特撮モノのキックみたいだったなぁ。
……いや、アレ鼻の骨とか大丈夫なのか? かなりの音したように聞こえたのだが?
「ヨシッ、次行くぞゴウ!」
「はーい。……というか、なんで警備の依頼が盗賊退治になってるんですか!?」
「知らねェ! だが、つまりは同時に2つの依頼をこなせるってわけだ! 収入2倍だぜ?」
「警備の依頼しか受けてませんけど!?」
まさかこれがサービス残業? 違うか。似たようなものだろうとは思うけど。
他に音がする所へ走る。
全くもって運が悪い……! これならサメを狩りに行く方が何倍も楽だった!
あぁ、また今度だ。俺のフカヒレ……。
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