第53話 これにて幕引き!
「そんじゃ、一旦逃げんぞ」
「で、でもどうやって? 下はいっぱい海賊が……」
「それはもちろん、氷の空中回廊! 優雅な空の旅へとご案内致します、小さな
芝居がかった動きで手を取り、流れるようにお姫様抱っこへ。
「わ、わわっ!? ヒビキ!?」
「あっという間だから、見逃すなよ!? 『氷塊』!」
─ズズ……!
透き通る氷が、マストから港へと繋がる幻想的な橋を創り出す。
辛くて怖い記憶なんてのは、オレが楽しくて明るい思い出に塗り替えてやるッ!
「行くぞッ!」
「う、うんっ!」
─タンッ!
「わぁ……! すごいすごい! 空を飛んでるみたい!」
「ハハハッ! こりゃァいい! 最ッ高に楽しいなァ!」
夕日が沈んだ空に掛かった氷の橋の上、2人は笑う。
「私こんなにキレイな景色初めて!」
「だろう! 一夜限りの景色だぜ!」
鳴呼! なんて美しい世界! こんなにも目に焼き付けておきたいと思ったのは初めてだ!
この
このまま、何処までも飛べそうだ。飛んでないけど!
◆
「どうだった? オレの魔法は」
「最高!」
「喜んで貰えてなによりだ」
氷の橋を降り、近くのベンチで休憩。
「おう、ヒビキ! 上手くいったみたいだな!」
「ベンさん! いやァ、ありがとうございまァす」
オレたちが橋を渡っている間に、警察を引き連れてやって来ていた。
ベンさんのタイミングが完璧過ぎて、これが出来る海の男かって感じだ。
目の前の船に警察が乗り込んでいく。
さてさて、後は警察の仕事だなァ。給料分は働いてくれよ?
「ヒビキのこと、強いんだとは思ってたがまさかここまでとはな!」
「教えてくれた悪魔が良かったんですよ」
「悪魔に魔法を教わったのか! それなら納得だな」
悪魔の事は知ってんだな。なら、マサムネさんとは言わないでおくか。
「そんじゃ、一足先に帰りますねェ。警察の事情聴取は明日で」
「俺から説明しておこう! おやすみ!」
「おやすみなさいです」
「おやすみなさい!」
◆
「レム!」
「おばあちゃん! ただいま!」
感動の再会だァ……! やっべ、また涙出てきた。我ながら涙脆いというか……。
─ぐぅぅぅ…
「お腹空いた! 食べよ!」
「ふふっ、先に手を洗ってらっしゃい」
「わかった!」
ははは、もう元通りか。子どもは切り替えが早いなァ。オレなら一時間は引きずる。
「いてて……」
脚が痛ェわ。『氷塊』の使いすぎで反動ががが。細胞の修復に『回復』が必要なレベルは初めてだぜ……。
さすがにあの氷の橋はやりすぎたわ。魔力も残り2割だし。てかその前から、船の進路にデカイ氷を造ってたしなァ。体温調節に熱線を使うタイミングも無かったし、人相手は苦労するぜ……。
でも最後が楽しかったからおっけーです。
オレも手ェ洗うか。
今夜はぐっすり寝られそうだ。
◆
「おはようヒビキ! 今日ヒマ!?」
「おはよう。オレは何時でもヒマだぜ。なんかあんのか今日?」
「あのね! 私に魔法を教えてほしいの!」
昨日のに触発されたか? 別に構わんが。
急いでる訳でもないし、魔法をある程度教えてから出発でも問題無ェか。
「どういう魔法がいいんだ? オレが教えられるのなんて少ねェぞ?」
「ヒビキが昨日使ったやつ!」
「『氷塊』か。それなら、まずは魔素がどんくらいあるかだけど……朝ごはん食べてからでいい?」
「いいよ!」
魔法が使えるかどうかって、結構才能の割合多めなんだよなァ。
『氷塊』や『熱線』なんかの温度変化系は最初から使えたが、今でも『過電撃』や『電磁力』なんかの電気系はからっきしだ。
何度もフル詠唱で練習してんだけどなァ……。マジでうんともすんともいわねェの。適性がどうとは言ってたし書いてあったし、なんかあんだろう。
ただ、そうなんと『回復』『収納』『浄化』はマジで何なんだろォなァ……。ゲームでいうところの初期技? 攻撃魔法がひとつもないんですがそれは。
◆◆◆
家の敷地内の庭で魔法の練習をする。
「『solid:phase transition:ice block』!」
レムの手の中に大きめの氷が出来上がった。
「どう?」
「ここ数日でそんだけ出来るなら、もう基礎は出来てるみてェだなァ」
この歳でこんだけとか、オレが教えることはもう無くねェか? 才能に溢れてるわ。
「じゃあ!」
「『氷塊』についてはほぼカンペキ。あとは体の成長と共に魔力も上がるだろうから、それ待ちだな」
将来有望だぜ。これなら、いつか出所した元海賊になんかされることはねェな。
「そんじゃ、オレは皆に挨拶して……だなァ」
「あ、そっか。ヒビキもう行くんだね……」
「あァ、本当に世話んなった。……そんな顔すんなよォー」
なんか悪いことしてるみてェだろォ?
「旅はいつだって一期一会、出会いあれば別れあり。だから、笑顔で送り出してくれねェか?」
「……わかった!」
ゴシゴシと目をこすり、笑顔を浮かべる。
ふふっ、いい子だ。……いや、マジで。
「じゃあね、ヒビキ!」
「……ああ! じゃあな!」
きっといつか、どこかで。
◆
ベンさんとフイゴに別れの挨拶を済ませ、この国を後にする。
駅とは反対側の地に着いた。
ここからは歩きだ。
「……くァ」
今日は風が暖かいからなァ、ついウトウトしちまうぜ。ここから歩きだけど。てかバックパック重ェわ。後で収納しとっか。
この潮風ともお別れか。
オレの旅はまだ続く。次は『動物の国』だ。
石板の情報を掴みに行くぞ。
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