第53話 これにて幕引き!

 

「そんじゃ、一旦逃げんぞ」

「で、でもどうやって? 下はいっぱい海賊が……」

「それはもちろん、氷の空中回廊! 優雅な空の旅へとご案内致します、小さなお姫様プリンセス


芝居がかった動きで手を取り、流れるようにお姫様抱っこへ。


「わ、わわっ!? ヒビキ!?」

「あっという間だから、見逃すなよ!? 『氷塊』!」


─ズズ……!


透き通る氷が、マストから港へと繋がる幻想的な橋を創り出す。


辛くて怖い記憶なんてのは、オレが楽しくて明るい思い出に塗り替えてやるッ!


「行くぞッ!」

「う、うんっ!」


─タンッ!


「わぁ……! すごいすごい! 空を飛んでるみたい!」

「ハハハッ! こりゃァいい! 最ッ高に楽しいなァ!」


夕日が沈んだ空に掛かった氷の橋の上、2人は笑う。


「私こんなにキレイな景色初めて!」

「だろう! 一夜限りの景色だぜ!」


鳴呼! なんて美しい世界! こんなにも目に焼き付けておきたいと思ったのは初めてだ!


このさも! 風も! 音も! 匂いも! 感じる全てが心地良い!


このまま、何処までも飛べそうだ。飛んでないけど!



「どうだった? オレの魔法は」

「最高!」

「喜んで貰えてなによりだ」


氷の橋を降り、近くのベンチで休憩。


「おう、ヒビキ! 上手くいったみたいだな!」

「ベンさん! いやァ、ありがとうございまァす」


オレたちが橋を渡っている間に、警察を引き連れてやって来ていた。


ベンさんのタイミングが完璧過ぎて、これが出来る海の男かって感じだ。


目の前の船に警察が乗り込んでいく。


さてさて、後は警察の仕事だなァ。給料分は働いてくれよ?


「ヒビキのこと、強いんだとは思ってたがまさかここまでとはな!」

「教えてくれた悪魔が良かったんですよ」

「悪魔に魔法を教わったのか! それなら納得だな」


悪魔の事は知ってんだな。なら、マサムネさんとは言わないでおくか。


「そんじゃ、一足先に帰りますねェ。警察の事情聴取は明日で」

「俺から説明しておこう! おやすみ!」

「おやすみなさいです」

「おやすみなさい!」



「レム!」

「おばあちゃん! ただいま!」


感動の再会だァ……! やっべ、また涙出てきた。我ながら涙脆いというか……。


─ぐぅぅぅ…


「お腹空いた! 食べよ!」

「ふふっ、先に手を洗ってらっしゃい」

「わかった!」


ははは、もう元通りか。子どもは切り替えが早いなァ。オレなら一時間は引きずる。


「いてて……」


脚が痛ェわ。『氷塊』の使いすぎで反動ががが。細胞の修復に『回復』が必要なレベルは初めてだぜ……。


さすがにあの氷の橋はやりすぎたわ。魔力も残り2割だし。てかその前から、船の進路にデカイ氷を造ってたしなァ。体温調節に熱線を使うタイミングも無かったし、人相手は苦労するぜ……。


でも最後が楽しかったからおっけーです。


オレも手ェ洗うか。


今夜はぐっすり寝られそうだ。



「おはようヒビキ! 今日ヒマ!?」

「おはよう。オレは何時でもヒマだぜ。なんかあんのか今日?」

「あのね! 私に魔法を教えてほしいの!」


昨日のに触発されたか? 別に構わんが。


急いでる訳でもないし、魔法をある程度教えてから出発でも問題無ェか。


「どういう魔法がいいんだ? オレが教えられるのなんて少ねェぞ?」

「ヒビキが昨日使ったやつ!」

「『氷塊』か。それなら、まずは魔素がどんくらいあるかだけど……朝ごはん食べてからでいい?」

「いいよ!」


魔法が使えるかどうかって、結構才能の割合多めなんだよなァ。


『氷塊』や『熱線』なんかの温度変化系は最初から使えたが、今でも『過電撃』や『電磁力』なんかの電気系はからっきしだ。


何度もフル詠唱で練習してんだけどなァ……。マジでうんともすんともいわねェの。適性がどうとは言ってたし書いてあったし、なんかあんだろう。


ただ、そうなんと『回復』『収納』『浄化』はマジで何なんだろォなァ……。ゲームでいうところの初期技? 攻撃魔法がひとつもないんですがそれは。


◆◆◆


家の敷地内の庭で魔法の練習をする。


「『solid:phase transition:ice block』!」


レムの手の中に大きめの氷が出来上がった。


「どう?」

「ここ数日でそんだけ出来るなら、もう基礎は出来てるみてェだなァ」


この歳でこんだけとか、オレが教えることはもう無くねェか? 才能に溢れてるわ。


「じゃあ!」

「『氷塊』についてはほぼカンペキ。あとは体の成長と共に魔力も上がるだろうから、それ待ちだな」


将来有望だぜ。これなら、いつか出所した元海賊になんかされることはねェな。


「そんじゃ、オレは皆に挨拶して……だなァ」

「あ、そっか。ヒビキもう行くんだね……」

「あァ、本当に世話んなった。……そんな顔すんなよォー」


なんか悪いことしてるみてェだろォ?


「旅はいつだって一期一会、出会いあれば別れあり。だから、笑顔で送り出してくれねェか?」

「……わかった!」


ゴシゴシと目をこすり、笑顔を浮かべる。


ふふっ、いい子だ。……いや、マジで。


「じゃあね、ヒビキ!」

「……ああ! じゃあな!」


きっといつか、どこかで。



ベンさんとフイゴに別れの挨拶を済ませ、この国を後にする。


駅とは反対側の地に着いた。


ここからは歩きだ。


「……くァ」


今日は風が暖かいからなァ、ついウトウトしちまうぜ。ここから歩きだけど。てかバックパック重ェわ。後で収納しとっか。


この潮風ともお別れか。


オレの旅はまだ続く。次は『動物の国』だ。


石板の情報を掴みに行くぞ。

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