第52話 隙あり!
船に乗り込んでからすぐ、何人かの海賊に囲まれた。
「おォおォ、これまた手厚い歓迎なことですねェ」
焦りの表情から一転、余裕の顔をして堂々と歩く。
触手の異形に比べたら雑魚も雑魚だが、こういう奴らに対して怯えや焦りを見せると時間が掛かるからなァ。
「はっ、余裕でいられんのも今のうちだぜ?」
「黒髪にしては美人じゃねーか。案外楽しめそうだなぁ!」
大胆不敵に笑って、全てに対応できるように冷静さを無くさない。華麗に優雅にスタイリッシュに、あくまでもレムを無事に連れて帰るのが優先。
にしても、うるせェヤツらだぜ。美人なのはその通りだが、レディの扱いがまるでなってねェ。
「ほら、とっととレムのとこに案外してくださいませんかねェ。そちらのボスは時間をすごく大切にできる方らしいですし」
「分かってるじゃねぇか! ウチの船長はすげぇんだよ!」
あっ……皮肉通じてねェ。ま、まァ、いいけど。
「それはそれとして─」
─ガチャン
「手錠なんてどっから……」
「ほら、行くぞ!」
あ、なんか懐かしいなこの感じ。でも左手首に『飛刀・鎖』のブレスレットがあるから、すごいごっちゃになってる。
……いや、んな事考えてる場合じゃねェ。後ろ手で手錠掛けられんと、刀が振れんのよなァ。
アレを使えば一発で抜けられるから、そこまで問題にはなんねェけど。
◆
「ヒビキ!」
「レム!」
レムは甲板上のマストの中点ら辺にある足場で、体を縛られている。
外傷は無ェよな!? 女の子の体に傷をつけるとか人間のやることじゃねェからなァ!?
『ソイツの武器を捨ててこい』
ええい! レムの隣から離れろ! てか降りてこい! どんだけ高いところが好きなんだよ!
「了解です船長!」
海賊の一人が、ガチャガチャとオレの腰から刀を鞘ごと外していく。
……周りにいるのは12人。この前の魔法の例があるから、凍らせるのはまだ後だ。
─ガチャガチャ……ガチャガチャ…!
「ちょ、いて、痛ェんですけど?」
「っ、おい、この腕輪どうやって外すんだ!?」
「両サイドにあるボタン押しながら─」
「こうか!」
─カチャン
「そしたら、腕が通るサイズに広がるんで外せ……ませんねェ。手錠がつっかえます」
「ちっ!」
『もういい、船を出せ』
「りょ、了解! オマエら!」
「「アイアイサー!」」
やっぱりか! このままだと、陸とおさらばする羽目になりそうだなァ!
……ここからどうやって乗り切ろうか。一応、仕込みはしてあるからその隙を突ければいいがァ……。
『変な気は起こすなよ?』
懐からナイフを取り出した。
「それはお互い様だぜ?」
ここからアイツに『氷塊』を撃っても、レムを巻き込む可能性がある。『熱線』も同様。てかこの距離ならジャンプした方が速い。
あの覆面の船長がレムから離れた瞬間を殴り抜ける。それしかねェ。
ググッ、と船が揺れる。
「出港だ!」
まだだ。まだ揺れは小さい。
心拍数が上がっていくのがわかる。まるでスピーキングテストの順番待ちをしている時のようだ。
上手くいくか不安で、なのに失敗するとは微塵も考えていない。
夕日が沈む。
「しっかし、アレだなぁ。オレの首輪の宝石の事、どこで知ったんだ? 『コンソール博物館』に来た海賊は全部捕まったって聞いたぜ?」
『……なんでもいいだろう』
「お、やっと会話してくれたなァ。オレは嬉し─」
─ゴォォン!!
今!
手錠を『収納』しながら突っ込む!
「な、なん『ごハァ!!』船長!?」
何か大きなものにぶつかった衝撃で激しく揺れた船上で、一瞬体のバランスを崩した船長に跳んで近づき腹パン。
「逃がさない。『氷塊』」
─バキバキッ!
マストと吹き飛んだ船長を氷で繋げる。直線距離15メートルくらいか。それと……。
─ブチィッ!
レムを縛る縄を力任せに解いた。
「レム、少しここで待っていてくれるか?」
「わ、わかった!」
「ふふっ、いい子だ」
氷の上を走る。
『ぬおォ…! 博物館のアレが、全力では……!?』
「お前、博物館にいたのか?」
船長自らとはやるねェ。
『!? なんだそのスピードは!?』
「鍛えたんだよ。仮にも船長がそんなビビんなよ」
覆面を剥ぎ取る。
「っ!」
「!? おまッ、お前! あん時の警備員じゃねェか!」
襲撃があった時に、最後までショーケースの前に残って宝石を守っていた警備員だ。
「…あァそうか! だから最後まで残ったし、オレのこの首輪も知ってたわけか! レムを狙ったのも、アレから付けてたってわけだ」
「グッ…クソッ! さっきの揺れは何だ!?」
「さァなァ!? 自分で考えたらどォだ!? もちろん、牢屋の中でなァ!!」
「や、やめっ──」
「ふんッ!」
─ゴキッ!
「──」
がくり、と力が抜けたようだ。
……はァ。真面目に働けよ、ホント。
「せ、船長があんなにあっさり……!」
「船長ォ!」
頭を失った集団ってのは基本弱い。あんな風に混乱してるのが証拠だ。
「レム、待たせてごめん」
「ヒビキ……!」
「どうした?」
「う、うわぁぁぁん! 怖かった! 怖かったよヒビキ! ひぃん! ぐすっ……!」
抱きついてきたレムをしっかり受け止める。
「ごめん、ごめんな」
「でも、助けに来てくれて、本当にありがとう……!」
「あァ……! こっちこそ無事で良かった……!」
良かった…! 本当に良かった……!
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