4 小屋での生活
4-1 川沿いの森の中で 1
小屋の中で、彼はとりあえず、椅子に座って、足にたまっていた疲労をどうにかしたかった。椅子に座ると、足だけでなく、全身にあった疲労を自覚する。机に突っ伏して体重を預ける。体がかなり楽になり、そのまま眠りそうだったが、体を起こした。まだまだ寝るわけにはいかない。洞窟の中でも寝ていたのだから、まだまだ眠るわけにはいかない。
彼は小屋で生活しようと考えたことに関してはまるで、違和感を持っていなかった。最初はただ休憩するだけの意識で入ったはずなのだが、いつの間にか、そういう考えに変わっていたのだ。それを彼は全く気にしていないというか、彼の意識にその情報すらないのだ。
彼は特に疑問を持たずに、小屋を出た。まずは、食料の確保だと考えて、周りの植物を摘むか、動物を狩るか考えていた。動物を狩るにしても、近くに生物の気配はない。水の中には何かいるかもしれないが、流れが速く、水の中に入る勇気はない。水の流れに飲まれて、河口に流されるのはまずいと考えて、水に入るという選択肢は消えた。近くに森などもないため、植物を摘むということもできない。食料一つを確保するにも難しい。水だけは無限に飲むことができそうだが、この川の水を何もせずに飲むのはかなり抵抗がある。
彼は自分の置かれた状況を再認識する。生活するだけの設備は整っているというのに、それ以外のものは全く揃わない。彼はそこでようやく、正気に戻る。
「ん? なんで食料を集めようと?」
自身の行動に疑問を持ち、彼は小屋から離れる。また、小屋の中に入れば、同じことになる可能性がある。そう考えて、彼は小屋を過ぎて、川沿いを登る。
川沿いを登っていても、生物がいそうな形跡は全くない。しかし、生物がいないというのは彼にとっては好都合なことだった。それもそのはずで、生物がいるとすれば、ほぼほぼ戦うことになるからだ。今まで、見つけてきた生物はあの少女を除いて、全員と戦ってきた。それゆえに、次に出会った生物とも戦う可能性が高いだろう。それに、川を上っていくと、周りの木々が増えていき、川沿いにも木々が侵食してきていた。そして、その浸食が増えるのと同時に、川幅も徐々に狭くなっていく。川を上れば、その先に水源があるはずだが、川幅がなくなるばかりで、水源に着く様子もない。しかし、今更戻ったり、他の道に行ったりするようなことはできない。ここまで来る労力をかけたのだから、たとえ水源がなくとも、川の根元まではいかなければ気が済まないのだ。
さらに進めば、坂が急になっていく。彼の息も多少、荒くなり、坂といっても整備されているわけではなく、土でできているものだった。その次の上を歩けば、滑ることもあり、中々思うように進めない。草木を掴みながら、土にまみれて前に進む。彼は途中で休憩を挟みながら、山を登っていく。
草木をかき分け、前に進んでいると、水の流れて途切れてしまった。しかし、彼はそのまま上へと昇る。彼の前にあるのは壁と言えるほどの勾配の坂で、魔法で土の柱を出して、ある程度の位置からその崖を登り始めた。彼はクライミングするような動きで、壁を登っていく。幸いにもその壁にはでこぼこした部分があり、そこを掴んで、何とか崖の上に上がる。崖の上に上ると、またそこから川の流れが復活していた。どうやら、土の中というか、外からは見えない滝のような構造になっていて、そこから水が落ちて、下の川に続いているようだった。彼はそんなことも気にせず、さらに上に移動する。
そして、そこからそこまで歩かない場所まで行くと、先ほどよりも少し涼しいような気がした。彼はそのままけもの道を進む。草をかき分けていった先には湖のようなものがあった。池というには大きすぎるもので、彼は池に近づこうとした。しかし、彼の耳は水の音を聞き逃さなかった。いきなり、水の音がするということは自分以外の何かがいる可能性がある。強い風も吹いていないし、湖に流れもなく、波も立っているようには見えない。
彼が湖に警戒しながら近づいていく。すると、水面でやはり何かが動いていた。それは小さな魚のようで、水中をかなりの速度で泳いでいるようだ。彼はその敵がどんな姿をしているのかが気になってしまった。そして、小さな魚という認識のせいで、警戒心も多少は少なくなってしまう。そして、彼は不用意に湖に近づいて、水の中に手を入れようとしていた。彼が湖の近くにしゃがむと、水面に水中にいるものの小さな影が映る。彼が手を伸ばそうと屈んだ瞬間、水面から何かが出てきた。彼はそれに反応していたのだが、回避は間に合わなかった。
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