もうストーリー通りに進まない
…………
…………
『ねぇ〇〇くん、これ見て!』
ある少女は眼の前にいる男の子に一つ花を見せた。
それはとても色鮮やかな白。
見惚れてしまうような。
ある男の子は口を開く。
『これは何の花?』
『これはね桔梗って言うんだ!』
『桔梗…?』
『うん! …それでね、桔梗の花言葉って知ってる?』
男の子は首をかしげて。
『…知らないかな』
そう男の子が答える。
そのとき少女は笑顔を見せながら、
『永遠の愛、なんだって! ふふ、私達にピッタリじゃない?』
その少女の言葉に照れ臭く男の子は言葉を吐く。
『うん、そうだね―――』
花とは、永遠に咲き続けることは無い。
いつか枯れるもの。
つまり桔梗の永遠の愛は、俺達には当てはまらないのだ。
だから、俺と彼女は――――――
…
……
………
「それでどうしますか?」
「ええと……なんでしたっけ」
「あら、私の話は退屈だったでしょうか?」
隣に座っていたペトラがすごい顔で微笑んだ。
「あっ、いえ! き、聞いてましたよ! ええとあれですよね?」
「ふふ、冗談ですよ? いつも冷静なあなたが取り乱すなんて珍しいですね」
「……お恥ずかしい限りです」
「まぁ、新鮮なあなたを見れてわたくしは嬉しいですけどね」
「そ、そうですか……申し訳ございません」
はぁ、と俺は溜息を吐いた。
なぜか最近ぼーっとするようになることが増えてしまった。
疲れなのか、ストレスなのかわからないが、取り敢えずちゃんとしなければ。
「失礼ですが、なんて仰ってました?」
「文化祭の出し物ですよ」
「文化祭の出し物…ですか」
ああそうだ、文化祭はたしか【あるれい】のストーリーの重要なイベントだったな。
けれど俺が存在しているせいで、ストーリーはぐちゃぐちゃになっているのだ。
軌道修正、それはもうできない。
しかし、ある程度は正しくしたほうがいい。
先ずはお嬢様の方のクラスはどうなっているかを確認したほうがいいな。
「ペトラ様は何を出し物にするかは決まっているのですか?」
「いえ、決まってませんよ。というより、私はクラスで決まった意見に従おうと思っていますね」
「……そうですか」
「ふふ、含みのある言葉ですね」
ペトラというキャラをあまり深く知っていなかったが、こんなだっけか?
まぁそれはいいとして、文化祭の出し物…か。
「……『劇』ですかね。ぱっと浮かんだものですが…」
「私はいいと思いますよ? 少なくとも私はそれに一票入れますね」
「まだ私の意見しか聞いてないと思うのですが……」
「取り敢えず、明日に出し物の意見を聞かれるみたいなので言ってみたらどうでしょう?」
「そうしてみます」
俺はその後ペトラと少し話をした。
講義の時間が始まり、俺は次の休み時間に先程の考えの続きをすることにした。
…
……
………
確かこっちの方向がお嬢様の教室だった気が―――
「――このあとどうかな?」
「すみません。用事があるので他をあたってください」
「じゃあ、用事ない日を教えてくれないかな? その日に調整するからさ」
「どうでしょう。私の用事は日を跨いで続くので」
廊下に男女が話し合っているのが見えた。
お嬢様と……ああ、確かロン・ラクロックだっけか。
比較的身長が高く、金髪の長髪で蒼瞳のいかにも貴族という品格を纏っている。
ロン・ラクロックは貴族のなかで最高位公爵の息子である。
ゲームの中ではロン・ラクロックは最高の財を持っていて主人公を補助する役割を持っていた。
そして、ストーリー文化祭イベントでロン・ラクロックルートが開放される仕組みだったはずだ。
だけどこれは……。
「では、私はこれで失礼します」
お嬢様はロン・ラクロックの反対方向へと歩き出した。
どうみてもそんなルートは発生しなさそうだけど……。
やはり俺のせいで変わってしまている。
お嬢様とメインキャラとの関わりが異常におかしい。
今更かもしれないが、もうストーリーは思うように進まないと断言したほうがいいだろう。
だからこれからの事は、ゲームだと考えるのではなく現実として考えよう。
ゲーム通りに動かないのは当たり前だ。
だってこの世界は現実なのだから。
俺はそう考えを改める。
「あいつ、ロン様の誘いを断るなんて……」
「そうね。なんだか―――」
お嬢様とロン・ラクロックが去って残された廊下には良くない空気が漂っていた。
これだけはメインストーリーとは変わんないらしい。
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