第十八話 謝罪と懇願
「ぐふっ」
吸い込まれるように突き刺さった龍二の拳は俺を壁まで思い切りブッ飛ばした。
い、痛ええええええ!!!!
勇者の力込みで殴ってきやがったぞあいつ。まあ、甘んじて受け入れるけども。
「龍一っ!」
メイリアが駆け寄ってくれて、ヒールの魔法をかけてくれた。メイリアは優しいなあ。でも、ここはそういう場面じゃないんだ。
「アンタ龍一の弟の龍二でしょ!?いきなり殴り飛ばすなんてどうかしてるわ!!」
「メイリアありがとう。でも、いいんだ」
メイリアは龍二に対して敵意を剥き出しに睨んでいる。今にも飛びかかりそうな勢いだ。俺はメイリアの腕に手を当て牽制する。
「ありがとな、龍二」
そして呟くように言葉を発した。龍二なら聞き取ってくれてるだろう。隣のメイシアは俺の言葉で剥き出しだった敵意は鳴りを潜めて、今度は困惑している。
「王様、場を乱してすみませんでした」
龍二は小さく頷くと王様へと向き直り頭を下げた。王様は「もうよい」と頭を上げさせた。
「龍一とそれに客人達よ。先ほどは失礼した。私から詫びよう。……して、客人よ。話すには少し遠いようだ。もう少し近くで話そうではないか」
そのレクス様の一声で気を取り直し相応の場所についた。そして俺は誠心誠意の謝罪をした。レクス様は俺を快く許してくれた。というか怒ってはいなかったらしい。怒っていたのは龍二だけで、むしろ心配していたとか。まあ、それでも謝るべき案件なんだけど……流石に不注意が過ぎたというか……気が高揚していたというか。
とにかく、優しい王様は俺の謝罪を受け取って許してくれた。宰相様からお小言はもらったが、全て事実なので反省してその言葉を受け入れた。これで俺の件はおしまい。長老にバトンタッチだ。
「お初にお目にかかります。レクス・ボルド・グランベルグ陛下。私はロウェンと申す者です。王都から西の方角の森の中にあるエルフの集落の長老を務める者です」
この言葉から始まった長老の話は、端的ながらも要所要所はしっかりと正確に西のエルフの集落の危機と王都からの騎士団派遣を要請したい旨を伝えるものだった。それを聞いたレクス様は「ロウェン殿、少し時間を頂いてもよろしいかな」とその場はお開きになったのだった。
謁見の間を出た俺達はというと、何故か俺の部屋に集まっていた。メンバーは俺、龍二、メイリア、ロウェン長老の四人。王宮側が部屋を用意してくれる部屋とか龍二の部屋でいいだろと言ったが、メイリアと龍二が反対した。
恐らくだが、メイリアはまだ警戒しているのだろうから、知らない場所よりは知ってる俺の部屋の方がマシってことなのだろう。別に王宮側に何の意図もなくただの善意なのだが、人間による事件の直後の事だ。良い人間も悪い人間もいるのは彼女も分かっているだろうが、頭で分かっていてもおいそれと納得できるもんじゃないはずだ。龍二のは多分ただプライベートゾーン入れたくないだけ。
流れる沈黙、空気が悪い、ものっそい悪い。さっきの俺殴りをお互いまだ引きずってんのか。しょうがない。誤解を解いておこう。……二人には仲悪くなって欲しくないし……。
「えーと、まず紹介の前に一言だけ。龍二、さっきはありがとな。メイリアも心配してくれてありがとう」
俺がそう言うと、二人は口を揃えてそんな感謝されるようなことは……と言った。こいつら、ひょっとして似てる?……それは置いといて。
「龍二のアレは、アレだろ。……えーとつまり俺を殴ったのは、身近な人間が一番怒ることで他の怒っている人間の溜飲を下げるみたいなアレだろ」
「それも少しだけな。それよりも普通にムカついてた。身内の恥が」
あ、そうですか……。俺が百悪いから何も言い返せないけどさぁ……。
「メイリアもあんま怒んないでさ。仲良く行こうぜ」
「身内の恥って、そんな言い方ある?……確かにあの場面じゃ龍一の弟は正しいことをしたんだと思うわ。でも、龍一が捕まったお陰で私もあの子達も集落も救われた。それに私、知っちゃったから。これじゃ龍一があまりに……」
「それでもこの馬鹿が皆に迷惑をかけたのは事実だ」
駄目か。軽く宥めたくらいじゃ止まんないわコレ。長老は黙ってるし。私のために争わないで!……冗談は置いといてだ。
メイリアの続く言葉を俺は解っていた。メイリアもあえて止めたのだろう。彼女なら可哀想とかもう少し優しい言い回しだったと思うが……続く言葉は”滑稽“だろう。劣等感を持つ相手、弟に殴られ、侮蔑される。それでも本人は笑ってありがとうと言う。確かに端から見たら滑稽そのものだろう。だけど、今回の件は龍二が正しい。すべて俺の危機管理能力不足が生んだ事件だから。全て俺の自業自得だ。
「それでも良いんだよ、俺は。俺のせいだしな。……そんな事よりまずはコレ、イェーイ自己紹介ターイム!!そこの異邦人からどうぞ!!」
暗い話題はおしまいと無理やりテンションを上げ他の話題に移す。自己紹介もまだなのにいがみ合っても仕方ない。主にメイリアな。お互いの身分と置かれている状況、今ここに至る経緯そういうのを知ってからだ。それでも気に食わないってんなら止めないけど、この二人はそういうタイプじゃない。
俺から見て二人の相性は悪くない。だけど第一印象は最悪だろう。だからこそ、お互い本音で話し合えば仲良くなれると俺は信じている。
弟の異世界転移に巻き込まれました BES @bes000
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