第4話 競技場と模擬戦の相手
大騒ぎの着任式の後は例の模擬戦が執り行われる。大きな校庭。いや、コロシアムと呼ぶべき円形の競技場がエリンジュ―ムを待っていた。ぞくぞくと上階の席には人が集まり始めている。
「いやー、実に立派な闘技場じゃあないですか。白熱の試合に狂気を向ける。あそこの客席から見るここはさぞかし面白いことでしょうね」
青髪の青年は皮肉たっぷりに指をさす。
「ルガー、ここは神聖な場所です。生徒たちの実習や披露の場として使われるここを血生臭い場所には例えないでください」
「ハッ、それは失礼いたしました。ですが、私は主を見世物として扱うこの状況が気に食わないものでして」
「本当にそう思ってます?」
エリンはいつもの通り、ルガティに調子を狂わせられている。そんな二人の前から誰かがスタスタと歩いてくる。
「初めまして、付与魔法科のイーチ・ウォルリスと申します。この度はかの森の猫様と一戦交えることができるなど私奴は幸運でございます」
カシャリと鳴らしながらエリンの前に跪いたのは、藤紫色の髪の青年であった。
「──ぼ、防衛魔法科のエ、エリンジュームです。こちらこそよろしくお願いします」
エリンは姿勢を低くする彼と同じぐらい頭を下げる。腰が低すぎる主を見てルガティは「おいおい、対戦前に相手の視察とは随分と舐められたもんだなァ」と治安が悪い野次を飛ばす。
「眷属様。視察だなんて滅相もございません。私奴は猫様へ敬意を示したまでです。長居をするつもりはありません。では後ほど」
整然と言葉を並べる彼の姿は、纏った騎士装束と相まって高貴に満ち溢れていた。自分の眷属の無礼を慌てて謝罪するエリンに彼はさわやかな笑みで答えると、その場から立ち去って行った。
「どうして貴方はあの先生のように真っすぐになれないのでしょうね」
「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、それは主の眷属だからではないでしょうか?」
「はぁ⁉ 言ってくれますね、私がひねくれていると‼」
ルガティはぷりぷりとする主を見て心底嬉しそうに笑った。
♦
競技場の正面。ガラス張りの特等席には学長と男が座っている。学長は紙面を見ながら白髭を触っているが、二人の間には何やら重たい空気が流れているようだ。
「対戦相手を用意したのはお主じゃな」
「はい。先生の実力を示すには相応しい相手かと」
「防衛魔法に付与魔法をぶつけるとは。いささか感心できる行為とは思えんな」
「はて、何のことでしょうか」
分かりやすくとぼける男に対して学長は「まぁよいわ!」と笑って見せた。
「だが、副学長。一つだけ言っておくことがあるぞい」
学長は閉じた瞼を大きく開ける。ぎょろりとした瞳で副学長を見ると、言葉を続けた。
「彼女の魔法を見たことがないような若造に寝首をかかれるほど、儂は老いぶれたつもりはないぞ」
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