第19話:MINIMI機関銃
それに気がついたのはケダマが先だった。突然、森の奥の方を見て、うなり始めたのだ。
「ケダマ?」
どうしたのと聞こうと思ったが、すぐに考えを改めた。低い姿勢で警戒の体勢だったからだ。
「敵か!」
どうやら先程の私の悲鳴を聞いて魔物が集まってきているらしい。この近辺だとゴブリンかと当たりをつけて装備を整えることを考える。
「くっそ!」
私はまず、応急処置を施すことにした。ポーションを取り出して傷口に塗り込んだのだ。
「いっづぅ」
かなり染みるが文句も言っていられない。次にもう一本のポーションを飲む。こちらは回復を手助けしてくれる物だ。
「うぅ。まっずぅい」
現状できることをした私はショップを開いた。この状況で手にとったのは5.56ミリ機関銃MINIMIという陸上自衛隊で運用されている銃だ。大盤振る舞い。ポイントが一気に減ったが、今の状況は、そんな事を気にしていられないほどヤバい状況だ。自分の命がかかっているのにケチケチしては居られない。
「頼むよMINIMIちゃん」
こうして迎え撃つ準備を整えた私は5.56ミリ機関銃MINIMIの二脚を下ろし、腹ばいになって、怪我をした足を後方へと投げ出す。そうして森の奥からやって来るゴブリンを待った。筋力極振りのこの身体なら銃の反動を抑え込めるはずだ。
そして私はゴブリンを見た瞬間に掃射を始めたのだった。
ダダダダダダと重厚な音が森に響く。草木が飛び散り、その合間に紫色をした血と肉も飛び散る。ひたすらに攻撃。数は減らしているようだが、続々と敵が集まってきているようだ。恐らく発砲音に反応しているのだろう。しかしそれでもしばらく続けていると、敵の圧力がやんだ。
しばらく発泡を止めて様子を窺っていると、ゴブリンが散り散りに逃げていく姿が見えた。逃げるという選択をする程度の知能があることにホッと胸をなでおろす。
「さて、帰るか」
私は5.56ミリ機関銃MINIMIをショップにしまい、周囲を警戒しながら帰路につく。
さすがにゴブリンの死体を回収する余力はなかった。
※
※
※
私が街に到着しときには既にあたりは暗くなっていた。
「疲れた……」
冒険者ギルドに寄っていく気力のなかった私は、そのまま宿へと帰った。宿の井戸の前で、水を飲み、部屋に戻って着替えだけして、そのままベッドに突っ伏して寝たのだった。
翌日は昼過ぎまで寝た。
昼をかなり回った頃に起き出した私は、宿の丁稚にお湯を頼む。
お湯を待っている間に昼食を済ませて、お風呂に入る。血のついた服は捨て、ポーションを飲んで、またもう一眠り。
次に目が覚めたのは夜中だった。
しかしこの時間帯は宿の食堂はやっていないので、外出をすることにする。
二十四時間営業の酒場があるのだ。ナイフとハンドガンだけを腰に挿してフラフラとした足取りで、外に出る。当然ケダマも一緒だ。足元をチャカチャカと付いて来る。
私は酒場に行く途中で溜め息を吐いた。
「はぁ、さすがに今回はやばかった。ね。ケダマ」
「わう」
「まさか罠を仕掛けられるとは思わなかったよ」
「わう」
「やっぱあいつが仕掛けたんだろうね」
「わう」
「でも、証拠があるわけでなし…… どうしよっか?」
「くぅ?」
そんな会話を交わしている間に酒場に到着だ。夜の暗闇の中で明々と明かりが灯っている様は、まるでコンビニのようだ。私は中へと入る。
「へい、らっしゃい」
何時ものオヤジの元気な声。私はカウンター席へと向かった。そこでハチミツ酒と串焼き肉とシチューとパンをオーダー。ガッツリと食べる。するとそんな私の隣に腰を下ろす人物がいた。
「よぅ。コウメちゃん」
私が視線を向けると、そこに居たのは男だ。髪の色は茶色で、瞳の色も茶色。容姿は何処にでも居そうな特徴の無い容姿をしている。
「えっと、確かイーサン・バレットだっけ? 情報屋の……」
一応、私の知り合いだ。確か情報屋をしていたはずだ。情報屋。またの名をチクリ屋イーサンとも言われていたはずだ。
「うん。そう。そのイーサンだ チョット一緒に飲まないか?」
「うん。良いけど…… 何か用?」
「うん。まぁその辺の話は、ぼちぼち話すとして、最近どう?」
その、まるで何か有っただろと言わんばかりの言葉に、私が警戒する。その私の緊張が伝わったのか足元のケダマが顔を上げた。私は努めて冷静に答える。
「……まぁ、別に?」
「へぇ?」
「……」
私が沈黙する。つい昨日、罠に嵌められたばかりなのだ。どうしても警戒心が先にくる。そんな私を面白そうに見ているイーサンだったが、このままじゃ埒が明かないと判断したのだろう。持ち札を切ってきた。
「実はな、とある情報が入っているんだ」
「……」
「正確には君の情報を欲しがっていた人物がいたんだ」
「……その情報。幾らで売ってくれるの?」
「うん。これでどうかな?」
そう言って男が値段を示した。私はその額を支払う。イーサンは支払われた金額を確かめてから話し始めた。
「その人物の名前はレムダ・ガレンス。黒目黒髪の男だ。先日、冒険者ギルドで君と揉めた男だね」
「……それで?」
「うん。ここからは更に有料」
「幾ら?」
「うぅん。お金もいいけど情報が欲しいな」
「どんな?」
「君の武器に関して」
「何が知りたいの?」
「うん。射程距離とか威力とかそういうの」
私は少し考えて銃に関して話した。ただし全てではなくごく一部を。しかしイーサンはそれに気が付くことなく私の話した内容を対価として受け取った。
「さて、それじゃあ続きを話そう」
そう言ってイーサンが話した内容は、実に今回の件そのものだった。
「レムダはまず君のよく行く狩場を調べた。次に古道具屋で何本か返しの付いた杭を購入しているね」
私はそれで確信した。今回の件は、やはりあの男だったかと。思わず溜め息を吐く。
「そこまでするか!」
「まぁ面子をまるまる潰しちゃったからなぁ」
「うっさい。それは向こうが絡んで来たらからだろ。逆恨みもいいとこだ!」
私の言葉にイーサンは肩を竦めた。
「まぁそういうわけだから。コウメちゃん。しばらく気をつけなね?」
「ん。あんがと。情報、助かったよ」
少し釈然としないが、それでも助かったのは事実だ。私が、お礼を言うとイーサンは立ち上がった。
「ここの勘定も任せていいかな?」
「うん」
「ありがと」
そう言ってイーサンは去っていった。その様子を見ていた私はポツリと呟いた。
「さて、どうしてくれよう」
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