第15話:一騒動
はじめてのお仕事から一ヶ月が経った。
私は色々と頑張った。
庭の草むしりから、井戸や煙突の掃除。洗濯や厨房の手伝い。時には食堂の給仕なんてのもやった。
ちなみにそれらの仕事では生活が成り立たなかったので、こっそり東の森でゴブリン狩りにも勤しんだ。
ゴブリンを狩って、そのキャッシュでククリナイフを購入して、古道具屋に転売するのだ。
これで贅沢をしないまでも、そこそこの生活が出来るようになった。
「それにしても森にはゴブリンが大量だね」
そう、ゴブリンと結構な頻度で遭遇する。
そのせいというか、そのおかげでというか。ギルドには常時依頼としてゴブリン退治が加えられていた。
私が不思議に思ってギルド職員に聞いた所、恐らく森の何処かにゴブリンが集落を作っている可能性があるとのことだった。
「コウメちゃん? 間違ってもゴブリンの巣に突撃とかしちゃ駄目よ?」
そう言って心配そうに注意をしてくれるのは、最初に受付をしてくれたメリス・ハーバー嬢。20歳だ。歳も近いことも会って何かと仲良くしてくれる職員さんだ。
私は気がつけば冒険者ギルドの看板娘…… というか名物娘になっていた。
「よう。コウメ」
「おーっす。クレアス。元気ぃ?」
「はは。お前ほどは元気じゃねぇが、まぁ元気だ」
「最近、見かけなかったけど、どこ行ってたの?」
「ん? あぁ、ここから三日ほど先にある迷宮都市までの護衛だな。ついでにダンジョンにも潜ってた」
「へー」
「そういやお前。鉄級は卒業したんだって?」
「うん! 今は銅級の星一つ。そういうクレアスは銀級の星三つなんでしょ?」
「おう。もうすぐ金級だな」
「ふぇぇ。凄いねぇ。出世頭なんだってね?」
「はは。らしいな」
そう言葉を交わしながらも、受付で護衛の依頼の完了印を貰っているクレアス。
「うぅん出世頭かぁ。今のうちに唾つけとこうかなぁ?」
「あっはっは。俺はお前見てぇな身体の起伏の乏しいガキにゃ興味ねぇよ!」
「ガキじゃないよ! これでも18歳だ!」
「はっは。なら、なおさらだ。成長の余地がねぇじゃねぇか」
私たちが、そんなお馬鹿な会話を交わしていると、後ろでバァンと大きな破壊音がした。
その場に居た全員が武器に軽く手を伸ばした。
どうやら、ご機嫌斜めな人間が居るらしい。
一人の痩せぎすな男が私とクレアスを睨みつけて因縁をつけてきた。
「ここはいつから、子供の遊び場になったんだ? あぁん?」
そう言って凄むが、私もクレアスも半笑いだ。足元に居るケダマは耳だけ男の方向けて眠りこけている。ちなみに男の言葉は、この場にいる誰もが似たような感想を持っているから否定の声は上がらない。
私が来てから、冒険者ギルドの雰囲気が変わったと言ったのは受付のメリスだ。
「おい! クソガキ!」
「ガキじゃないってば!」
「てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ」
「あぁ。はいはい。しおらしく、大人しくしてますぅ」
「うぜぇぞ!」
「皆はそうは思ってないみたいだよ? むしろあんたの方が迷惑? みたいな?」
私が挑発すると、男は毛を逆立てて向かってきた。と同時に私も踏み込み、男の股間を掴んで捻り上げた。私の身体の筋力値はそのへんの男の比じゃないぐらいに高い。
筋力値が高いのは腕力に限らない。足腰の筋力値も高いのだ。スピードも桁外れに早いのだよ。ふっふっふ。
「そっちこそ調子こいて馬鹿を言っていると、大事な息子を握りつぶしちゃうよ?」
男が小さく呻く。周りでは口笛が鳴った。
私はニヤニヤと笑いながら「離して下さい小梅様って言ったら許してあげる」と更に挑発する。男は抵抗しようとしたが、私が軽く力を込めると観念したように小さな声で懇願した。
「は、離して下さい…… コウメ、様……」
うん。私は大人しく手を離し、男を突き飛ばした。無様に地面に転がり、私を下から睨みつける男。それを見下ろす私。
完全に悪役だ。
ふはは。気持ちがいい!
「くそ!」
男は、そのまま何も言うことなく冒険者ギルドを後にしたのだった。
「なんなんだ?」
クレアスの言葉に私が何でも無いことのように答える。
「どうしても時々は居るよ。あぁいう人。まぁみんな最後は分かってくれるけどね?」
「はは。分かってくれるんじゃなくて、分からせているんだろ? おっかねぇなぁ」
そう言って笑うクレアスに私は、このあと一杯飲みに行かないかと誘う。
「ほぅ。酒が飲めるのか?」
「うん。ハチミツ酒とか果実酒だけだけどね」
「ほぅ。結構、金があるのな? エールのほうが安いだろ」
「そこはそれ。私には金の成る魔法があるの」
私の言葉に納得した様子を見せるクレアス。
「あのナイフか……」
「うん。そう言えばクレアスも、あのナイフ、買ったんだって?」
「あぁ。愛用してるぞ。お前の出したナイフ」
「きしし。結構、愛好家が居るんだってさ」
「らしいな」
そう会話をしながら、クレアスの仲間たちと酒場へと繰り出したのだった。
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