第4話
「ここが一般生徒が使う部屋だな。洗濯機、風呂は備え付けだ」
「おおー…」
通された部屋は、結構広い。ただの一学生に与えられる部屋にしては大きすぎる。
間取りは2LDK、もしこれが都内の賃貸なら高いところで2〜30万、安くても20万ほど。
それを月10万ほどで住まわせてもらえるなんて破格の待遇だ。
「自由に見てもいいですか?」
「ああ、私はラウンジで待っているから、見終わったら来てくれ」
「分かりました」
「はあー、やっとサボれる……んん゛っ、少し休憩しないとなぁ…教職は定額働かせ放題……」
今、まあまあ職務怠慢な発言が聞こえたが、それは置いておこう。
「……行ったかな。出てきていいよ」
僕が合図を出すと、体から水滴が垂れるように人影が生まれた。
「ふいー、やっぱりご主人の体は狭いのう…落ち着くんじゃがなぁ」
和服に身を包んだ少女が伸びをしてか細く声を上げる。
「
彼女が俺が契約してる霊刀の一柱。
「よいと思うぞ。何より個室が広いのが気に入った。いろいろなものが置けそうじゃ」
「あのよくわからないトーテムポールとかね」
僕は彼女の部屋に置いてあるどこで買ったのかわからない木塔を思い浮かべた。
「ご主人、台所に来てみろ!『あいらんど』だぞ!」
「何?」
いつの間にかキッチンに移動した僕はその設備に目を見開いた。
「アイランドキッチンに、複合IHクッキングヒーター、大容量冷蔵庫…高級マンションかなここは」
闘道に専念するために衣食住の十分な環境が整えられているようだ。
「いや…これはすごいぞ…」
思わず写真を撮って癒海さんに送る。お互い交代で料理を作っているので、この興奮は分かってくれるはずだ。
「ご主人ご主人、この箱みたいなのはなんじゃ?」
「ん?―――な、何!?」
天が何気なく部屋の隅に置かれた少し大きめの箱をつついた。
僕はそれに飛びつくと指を伸ばし、その滑らかな質感に、恐る恐る蓋を開けた。
「これは……間違いない」
「なんじゃ?そんなに貴重なものなのか?」
「最新型の全自動刀整備機だよ。これ一台で刀の手入れを全部やってくれるし、闘道に使うエーテルチップの調整もやってくれるんだ」
「ほーん、まあわしはそんな物必要ないがな」
「たしかにそうだけど、エーテルチップの調整機能はすごいありがたいよ。出力の調節とかはできないらしいんだけど、技の構成とかの変更が可能らしい」
これも写真に撮って癒海さんに送る。
「これ、自衛隊でも一人ひとりにこんな設備付けられないぞ…」
結構寮生活が楽しみになってきたな。
「天、物色終わった?」
「うむ。ご主人!わしはここが気に入ったぞ!」
「そっか」
「ご主人!ここにはいつ住めるようになるんじゃ?」
「すぐに手続きすれば来週くらいには入れるんじゃないかな」
「早う引っ越すぞ!」
「今いる家は癒海さんに任せることになりそうかな」
母さんにも、この部屋が気に入ったのでできるだけ早く引っ越せるように連絡しておく。
「天、戻って。ここに住むことが決まったなら、長居は無用だよ」
「了解じゃ、ご主人っ」
天が戻ったのを確認すると、僕は部屋を出て1階のロビーに戻った。そこには椅子に腰掛けて船を漕いでいる郡山先生の姿が。
さっきぼそっとサボれるとか言っていたが、本気で疲れていたのか。
AIの導入によってある程度教職の負担は緩和されたものの、未だに忙しいことに変わりはないらしい。
少しの間そのままにするか、それとも起こすかで多少逡巡したが、結局僕は後者を選択した。
「先生、起きてください」
「うぅ…」
肩を揺すってみるが、唸るだけで起きる気配がない。
「あの、先生?」
「あぁ……残業は嫌だぁ…残業は嫌だ…ぁ」
どうしよう、起こすのが忍びなくなってきた…
転入手続きとかは全部母さんがやってくれるらしいから、これ以上学院でなにかするというわけもないので放置してもいいのだが…
しかし、うなされているようだと休憩した心地がしないだろう。
――”
僕は腰に差した刀の鯉口を切る。
カチッと音が鳴り、同時に苦しんでいた先生の寝息が穏やかなものになった。
キンッと納刀を行った僕は、内見は完了し、特に不満はない旨をメモに残してその場を後にした。
途中、学院の図書館の前を通りかかったので、せっかくなので中に入ってみることにした。
『ご主人、帰らなくてよいのか?』
「せっかくだしどんな本があるのか見たくて……おっ、ふむふむ」
さすが闘道選手育成学校。闘道関連の書籍だけで壁一面埋め尽くされている。
そういえば具体的に闘道についての本はあまり読んだことがなかったな。
知識として一応知っているつもりだが、この機会に復習しておこう。
ルール違反をしてしまうかもしれない。
僕はここで『殺し合い』ではなく、スポーツとしての『斬り合い』をするのだから。
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