第3話
「…でっか…」
隼風学院の本校舎を見上げて僕はそう呟いた。
今までの僕の中の学校という規模感は、せいぜい小規模の自衛隊駐屯地くらいのものだと思っていた。
だが、眼の前にそびえる白い巨塔……いや、病院ではないが。スマホでこの学院の敷地面積について調べてみる。
「……5.5、平方、キロメートル…」
特に興味のない人はこの数字の凄さがわからないかもしれないが、自衛隊で最も広い航空基地、岩国基地の自衛隊の使用区域に匹敵する広さだ。
わかりやすい尺度で言うと、東京ドーム117個分くらいか?
何にせよ普通の高校が使う広さじゃない。
立地的には湾岸の埋め立てによってできた土地に建てているので、特に問題があるわけではないんだが。
ぼうっとそんな事を考えながら校舎を見上げながら正門を通ると、死角となっている場所から出てきた人にぶつかってしまった。
「わ、すみません」
「いえ、お気になさらず」
ぶつかってしまった少女はこちらを見ることなく去って行った。
『な〜にしておる、ご主人。学舎の威容に圧倒されたか?』
「…うるさいな」
頭に響く声に誤魔化しの声をあげた。
「えーっと、とりあえず職員室に行かないと」
職員室は校舎には行ってすぐのところにあり、用件を伝えると1人の先生が僕を学生寮に案内してくれた。
「闘道科の1年A組担任をしている、
郡山先生は気だるげに椅子に座ったまま挨拶をした。
「初めまして、碓氷朝火です。これからよろしくお願いします」
「おう、よろしく。じゃあ寮まで案内するから、着いてこい」
席を立ち、伸びをした郡山先生は、僕の前を通って寮まで先導してくれるようだ。大人しくついていくことにしよう。
寮に向かう道すがら、郡山先生がいくつか話題を振ってくれた。
「碓氷はどうしてこの学院に?」
「あれ、聞いてないんですか?」
僕は事前に考えていたカバーストーリーを話す。
「親と暮らしながら別の学校に通ってたんですけど、その両親が転勤することになってしまって。それで寮制があるこの学院に転校したんです」
「へえ、わざわざこの学校に?」
「まあ、一番良い所だったので」
「んな偏差値が高かったからみたいな…」
「でも、ここでなら最高の戦闘技術を学べますよね?」
「まあ、そうだが……碓氷は今のところ争奪戦に参加する気はあるか?」
「争奪戦?」
聞いたことのない単語に眉をひそめる。
「まさか知らないやつがいるとはな……いいか?」
僕が知らなかったことに余程驚いたらしく、説明を始めた。
「隼風学院の名前の由来は霊刀『隼風』から来ているというのは分かるな?」
霊刀――それは霊を宿した武具であり、同時に武具を宿した霊である。
有名なのは、
神代の時代から存在すると伝えられており、古事記などでは神槍、神剣、神刀などの形で記述されているが、実際の所それらに定まった形は無い。
契約者の魂に宿り、契約者の意のままに形が変わる。
隼風は天与五剣の次に格式の高い霊刀の一つとなっているはずだ。
「そうなんですね」
「知らなかったのか……まあいい。で、この学院は隼風と縁があるということから、隼風の契約者をウチで決めることができるんだ」
「へえ〜」
「全学年の闘道科に所属する生徒を巻き込んだトーナメントを行って、頂点に輝いた生徒が契約を行うことができる。このチャンスは数十年に一度、それが今年にあるんだ」
「へえ〜」
「……興味なさそうだな」
「いえ、面白いと思いますよ」
「で?挑戦するのか?」
「勝算があるならまあやってもいいかなと思いますけど……隼風の契約者なんてなったら目立ってしまうし、将来は自衛隊コースでしょう?だったらこだわらなくてもいいかな…」
僕の所属は自衛隊。それも存在しない部隊として扱われる秘密部隊なのだから比較的目立つことはしたくない。
「まあでも、今回の争奪戦は9割結果が決まっているとも言われていてな」
「そうなんですか?それほどの強者が?」
刀を嗜むものとして、強い人にはとても興味がある。
「2年に寵児が一人。そして今年はな、1年に風早のヤツが来てるんだ」
風早…
「…風早?」
パッと思い浮かぶ人にそんな人はいなかった。
「嘘だろお前。本当に闘道やってるのか?」
どうやら普通は知っていて当然の名前らしい。
「ああいや、待ってください……どこかで聞いたような気が…」
風早…かざはや……
「もしかして、自衛隊の祓除部隊のトップですか?」
思い当たったのは俺の母であり上司である碓氷陽灯の上官、
「ああ、あの人の娘だ」
「どんな人なんですか?」
「天才だ」
「天才」
俺はオウム返しで返答する。
「才色兼備、博学才穎、八面玲瓏…同じ女性のアタシでも嫉妬しちまうくらい顔が整ってて、強い」
「強い」
「あいつは同世代の中でも段違いに『読み』の能力が高い。記憶力もいいな。相手の手を記憶し、長期戦になればなるほど相手が不利になる」
「嫌なタイプですね。もちろん闘う相手として」
「ちなみにヤツの得物は大太刀だ」
「大太刀?確認しますけど、女の子、なんですよね?」
「ああ、そこも彼女が天才である点の一つ。体格は小柄ながら、振り回されること無く4尺(1.2m)の大太刀を軽々振ってみせる」
「それはおっかないですね」
「……さて、着いたぞ。ここが隼風学院の闘道科生徒が住む寮、
「ここが……」
思わず見上げる。その寮は、高さが約60mはあるだろうか。
「『館』で収まる大きさですかね…?」
「アタシもそう思う。もうこれタワマンだよな。羨ましい」
「しかもさっき、闘道科生徒が住むっていいました?これがもう2つあると?」
「ああ、鍛冶科が住む
「だとしても大きいですね……」
この学院がどれだけ生徒の育成に力を入れているか、それを実感した。
「じゃあ、内見に行くが、準備はいいか?」
「はい」
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