第2話
僕は本部からの帰宅中に、送られてきた今回の長期休暇に関する資料のデータに目を通していた。
「まず、隼風学院ってなんなんだ?」
名前は聞くが興味を持って調べたことはない。そういえば霊刀科に新しく配属される自衛隊員の出身校が隼風学院だった気がする。
携帯の画面を下にスワイプしていくと、隼風学院のURLが貼られていたので、そこからサイトに飛ぶ。
隼風学院。主に首都圏の優秀な霊刀選手や鍛冶師を集め、霊力、作刀の扱いを学び、育成を目的とする私立学院。
学院内部は主に3つの学科で構成されている。
霊刀や霊力を扱い、「闘道」の選手として腕を磨き自衛隊またはプロの闘道選手として活躍するために通う「闘道科」。
霊刀や霊力の使用に必要不可欠な刀を作る「鍛冶科」。
そしてそれ以外の闘道の運営やサポートを行う人が通う「普通科」。
今回、僕が編入になるのは闘道科の特進クラス、らしい。
「関東最高峰の育成学校…ねぇ」
正直あまり乗り気ではない。今の仕事が好きだし、その生きがいとも言える家業から離れるのはとても辛いことだ。こういうのをワーカホリックというらしいが、ワーカーホリックは趣味や健康よりも仕事を優先する人のことで、僕は趣味が仕事で仕事をするために健康を維持しているから少し違う、はずだ。
「それはまずいのだろうか…?」
喜んで働いているから精神的にも肉体的にも何ら問題はないと思う。
「ただ、友だちを作ってもなぁ…」
正直、「新月」として働いていると特定の人物と長期間に渡って関わることがあまりない。精々新月の同僚達と話すくらい。
任務が始まれば様々な場所に潜入して、色々な人と関わる事があるが、その人達も「裏」の人間。その場限りの関係性に過ぎない。
今後も新月として動いていくのなら、むしろ強固な関係性は任務を遂行するうえで
幼少期より血と汗と涙と争いと死にまみれてきた僕とて、感情はあるのだ。情の念が任務に支障をきたしてしまうかも知れない。
もちろん、友達というものに一定以上の興味はある。
というのも、僕の同僚は全員僕よりも年上の人達は、休みが出来ると学生時代の友人たちと飲みに行く。
『坊にも友人ができたら無性に会いたくなるぞ。友人と酌み交わす酒ほどうまいものはないからな!』
そういって『
その表情は道ですれ違う子供が泣き出してしまうほどの強面とは思えないほど喜んでいた。そう考えると友達というものもやはり必要なのかも知れない。
うん、前向きに考えても良いかも。
そう考えをまとめると、ちょうど僕の住まいである一軒家に到着した。
電子錠を端末から解除して扉を開ける。
「ただい――」
「おかえりなさい朝火君。少し遅かったですね」
僕がただいまを言い終わる前に、玄関に立っていた女性が出迎えてくれた。
幼少期の頃に僕の世話役として一緒に暮らしている人だ。僕の一つ上の17歳だが、とても落ち着き払っていて頼りになる姉のような存在。
数年前に家族と呼べる子が増えてからはその子の面倒も見てくれるようになって、本当に頭が上がらない。
「ただいま、癒海さん。あの子は…もう寝てるかな?」
「ふふ、『ご主人が帰ってくるまで絶対に起きてる!』って息巻いてたんですけど、さっき寝てしまって」
「そっか、それは残念」
「私も行かなくて大丈夫でしたか?」
「うん、1撃分しか使わなかったし」
そうだ、一応休暇のことはすぐに伝えておかないとな。
「癒海さん、少しお話があるんだ。どうやら僕はしばらく休暇をいただくことになったみたい」
「おや、それは…どういった経緯で?」
「うん。癒海さんにも考えてほしいから詳しく話すよ」
そう言って僕は刀を部屋に片付け、リビングに戻り癒海さんに事のあらましを伝えた。
「なるほど〜。たしかに朝火君は同年代のお友達がほとんどいませんからね」
「笑顔で言うのやめてよ。結構傷つくんだから」
「…私は賛成ですよ。朝火くんは今までずっと頑張ってきたんですから、そう言ったご褒美があってもいいと思います」
「そう言ってくれると嬉しいよ…あとはあの子のことなんだけど…」
今は既に眠りに落ちているもう一人の同居人はもしかしたら駄々をこねるかも知れない。
「大丈夫ですよ。朝火君が決めたことはちゃんと尊重してくれます。きっと受け入れてくれますよ」
「そうかな。だと良いんだけど」
「また明日、みんなで話し合いましょう。確か隼風学院は全寮制ですから、早めに下見に行かないとですね」
「うん、僕ももう寝るよ。おやすみなさい」
「おやすみなさい朝火君」
そうして俺は自分の部屋に戻って眠りについた。
なお翌日、もう一人の同居人から散々駄々をこねられたものの、寮で一緒に暮らせるように母さんに話をつけてもらうことになった。あの人も仕事で忙しいのに迷惑をかけて申し訳ない。
刀を差し、動きやすいリュックサックを背負って玄関に出る。
「じゃあ癒海さん、行ってきます。夕方には戻ると思うので」
「はい。気をつけていってらっしゃい」
数日後、朝早くから僕は寮の下見をしに家を出るのだった。
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