011

やがて目の前には目にも鮮やかな八寸やお造りなどが次々と運ばれてきた。それらを眺めながら二人はどうにか心を落ちつかせる。


「食前酒がついているけど、お酒は飲めた? 成人は……しているよね?」


「はい、大丈夫です。……えっと、今さらですけど自己紹介しますね。矢田陽茉莉、二十六歳です。レトワールという洋菓子店で働いています。趣味はお菓子作りとお散歩です」


「ぷっ、なんかお見合いみたいな紹介の仕方」


「はっ、はわわっ。ち、ちがっ、そういうんじゃなくて……」


「わかってる、わかってる」


亮平はくっくっと笑いながら食前酒を手に取る。

陽茉莉も慌ててグラスを持った。


「じゃあ、二人の出会いに乾杯」


カチン、とグラスの交わる高い音が響いた。

亮平が口を付けたのを見て、陽茉莉もコクリと一口味わう。

芳醇な香りがふわりと鼻を抜け、すっきりとした味わいが喉を通っていった。


「うわぁ、美味しいっ」


「よかった。料理も絶品だから冷めないうちにどうぞ」


「はい、いただきます」


どれから食べようか迷ってしまうほどいろいろな料理が少しずつ盛りつけられている。

ひとくち口に入れれば、これまたほっぺたが落ちそうなほど美味しくて、陽茉莉はまたニコニコと頬を押さえた。

そんな様子を、亮平は優しいまなざしで見つめる。


「どうしました?」


「いや。俺も改めて自己紹介をしようかな。水瀬亮平、三十歳です。水瀬データファイナンスの代表取締役をしています。趣味は……うーん、筋トレかな?」


「……お見合いみたいです」


「だよね」


二人はふふっと笑い合う。


「まあ、本物のお見合いはしたことないですけど」


「そう? じゃあ今日が初めてのお見合いというわけだ」


陽茉莉はキョトンとする。

けれどすぐに亮平の冗談だと納得し、口を尖らせた。亮平でもそんな冗談を言うんだと思うとなんだかまた嬉しい気持ちになる。


「これ、お見合いなんですか?」


冗談を冗談で返したつもりだった。

そんなわけないだろうと、そんな答えが返ってくると想像していたのに――。


「俺はそれでもいいけど?」


しれっと言ってのけるので陽茉莉は一瞬息をすることを忘れる。


「ぐっ、げっほっ」


「大丈夫?」


「み、みみみ、水瀬さんが変なこと言うから」


「俺は真面目に言っただけなんだけど……。それだけ俺は君のことを気に入ったというだけだよ」


甘く微笑まれ、陽茉莉は顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。

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