第124話 喧嘩
「痛ったぁ……なんなの、アイツ……」
文句を言いながら起き上がる相手に対し、此方は静かに剣を抜き放った。
『マスター、計画では……』
「分かってる。分かってるけど、ごめん」
それだけ言って、escapeに付与されたステルスを解除した。
急に目の前に現れた私に対して、ピンク色の鎧を着た相手は非常に驚いた様子を見せるが。
「霧島、雫ちゃんだよね」
「大葉、理沙……」
声を掛けてみれば、彼女は非常に強い敵意を向けて来た。
彼女にとっては、私が雫ちゃんの姉……茜を奪った存在と認識しているみたいだし。
当然と言えば当然なのだろう。
「勝負、しよっか」
「は?」
剣を構えみれば、彼女は一瞬だけ呆けた様な声を上げたが。
それでも次の瞬間には以前同様兎型のマスコットを武装し始める。
普通だったら、絶対敵わない相手。
相手は賞金首だし、私は一般プレイヤー。
でも、今だけは。
この子だけは、私が戦わないと。
「負けないよ。私は茜を助ける為にRedoプレイヤーになったの、あの子の守りたかったモノが目の前にあるのに、無視できる訳ないよね」
「何を、偉そうに……」
これは、黒獣が与えてくれたチャンス。
多分私は、この子を見捨ててしまったら人間としてもプレイヤーとしても全てを失う事になる。
だからこそ、例え相手に今恨まれていたとしても。
「絶対に、助けるから」
「……訳わかんないんだよ、お前。本当に意味分かんないんだよ!」
彼女の悲鳴と共に、ミサイルが飛んで来る。
あんなのに当たったら、一発でも死んでしまいそうだ。
それくらいの脅威を感じる、圧倒的な実力差を感じる。
でも、それでも。
私は、私だからこそ挑まなくてはいけない。
「リズ! スキル!」
『“時を駆ける者”を使用します』
一気に加速し、相手の攻撃を避けながら接近する。
そのまま攻撃を仕掛けても、当然効かない。
ガツンッと金属同士のぶつかる音が響くだけで、相手は怯みさえしない。
分かっていたんだ、こんな事。
私の刃じゃ、相手に傷を付ける事も出来ない。
だってfortの攻撃だって通らなかった程の相手だ。
次元が違う所の話じゃない。
だからこそ、いくら攻撃しようと無意味。
それでも、十分なのだ。
だってこれは。
「“喧嘩”しよう! 雫ちゃん! 思ってる事全部ぶつけ合って、気が済むまで殴り合おう!」
「ふざけんなクソビッチが! さっさと死ねぇ!」
銃火器を連射してくる相手に対し、此方は回避を続けながら無意味な斬撃を相手に叩きつける。
いくら斬っても、いくらぶつけても通らない。
この非力さが、今までは悔しかった。
いくらやっても勝てない状況が、悲しかった。
でも、今だけは。
「ホラどうしたの!? 全然当たらないよ!」
「チョロチョロと鬱陶しい!」
友達の妹を傷つけずに済む。
私の攻撃じゃ、相手は怪我をしない。
分かっているからこそ、存分に打ち込める。
それだけで、私の生き方にも意味があった様に感じるのだから不思議なものだ。
「茜は違ったよ! 何にも無くて、圧倒出来るソレが無くて。でも最後まで戦った! 助けを求めるくらいに追い込まれていたのに、最後には私の事を助けてくれた!」
「うるさいうるさいうるさい! お前が姉さんを語るな!」
「じゃぁ誰が語るの!? 貴方のお姉さんは誰よりも“普通”を貫いた、凄いプレイヤーなんだよ!? こんな世界に踏み込んでも、武器を手に取らない人だった! 誰かを傷付けるのが怖くて、自分が傷つくのも怖くて。それでも戦った凄いプレイヤーなんだよ!? 私は、そんな彼女に呼ばれてRedoに参加した。誰よりも平和的に、貴方達を救おうとしたプレイヤーが助けを求めた相手。だったら、その意思を私は継ぐよ! 私は、誰も殺さない!」
「ふざけるな! お前のせいで姉さんは! お前が巻き込んだんだろうが!」
「誰がそんな事を言ったの!? それは雫ちゃんのお姉さんの言葉以上に信用出来る情報なの!? いい加減現実を見て! 私も向き合うから、悲しい過去から目を逸らさないで!」
ガツガツと相手の鎧に剣をぶつけながら、どんどんと間合いを詰めていく。
既に相手はマスコット兎を使える距離を保てず、本人の防御力のみで私の攻撃に耐えている状態。
すぐそこに迫る相手の兜を覗き込みながら。
「茜はね……君にまで戦って欲しいと望む人じゃなかったよ。最後まで家族の心配をして、私の心配をして。謝って、最後には私に“逃げて”って叫ぶ様な人だったんだよ」
「う、るさい……結局お前は……」
「そう、逃げたんだよ。茜の言葉に従って、戦場から逃げた。だからこそ私は今ここに居る。物凄く卑怯で、弱虫な私がココに居る。貴方に恨まれても仕方ない、そう言う意味でなら存分に恨んで。でも逃げ出した私を見送る茜は……笑ってたんだ! “ごめんね”って言いながら、逃げる選択をした私みたいなのにも笑ってくれたんだ! だからあの子を否定する様な行動は、絶対にしたくない!」
『スキル、“九連突き”を発動します』
リズの言葉と共に、相手の鎧に剣先を叩き込んだ。
しかし、ほんの少しの傷が残る程度でろくなダメージにはなっていない。
最初から分かっていた事だ。
私では、この子に勝てない。
でも、止めない。
止まっちゃいけない。
「お願いだから、目を覚まして! 貴女のお姉さんは、簡単に屈する事のなかったプレイヤーだよ!? Queenから何を言われたか知らないけど、現実を見て! 雫ちゃんのお姉ちゃんは、他者が貶めて良い存在じゃない! あの子は私以上にRedoを否定していた! そんなお姉ちゃんを慕うのなら、いい加減現実を見ろ!」
あるもの全てを使いながら、私“RISA”というプレイヤーは。
全力で“rabbit”という賞金首に攻撃を叩き込むのであった。
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