第75話 Redoの亡霊
『んで、在庫が少なくなって帰って来た訳だ』
「道具をポンポン使い過ぎなんだよなぁ……いや、俺なんだけどさ。俺なんだけどもさ」
その日の夜、escapeと通話を繋ぎながら思い切り溜息を溢していた。
結局あの意味の分からないプレイヤーとの対決は、道具を消耗しただけに終わった。
そもそも対戦を申し込まれた訳でも、申し込んだ訳でもないので戦績によるポイントは発生せず。
相手を殺してしまえば奪えるが、それ以外は本当にただ道端で喧嘩して来ただけの様な状態だ。
そんでもって鉄球やらバールやらをぶん投げ、相手にスキルを使わせた後。
追撃として数発は攻撃を叩き込む事は出来たが……とてもではないが倒し切れる気配は無かった。
状況を懇切丁寧にリユが怒鳴りながら説明した辺りで、俺は……というかスクリーマーがと言った方が良いのだろうが。
「あぁぁったく、うるせぇうるせぇ。分かったよ、戻れば良いんだろ戻れば。じゃぁな侍人形、また遊ぼうぜ」
という、物凄くダルそうな声を上げてからログアウトするという結果に終わった。
向こうもすぐさまログアウトすれば、お互いに身バレが発生していただろうに。
しばらく待ってもあのプレイヤーは、戦闘の申請をして来る事も無ければ“リアル”の方に姿を現す事も無かった。
「どう思う? アレだけ強いんだ、アレも賞金首か?」
流石に気疲れというか、今でもゾワゾワと嫌な感覚が肌に残っている様で。
気を紛らわす為にも缶酎ハイを開けてみれば。
『以前リユには伝えたんだけど、聞いてない? Redoの世界から帰って来なくなったプレイヤーの話』
「あぁ~アレか。少しだけ聞いたよ、なんでもログアウトせず未だに“狩人”を続けているんだって? 俺も気を付けろって言われたけど」
結構前の事に感じられるが、確か
その後リユの妄想話と、escapeの調査結果によって世界その物が~という壮大なスケールのお話になったと言う事は記憶しているが。
実際の所、そっちの話は未だに調査は進んでおらず。
今通話中のescapeからも、何の報告も上がって来ていないのが現状と言う訳だ。
『そう、それそれ。実際に居るんだよ、そういうプレイヤー。直近で言うと二十年近く前かな』
「直近という割に、結構前なんだな」
『それだけRedoプレイヤーの生存率が低いと言う事さ、こういう化け物を除いてね?』
そんな事を言いながら、彼が説明してくれた内容は。
なんでも相手は、ゲームに参加している時だけ別人の様に人格が変わったそうだ。
まるで俺のスクリーマーの様だと思ってしまうが、その人物は此方とは真逆だったという。
普段は結構な荒くれ者と言って良い性格だったのに、ゲーム内ではかなり情に厚い人物になるというか。
とにかく、殺人に対して抵抗が無くなった人物ばかりを狩っていたらしい。
乱入、もしくは勝負を受ける事はしても相手によっては見逃す事もしばしば。
何より“強襲”によって、被害にあっている人物を助けるような動きを多く見せていたらしい。
つまり、条件付けはほぼ俺と同じ。
しかしながら情報自体が古いから、全てが本当だったのかは不明だと釘を刺されたが。
『あまりにもリアルとRedoで性格がかけ離れていたのは確かみたいだ。その結果、ソイツは帰って来なくなった』
「死んだ訳ではなく、Redoからって事だったよな? 実際そんな事が可能なのか?」
未だに確信が持てないと言うか、疑う他無い情報な訳だが。
『自ら試そうとする物好きはほとんどいないから、不明としか答えられないけど。しかしながら片足突っ込んでいるのは居たね、以前相手したiris。彼女はかなりの時間をRedoで過ごしていたけど、生活に支障を来していなかった。そして何より、実例として“狩人”なんて呼ばれている賞金首も、事実アンタの瞳で確認しただろう? その名も』
プレイヤーネーム、
リアルの方に帰って来る事を止めた、殺人を肯定するプレイヤーのみを狩るプレデター。
いつか俺もあぁなるのではないかと危惧された代表例。
そんな奴と今日、俺は遭遇した。
「この辺のプレイヤーだったのか? nagumoって奴は」
『いいや、元々は南の方のプレイヤーだね。それこそ、前は九州の方で多くログが残ってる。本名は“
「ハハッ、俺なんかまさに格好の獲物って事だな。でも何故、こんな所まで足を延ばしたんだ?」
彼がプレイヤーに変わり、二十年も経ったと言うのなら色々と道路整備も交通手段も進化した筈だ。
その為此方に引っ越して来たと言うのなら話は分かるが、相手はRedoにログインしたままだという。
だとすると、あまり辻褄が合わないと言うか。
『非常に原始的であり、fortと同じ理由だと思うよ。
「つまり?」
『最終ログでは九州からこっちに渡った先でログインした形跡もある。つまり、相手も獲物を求めて新天地を目指したって訳さ。この場合は、当人の意志でね? そして彼は、倒すべき相手を狩りながら徒歩でここまで辿り着いた可能性もある』
「ハハッ……ハハ。日本中の罪人を狩りつくしながら関東まで来るのに、二十年ってか?」
『ま、全員を狩れる訳でも無し。さらにプレイヤーは増え続けているからね、あり得ない話じゃない』
ほんと、笑えない冗談だよ。
乾いた笑い声を上げながら、缶酎ハイを呷ってみれば。
『ちなみに相手を探知出来ない理由も、未だ不明と答えるしかない。そして今でもアンタの“感覚”が警告しているのなら……案外、まだ近くに居るんじゃないか?』
マジで、勘弁してくれ。
幽霊か何かに憑りつかれた気分だ。
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