第28話 抜け出せない


「なんというか、凄いなコレは」


『いやぁ、便利ですねぇescapeエスケープのスキルは。これなら確かに、Redoで敵なしになる訳です。そもそも勝てそうにない相手と戦わなければ良いだけですから』


 リユとそんな言葉を交わしながら、escapeと名乗る相手から貰った膨大な情報に目を通していく。

 それどころか、こちらの端末と一部リンクしたらしくマップ機能が新しくなっていた。

 今まで見る事の出来なかった距離まで探知出来るし、プレイヤーの位置まで表示されている。

 更には、相手の情報まで閲覧可能と来た。

 コイツはビックリだ。

 リアルの個人情報などは彼自身が詳しく調べているらしく、ネットを使わない人間以外なら大体調べられるとの事。

 ネット検索の履歴すら引っ張って来られる上、ネット契約主の名前やら生年月日やら。

 関係者も芋づる式に調べ上げ、現在に至るまでどんな人物なのかも大体把握出来ると言っていた。

 調べて欲しい人がいれば、その都度声を掛けてくれと。

 正直、敵に回したくない人物ナンバーワン。


『いつ連絡してもすぐ返事が来るのも良いですね、暇な時にはゲームでも誘ってみましょうか』


「流石にそれは迷惑だろ……」


 溜息をついてから、彼にお礼のメッセージを送る。

 すると、やはりと言うか何というか。

 数秒と経たない内に返事が送られて来た。


『相変わらずリアルだと性格違うよね、ウケるww』


 こ、こいつ……。

 彼も俺なんかより若い世代だろうから仕方ないんだろうが、wをいっぱいつけるんじゃない。

 妙に煽られている気分になるので是非止めて頂きたい。


「そっちもですね、っと。送信」


『マスターとは真逆のタイプでしたねぇ、彼。というかパーティチャット開いてから、白いJKちゃん黙っちゃったじゃないですか。きっと野郎同士の会話だけじゃつまんないですよ、もっと楽しく話題を振ってあげないと』


「言い方。まぁ相手は学生なんだから、話し辛いってのもあるんだろ。それに俺達二人は賞金首なんだ、あまり気楽に絡んでも困らせるだけだ。というか迷惑が掛かる可能性の方が高いだろ、なるべくソッとしておいてやろう」


『そういう理由だったらまだ良いんですけどねぇ、単純に困惑してるんじゃないですか?』


 やけに意味深な台詞を吐くリユが遠隔操作で俺のスマホを勝手に起動してから、これまた勝手にアプリをつけて遊び始めてしまった。

 マップやら何やらは勝手に見ろ、ということなのだろうか。

 まぁ別に良いけど。


「しかしどうするかな……彼が用意してくれたスキルやら能力値のリスト、かなり多いぞ。irisアイリスの方も最近はそこまで大きく動いていない様だけど……もう一度戦う前に出来る限りは準備しておきたいしなぁ」


『別に全部のスキルを習得しろとは言われていませんし、あったらもっと楽になるよ? くらいで考えて良いんじゃないですか? 今のままでも、確率で言えばマスターの勝率の方が圧倒的に高い訳ですし』


「それでも万が一って事があるだろ。というかリユだって似たような事言ってた訳だし、今更投げやりな意見に変えるなよ」


『でもマスターの運の無さを目の当たりにしたら、もう一回ガチャしろとは言い辛くてですね。とはいえ、escapeからもガチャ資金貰っちゃいましたし……回してみます? 私としては狩りに注力した方が良いと思いますが。戦闘で新しいスキルが発生したり、相手から奪った方が効率的じゃないですかねぇ』


 うるさいよ本当に。

 だが端末からも心配される程の運の無さってなんだ。

 しかし元はソレが原因で仕事も上手く行かなかった訳だしな。

 いや、あんまり運のせいばかりにするのは良くないって分かっているんだけど。

 でもやっぱり気になってしまう訳で。

 運気アップのお守りでも買って来るべきだろうか?

 というかRedoのパラメーターに運という項目が欲しい、切実に。

 そしたらひたすら上げている気がする。


「その為に貰ったポイントを、他で使う訳にもいかないし……な? 仕事で例えるなら、それは横領ってもんだ」


『何かそれっぽい事言っちゃって……前回ガチャ爆死したの結構根に持ってますね? 知りませんよー? そうやって人はガチャの沼に嵌っていくんですから。もう一度もう一度と繰り返し、気が付いた時にはクレカの上限まで使い込むのがゲーム課金の怖い所ですからねー?』


 リユの呆れた声を聞きながらも、本日もプルプル震える指でガチャ画面を開く。

 頼む、頼むから今日こそ良い物が来てくれ。

 そうじゃないと、せっかく貰ったポイントが無駄になったと報告しなければいけなくなるのだから。

 というかアレだ、コレは彼の稼いだポイントなんだ。

 俺には関係ない所で発生したお金。

 つまり俺の運の悪さとは関係ない、そう言う事にしよう。

 なんてことを思えば、今日はちょっとだけ良いモノが出る気がして来たぞ。

 よし、出る。

 今日は出るぞ!


「い、いくぞ……!」


『どぞー、私はもう知りませーん』


 十連と書かれたボタンをタップし、ゴクッと唾を呑み込んでみた結果は――


「……ま、まだ一回目だし。次、次は出るから」


『はぁ……だぁから言ったじゃないですか。一応注意しておきますけど、こういうガチャの確率って百回回せば絶対にお目当ての物が出るって計算式じゃありませんからね? 1パーセントしか排出率が無いのであれば、百分の一の確率のまま百回回すって意味ですからね?』


「はぁ!? そんなの詐欺だろ! つまり何、最初の一回目と百回目も条件は一緒!? 在庫が減っていくとかではなく、ずっと補充され続けてるって事なのか!?」


『デジタルの怖い所ですねぇ。ほら、前回見た様な代物がいっぱいですよー?』


 やばい、全然当たりを引ける気がしなくなって来た。

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