13話 熱の影響

「勇人〜〜!!!」

「うわっ!?」


試合が終わったあと、

木村がダッシュで飛んできた。


「勝ったなぁ、勝てたぞバスケ部に!」

「うんまず落ち着こうか?」

「だってよぉ!あの劣勢からだぞ!

 そりゃ嬉しいっての!」


そう言ってジタバタし始める木村。


まぁ確かにあの状況下で勝てたことは

素直に嬉しい。

俺も嬉しくて叫んだから、

おんなじ事は言えないか。



「すごかったね、工藤君?」


悠太と肩を組んで話す


「まぁこんなの見せつけられたら

 そりゃあんなふうになるよね」

「なんの話だ?」

「いんや?こっちの話、

 気にしないで。それにほら」


悠太が観客の方を指差す。

そこには

もう嬉しそうな顔をした

セミロングの女子が一人。

佐藤さんが

とびっきりの笑顔で

こちらを向いていた。



「あぁー...まあ嬉しそうでよかった」

「さっきまでと全然違うよねー」


悠太や木村がいるからか

こちらに来ることはなく、

浅野さんと話しながらこちらをずっと

見ている。

それはそれで恥ずかしいんだけど、、



「それにしても、やっぱ疲れるな・・・」


今回本気で戦うことを決意して

戦ったのは良いものの、

やはりその後がきつい。


かなりハードに動き回ったし、

頭も同時進行でフル稼働だ。

正直今すぐ休みたい気持ちでいっぱい。


「お前たち!授業は終わったから、

 早く教室に戻って着替えろ!

 挨拶は省略する!」


体育の先生が大声で伝える。

いつのまにか授業も終わっていたようだ。


「戻って早く着替えなきゃな」

「そうだね、行こうか、勇人くん?」

「・・・あれ、呼び方?」


悠太は何食わぬ顔で、

こちらを向き微笑んでいる。


「そ。僕も名前で呼んでいい?

 木村君が羨ましくなってさ」

「まぁ良いけど」


悠太から名前で呼ばれるように

なった。


「さ、行こうか」

「おう!」


そうやって盛り上がっていた

体育の授業は終わった。




体育の授業が終わり、

帰りのHRも無事終了。


帰ろうかと思っていたが、

校舎の外に出たところでLINEが

きていることに気づいた。


『工藤さ、今日予定あったりする?』


差出人は浅野さん。

見れば送ってきたのは

数分前だ。


『ないよ、これから帰るところ』

『暇ならさ、体育館に来てくれない?』


LINEを返すと

すぐ返信が来た。

部活関連だろうか?


『わかった、今から行く』


そう送った後、

動物のようなスタンプでOKが送られてきた。

浅野さんはバスケ部に入っていると

佐藤さんから聞いている。


もしかしたらバスケ部の見学

みたいなものかもしれないな。


疲労した体を動かして、

体育館に向かった。










体育館に近づくと、

中からボールの音が聞こえてくる。

時々ネットの音がするので、

誰かがバスケでもしているのだろうか?



「工藤か」


中に入ろうとしたところ、

体育の先生から声をかけられる。

先程、体育の授業を担当していた人だ。

名前は安達智也だったっけ、



「こんにちは、安達先生。

 少し体育館に呼ばれてまして」

「体育館?今日、部活は休みだぞ?

 バレーもバスケも」

「え?」


あれ、

バスケ部の見学かと

思ったがそうじゃないのか?


「じゃあ、中にいるのは

 誰ですか?、ボールの音聞こえますけど、」

「中にいるのは多分浅野だな、

 毎回部活がない日は体育館の使用許可を

 とって練習してるんだよ」



なるほど、

要は自主練か。

あまりボールの音がしないことをみるに、

一人なのかもしれない。



「なるほど、浅野が言っていた、

 もう一人は工藤のことか。」

「??」

「あぁすまない。

 浅野から聞いてな」


そう言って話を続ける。


「体育館の許可を出す時、

 浅野に言われてな。

 自分ともう一人が自主練するから

 許可をください、と聞いた」

「なるほど」

「いつもは一人で自主練していたから

 少し珍しいと思っていたんだ」

 

ということは練習相手だろうか?

いや、それなら部員の誰かに手伝ってもらえば

いいだろう。ならなんで?


「わかりました。とりあえず

 中に入ってみます。」

「おう、それと、

 これを頼む。」


そういって鍵を渡される。


「戸締りだけは徹底してくれ

 あぁそれともう一つ。

 工藤と浅野の許可とは別に、

 もう一人男子に許可を出している。

 そいつもじきに来るだろう。

 もしかしたらもう中にいるかもな」

「わかりました」


安達先生と別れ、

体育館の中に入る。

そしてそこには。


「おっ来たね、待ってたよ工藤」


少し汗をかいた浅野さんがいた。

やはり練習していたのは浅野さんか

手にボールを持っている。


そしてもう一人


「マジかよ、ほんとに来やがった」


先ほどの試合。

俺とマッチアップしていた、

4組のPGの生徒がいた。


「言ったでしょ?

 来てくれるって」

「嘘だと思ってたよ、

 ほんとに来ると思ってなかったんだ」


浅野さんがこちらに近づいてきて

話し始める。


「ねぇ工藤、今からこいつ、

 葉山と1on1してくれない?」

「1on1?俺が?」

「そ、さっきの試合のリベンジてきな?

 葉山が悔しそうだからさー」

「そんなことねぇよ

 余計なお世話だ」

「はいはい、

 負け犬が吠えてますなー」

「なっ!テメェ!」


なんかすごいキレてるんですけど、、


「というのは冗談だけどね?

 ほんとは工藤だよ、

 工藤のプレーのこと」

「プレー?」

「そう、工藤のプレー。

 さっきの試合さ、

 私だけじゃないけど、あそこにいた

 バスケ部みんな予想外だったからさ、

 あの結果」


そうして葉山と呼ばれた

生徒を少しみて、浅野さんは話す


「葉山は別に下手なわけじゃない、

 もちろん他のバスケ部も。

 だけど、蓋を開けてみれば、

 まさかのそっちの大逆転劇。

 要はさ、研究させてほしくて」

「はんッ、俺はついでかよ」

「当たり前じゃん。

 今の葉山ものすごくダサいからさ、

 せめてバスケ部の意地見せてよ?

 じゃなきゃ、自信もってバスケ部

 名乗れないよ?負け犬のイメージ

 しかない」

「チッ、うぜぇな・・・・

 まぁ、そのとおりだけどよ」


そういって悔しそうな顔をする葉山。

確かにバスケ部なら意地やプライドが

あるはずだ。

どんな形であれ、初心者に負けたという事実

は悔しいはず。

俺が逆の立場なら

死ぬほど悔しいだろうしな


今度は葉山が近づいてくる。


「悔しいがお前に負けたのは事実で、

 俺がまだまだだったってのもある。

 だからこそだ。

 だからこそ、初心者に負けたままじゃ

 不甲斐ねえんだ。

 そんなまんまじゃ、他のやつに顔向け

 できねえ。それに、俺のせいで

 バスケ部が弱いなんて言われるかも

 しれねぇ。それだけは許せねえんだよ」



どうやら、

俺は何か勘違いをしていたのかもしれない

確かに目の前にいる男は、俺たちを馬鹿にして、底辺などと罵ってきた。

それについては改めるべきだし、

もっと視野を広げろと言いたい。


だが、目の前にいる男は、自分の

改善点にある程度気づき始めている。

分からないことから逃げ、人、物などに

当たる人間ではない。

敗北から這いあがろうとする行動力。

それは案外、簡単に見えて難しい。

誰だって敗北したという事実から無意識に

目を逸らすからだ。


だがこの男は、負けをしっかり受け入れ、

過去を振り返ることで、周囲に対する影響を

考えることができている。


もしかしたらもう、

こちらのことを底辺などとは露ほども

思っていないのかもしれない。

表情を見ればある程度分かる。


「だから、、烏滸がましいことを言うが

 俺と勝負しろ工藤。

 俺だってプライドがある。

 負けたままじゃ、俺自身も納得

 いかねぇんだ」


そういったところで

少し頭を下げてきた。 

恥ずかしいだろう。

だが、恥を承知で頼み込んできた。



俺もスポーツマンだ

本気になった人間の覚悟に応える。

これほど心踊ることはない。



「頭あげてくれよ、葉山」

「??」


頭を上げた葉山に伝える。


「3本勝負。

 交代で攻めと守りをして、

 先に3本ゴールを決めたほうが勝ち。

 それで良いか?」

「っあぁ、頼む、ありがとう」

 「浅野さんもそれで良い?

  正直こんぐらいじゃないと

  体力持ちそうになくてさ」

 

そういって浅野さんに声をかける。

少し反応が遅れたが、

笑顔で答えてくれた


「うんっ!それでお願い!

 まぁ私は勝手に研究するだけだしね」

「よし、じゃやろう葉山。

 今度も俺が勝つぜ?」


そういって少し煽る。


それを見た葉山はこちらを見て、

憎たらしいほどの笑顔で答えた。


「はッッ、言ってろ、

 完勝だ。3ー0で勝って、

 格の違いを見せてやるよ」










先ほど冷めた熱が再び

燃えあがろうとしていた。



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