Part,23 The place I longed for...
ネセントは家が近所と言っていた愛華の尾行を始めた。カラオケ店から出て数分、人混みに揉まれながら進むと突如、愛華を屈強な男達6人が取り囲み、大きな車へ無理矢理連れて行った。嫌がる顔をしており、振りほどこうと必死に抵抗していた。詰まるところ、誘拐が発生した。
(え、誘拐……!?)
予想外の状況に驚きを隠せないが、同級生がピンチとなった今、神の代行者としてでなく、一クラスメイトとして助けようと車を走って追った。
建物の屋上を伝って、距離を一定に保ちながら追いかけるネセントは、いつの間にか博多港の倉庫郡に来ていた。そこは如何にも怪しい雰囲気が醸し出されており、最近光斬と共に色々な映画を見ていたが故に、海辺の倉庫は怪しい場所であるという強い認識を最近覚えたばかりである。そんなTHE・映画の場面に遭遇すると、ネセントは心をなんとか落ち着かせて倉庫内へ入る。
「あ? なんじゃお前」
そこには100人に渡るであろう黒スーツの屈強な強面の男達がいた。その奥にいる、椅子に縛りつけられている愛華の姿がそこにある。
「その子を渡してくれない?」
「なんでお前みたいなガキに渡さなんとかね」
「ガキねぇ……」
威勢のいい男達の怒号に少し腹を立てるが、まだ全然耐えるネセント。その視界の先には、怒号で目を覚ました愛華がいた。
「……ネセントちゃん!? ここ危ないって!」
「知ってる。それは承知の上」
「承知しとるんやったら、お前、ここ見つけてもたんやから、沈めるしかなかろうなぁ!」
屈強な男がそう言うと、100人近い男達が一斉に襲ってきた。
(強化装備に身体強化ってモリモリで気が引けるけど……)
「やりますか」
先頭の男の鳩尾をノーモーションで殴ると、後ろから走ってきていた男達をまとめて薙ぎ倒した。殴ったことで重心が前足に乗ったため、そのまま走り出して男達をどんどん気絶させていく。
「オラァ!!」
「あ、空振り……」
顔を狙って大振りの攻撃を仕掛けられるが、しゃがんで躱し、遠心力を使って思いっきり脇腹を踵で蹴り飛ばす。
2分足らずで100人を体ひとつで全員気絶させると、親玉であろう男が立ち上がる。
「まさかあなたが、こんなチンピラに成り下がった私を断罪しに来るとは……」
「……なるほど」
『身体強化・強』
ネセントは自身に身体強化・強をかけ、愛華に手刀を入れて気絶させる。
「で、なんであなたがいるんですか。元第7ラッパ序列第1位、ベトレイアル・インフィデリティ」
目の前にいる髭面強面の男の名は「ベトレイアル・インティデリティ」。元第7ラッパ序列第1位であり、同時に国の存続をかけた一大事件「月姫暗殺未遂事件」を起こした張本人でもある。
「覚えてくれてたんですか。月姫」
「そう言われる筋合いはありませんね。少なくとも、私を殺そうとしたあなたには」
この倉庫には気絶した愛華を除くと、2人しかいない。外に声が漏れる心配がないことをベトレイアルも、ネセントもわかっている。だからこそ、2人は静寂の中で語り合う。
「あれはあれ、これはこれでしょう」
「……何が言いたいんですか?」
「あの時、確かに私はあなたを殺そうとしました。ですが、月姫であることには変わりないということです」
(……私が裏切ったことを知らない?)
自身もまた裏切ったことにベトレイアルは気づいていないと、ネセントは考えた。なら、ネセントはその体で進めた方が良いと思い、冷酷に扱うことにした。
「なるほど。では、国家反逆罪の方に基づき、ベトレイアル・インティデリティ。あなたをここで処刑します」
「そのためにずっと探していたと? ……暇か!!」
ベトレイアルは立ち上がり、気性を荒らげて手元にある魔剣を取り出した。
(魔剣……!?)
ネセントは咄嗟に信愛を抜くと、ベトレイアルは正面から襲いかかってくる。魔剣を抜いたベトレイアルは上から振り下ろすと、ネセントは受け止め、鍔迫り合いの形になる。
「何故裏切ったのだけ、教えてもらえますか?」
「裏切った理由? 元々あの政治に文句があったからだよ」
「なるほど。それで私を殺し、父を失脚させた上で政権を潰し、乗っ取ろうと? 失敗したから、ノコノコと地球まで逃げてきたと?」
「そういうことだ」
「……身勝手にも程がありますよ!!」
ネセントはベトレイアルを信愛で魔剣ごと押すと、一瞬で魔法発動の準備を済ませる。魔法陣を両足に展開すると、すぐに魔法を発動する。
『
『
ネセントは『
(小賢しいことを……)
「仕方ないか……」
「闇に閉ざされ、其方らは消えゆく魂と化す。万物は闇に飲まれると、無くなっていくのだから」
『
魔法陣を大量に生成したベトレイアルは、魔法陣から発射される幾千もの光線を使い、ネセントを襲った。
「そう簡単に応じるとでも?」
『
光線が到達する直前、ネセントは全神経を集中させて抜刀の体制に入る。全身に魔法陣を纏わせると、音を置き去りにする一撃をベトレイアルに浴びせる。全身を細切れにするほどの一撃は、光線を全てぶち破り、衝撃波で進行を遮る。
ベトレイアルは何が起こったかわからぬまま、視界が何個にも分かれた。ある視界は天井を、ある視界は真っ暗であり、ある視界は刀をしまうネセントの姿が見える。
「少し騙したのは申し訳ありませんが、あなたは世界の脅威にもなり得ます。私の計画にも、支障をきたしますので」
ネセントはそう言い残し、その場を去った。
(……何故ベトレイアルは、手加減を?)
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