Part,9 Heartless test



 (……よし)



 光斬は赤いフェミーバーに向かって走り出すと、彼を迎え撃つべく赤いフェミーバーは、伸造の体を投げ捨てて戦闘態勢に入る。彼が距離を半分まで詰めると、赤いフェミーバーは足に力を入れ、魔力を込めて一気に距離を詰める。最高時速210kmを記録する赤いフェミーバーは、巨体をもろともしない俊足で彼との距離をあっという間に詰めた。赤いフェミーバーは大きく足を踏み込むと、彼の顔に向かって大振りの拳を放つ。腰の入った拳は筋肉によって更に威力が上がる。そんな光景を目の前にした光斬は、赤いフェミーバーが殴る予備動作に入ってから、目の前に拳が現れるまでの動きを認識することができなかった。



 (速い……、が!!)



 光斬は大きく踏み出して赤いフェミーバーの足元にまで入ると、なんの前触れもなくしゃがみ、右手に持っていた斬奸を左手でも強く握り、赤いフェミーバーの股間から真上へジャンプしながら斬り上げた。体を空中で180度横に回転させ、頭部にまでジャンプしたタイミングで一気に斬奸を上から前へ回しながら斬る。2つに分かれた赤いフェミーバーの体は、それぞれが爆発して血飛沫を上げる。彼が着地し後ろを向くと、そこには約2000名のものと見られる死体が積み上げられていた。その上に立つのは、さっき対峙した赤いフェミーバーと同種と思われる大量の赤いフェミーバー。



 「マジか……」



 そう言いながら、光斬は斬奸を構えて走り始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 光斬は今、太平洋に浮かんでいそうな何も無い砂浜に立っていた。周りにはエメラルドグリーンの海が広がっており、いかにも南国の無人島に遭難したような感じである。海から吹く風は何故か冷たく、ロケーションには合わなく違和感がとてつもなかった。そんな海の上には、1つの人影があった。



 (なんなんだ……? ここは……)



 彼がそう思うのもおかしくない。さっきまで訓練場γの中で赤いフェミーバー達と相対していたのだから。周囲を見渡しても赤いフェミーバー達の姿はなく、何かの魔法で移動したのかと思った。

 そんな彼を見て、その人影は玉座のような椅子に腰をかけ、足を組んだ状態で呼ぶ。彼は声に気づき瞬時に声のする方を向く。



 「こっちまで来い。……なに、心配するな。これは海ではない」



 人影は海のようなものを指して言うため、光斬は大人しく歩いて人影の元へ向かう。光斬が近づく度に人影の姿が見えてくる。その人影は130cmほどの身長で茶髪短髪、蒼眼を持つ死装束を着た小学6年生程の男子のようだった。



 「……子供か?」



 風貌を見て光斬は思わず声に出す。すると、見た通りの年齢のような若々しい声をしながらも、謎に貫禄のある話し方で返答する。



 「あながち間違いじゃない。……まあ、とりあえず話を聞け」


 「その前に1つ、質問いいか?」


 「まあ……、いいが……」



 光斬は人影を見た瞬間、気になることがあった。




 「名前ってなんなんだ? この先呼びづらいだろ?」


 「なるほどな。……俺は斬奸だ。お前の持ってる剣の中に棲む剣神って呼ばれる存在だ」


 「へぇー」



 すると、斬奸は話そうとしていた内容について話し始める。



 「今は世界との空間を断絶している。だから元の世界との関係は気にしなくていい。簡単に言えば、時が止まっている状態だからな」


 「時が止まってる……?」


 「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。あのまま大天使アークエンジェル級の群れに走ってっても、確実に死ぬぞ?」



 斬奸の目には、彼があのまま赤いフェミーバーの群れに攻撃しに行っても確実に死ぬと見えた。だが、彼には勝機があった。



 「勝ち目はある。強化装備の扱い方がようやくわかってきたからな」


 「あの全身スーツのことか。確かにあの強化装備は強いがそれ以上に光斬、お前は奴の強さを過小評価している」


 「え、けど殺せれただろ?」


 「単独では殺せたな。だが、奴らの強さの真価を発揮するのは集団戦だ。当たり前のように前線にいる奴らは、当たり前のように連携をとって戦ってくる。そこでお前を、正確に斬奸の所有者と認める」



 突然そう言われた光斬は、なにがなんだかよくわからなかった。だが、それを聞こうとした瞬間に斬奸はその場から消え、精神世界が消えていくのを感じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 地面を軽く蹴った瞬間、赤いフェミーバーの元へ一瞬で吹き飛んだ。瞬時に心臓部分を斬ったが、強化装備の力だけではないと実感した。その理由はわからないが、好機だと光斬は判断して赤いフェミーバーの殲滅を開始した。



 「ぶっ殺してやるよ。梅干し共が」



 光斬は走り始めると、赤いフェミーバーの動きひとつひとつがスローモーションのようにゆっくり見えた。



 (遅くなってる……? ……俺が速くなってんのか!?)



 赤いフェミーバーの猛攻をもろともせず、逆にばったばったと薙ぎ倒しにしていく光斬。遠くから別のフェミーバーの群れと戦っているネセントも、彼の異常なまでの成長に目を大きくしていた。



 (あと10体か……!?)



 数を数えれるほどまで殺し尽くした光斬は、建物の壁にへばりつき、瞬時に蹴って3体同時に心臓を突き、体を貫通して着地する。血で塗り尽くされた地面だが、光斬は何故かそこがとても走りやすかった。急旋回して残った7体のアキレス腱を切り裂き、身動きを取れなくなった赤いフェミーバー達の首を一纏めに斬る光斬。斬った瞬間にフェミーバー達の体は爆発し、血の雨が光斬を濡らす。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 数分後、訓練場γ内にいる全てのフェミーバーの反応が消失した。生きている者は元にあった扉まで戻ってこいとのことを受け、光斬は歩いて扉のあった場所まで戻った。



 (疲労が溜まってる……)



 明らかに体が重い。体を前に倒して、足を反射的に前に出すことでようやく歩くことができている状態だ。



 「光斬ッ……!!」



 扉の近くで待っていたネセントが彼の体を支えるために走ってきた。光斬は一瞬力を抜いてしまい前に倒れそうになるが、彼女が咄嗟に自分の体で光斬を支え、そのままハグをする。



 「よかった……」



 どんな顔をしているのかはわからない。だが、彼女はきっと泣きそうになっているのだろう。強く抱きしめられているはずなのに、何故かところどころに優しさを感じる。



 「生きて帰ってきたのは2人だけか……」



 光斬の視界に入ったのは、神の代行者福岡支部第1部隊「松風隊」隊長兼福岡支部長の松風 右京。右京は満身創痍の光斬の姿を見て、賞賛する。



 「六波羅君だったか。強化装備の力の引き出し方、この戦いの中だけで見つけるとはな……」


 「は、はい……。ありがとうございます……」


 「ネセント・セラスさん、人間とは思えないほどの魔法操作技術。見事だ」


 「は、はい……」



 「人間とは思えないほど」という言葉を聞いた瞬間、彼女の手が少しビクッとした。バレたのかと思ったのだろう。



 「とりあえず、着いてきてくれるか?」



 右京がそう言うと、訓練場γの外壁の上にいた7名の神の代行者が2人の目の前に現れる。すると、2人を囲むように神の代行者は歩き始めた。


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