Part,7 Tragedy and Slander



 翌日、4月3日、12時00分。光斬とネセントは神の代行者福岡支部内にある試験会場にいた。その目的は、入隊試験を受けるためだ。周囲にはたくさんの人がいており、その人達も全員2人と同じ目的でいる。



 「ここが会場か」


 「結構広いね」



 他愛のない話をしながら試験会場で開始を待っている2人の元に、橙色短髪の赤の瞳を持った160cm程の少年が話しかけてきた。



 「今来たのか?」


 「え? まあ、そうだな」



 今来たのは本当なので光斬は素直にそう返すと、少年は好青年のように笑いながら言う。



 「俺も今来たんだよ。あ、俺の名前藍川あいかわ 伸造しんぞう。よろしくな!!」



 そう言うと、伸造は共に来たであろう友達の元へと向かっていった。光斬とネセントはいきなり話しかけてきた伸造の意図がよくわからず、困惑していた。



 「静粛に!!」



 会場内に木霊するその声。それは、舞台の袖付近に立つ1人の女性が言ったものだった。



 「これより、試験前挨拶を始める!! 受験生諸君、敬礼!!」



 会場中に響き渡る声で、全員が敬礼を行う。すると舞台の上に現れたのは、昨日に福岡支部のエントランス内で騒ぎが起きた時に現れた松風 右京だった。



 「受験生諸君、傾注!!」



 その言葉と共に、全員が右京の方を向く。



 「入隊試験を受けてくれた君達にまず、ありがとう。神の代行者福岡支部第1部隊「松風隊」の隊長兼福岡支部長の松風 右京だ。私達神の代行者は、1384年に現れたフェミーバーに対抗するために生まれた組織だということはわかっているだろう」



 舞台の上で挨拶を始める右京。受験者は右京の話を真面目に聞き、試験に対して前向きなことがわかる。それは光斬とネセントも同じであり、真剣な眼差しを向けて話を聞く。



 「今年は台湾とフィリピンにまで戦線が近づいており、福岡支部の部隊はどんどん前線に向かっている。世界はかなり危機的な状況に陥っている状況になっていることは皆も知っていると思うが、そんな君達には実戦の経験を早く積んでほしいと我々は思っている。そのため、例年の試験では3ステップに分けて行っていたが、短縮且つ変更する」



 昨年まで行っていた3ステップとは、1ステップで魔力適正の有無、魔力量測定。2ステップで魔剣選定。3ステップで試験官と戦闘というものである。



 「1ステップで魔剣選定。2ステップで訓練場γにいるフェミーバーの殲滅だ。生き残れた者を合格者とする」



 それを聞いた瞬間、会場内が騒めきだした。彼は何がなんだか全くわからなかったが、横を見るとネセントが驚いたような顔をして右京を見る。



 「なぁ、何に驚いてんだ? フェミーバーって昨日戦ってた奴らじゃねぇのか?」


 「……多分だけど、人間が捕獲できるレベルのフェミーバーなんてヨハネしかない。つまり、私達はヨハネを相手にするってこと」


 「……ヨハネってなんだよ」



 彼にとって、ヨハネという言葉は初めて聞くものだった。右京の言うフェミーバーとヨハネは何が違うのか、何故それを知ってる彼女が驚いているのかがわからなかった。



 「そういや、光斬にヨハネの話をするの忘れてたね。ヨハネっていうのは、フェミーバーの中に分類される異形種のことだよ。まあ、人間がフェミーバーって読んでるから統合されてるだけで、私達みたいなフェミーばーとはルーツから違うんだけど……。ヨハネっていうのは、まずまず隊列を組んで攻撃を仕掛ける大規模侵攻の時に使われる生物なの」


 「その隊列を崩して持ち帰ったってことか……?」


 「そういうことになる。けどね、ヨハネは隊列から外れたら外れた同士でまた新たな隊列を組むの。それが一番厄介なポイントなのよ」



 何が厄介なのか。はぐれた同士で隊列を組むだけなのだからと思った彼は、彼女に質問する。



 「……何が厄介なんだ?」


 「訓練場γってことは閉鎖空間だよね。じゃあ、逃げ場がないってことなの。ヨハネの隊列で横一列になって攻めたら、それだけでほとんどの人は回避できないっていう状況になるの」


 「攻めてくる前に攻めて潰さないといけないってことか」


 「初見殺しにも程があるね」



 すると、前に立っていた右京が軽く咳払いをして騒めきを一瞬で鎮める。それは大きな咳払いではなく、普通に人が行う程度の小さなものだった。だが、それは広い会場内全体に響き渡り、そこにいた全員が聞こえたのだ。



 「今から君達には、魔剣選定に行ってもらう」



 そう言うと、受験生全員は誘導されながら適当な2人1組を組まされた。光斬はネセントと組んだため特に問題はなかったが、1人で受けに来ていた人達はかなり苦労していた。

 廊下を進んでいくと、そこにあったのは横一列に並ぶ大量の扉。光斬とネセントはNo.243と書かれてある扉の前に立ち、中へ入った。



 (これが……、魔剣……)



 部屋の中に入ると、暗い空間の中にある大量の魔剣。彼女の持っていたフラガラッハも魔剣であるが、それとはまた違う雰囲気があるものだらけだった。



 (強力な中位魔剣が2つ……)



 ネセントの視界内に入った魔剣は、正面にある2つの魔剣。魔剣が置かれている台のところには、黒と紫が混ざったような色の刀身で保存されている魔剣と、薄い桃色のような色の刀身で保存されている魔剣があり、それぞれ魔剣の下には、それぞれ名前が書かれた札があった。



 「なんだこれ」



 光斬はその魔剣に近づき、魔剣をまじまじと見る。



 「なぁ、これめっちゃかっこよくね?」


 「まあ、確かに」



 すると、光斬は黒と紫が混じったような色の刀身の魔剣を指して言う。



 「俺これ選ぶわ」



 光斬の言葉で目を見開いて、あからさまに驚くネセント。驚きすぎて声が出ない始末なので、光斬はそれに気づくことなく魔剣だけを見ている。少し遅れてネセントも選ぶ。



 「じゃあ私はこれにしよ」



 ネセントは光斬の選んだ魔剣の横にあった、薄い桃色のような色の刀身の魔剣を選んだ。すると、光斬は魔剣の下にあった名前の書いてある札を見た。



 「俺の選んだ魔剣は『斬奸』で、ネセントの選んだ魔剣が『信愛』って言うのか……」



 そう言うと、光斬は顎に手を置いて考え始める。光斬のその姿を見て、不思議そうに光斬を見て質問する。



 「どうしたの?」


 「いや……」



 光斬は札からネセントの目に視線を移し、困った顔でネセントに問う。ネセントは心配そうに光斬を見るが……。



 「いつか言おうと思ってたからさ、今言うわ。魔剣って何?」



 魔剣という言葉をこの場で初めて聞いた光斬の困った顔を見て、ネセントは「あ……」と言わんばかりに口を開けて唖然としていた。数秒が立った後に、ネセントはようやく口を開けて言う。



 「あ……。……言うの忘れてたね」


 「……言ってねぇこと、中々に多いのな」


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