後編
暗闇の中、何処か遠くから犬の鳴き声が聞こえ、反響する。暫くすると、それは愛犬の声だとわかった。
私は徐々に意識が覚醒するのを感じ、そして重い瞼を開くと、そこには見慣れた光景が広がっていた。どうやら私は今まで自宅の寝室で眠っていたようだ。
私は大きな
それにしても変な夢だったな。そんなことを考えながら、私はもう一寝入りしようと布団に潜り込む。
すると、何やら左手に硬く重たい感触が伝わる。
そして私は布団を
それは白く艶やかな石のような素材で作られているようだ。さらに中央部には透明の丸い水晶によく似た装飾のようなものがあり、そこから蒼白く淡い光を放っている。
石のようでもありながら何かの装置のようにも見える、なんとも奇妙な物体だった。
そして昨夜の出来事を思い出す。そうか、これは恐らくマースが私の左手に握らせたものなのだろう。
ということは、私はまだ夢を見ているのだろうか。しかし夢にしてはやけにリアルだ。これは一体……
謎の物体を眺めながら私が混乱していると、愛犬の鳴き声が先程よりも大きくなり、さらには激しさを増している。
普段はおとなしい彼があんなに激しく吠えるだなんて様子がおかしい。しかもこの部屋には私たち以外には誰も居ない筈なのに。
私がゆっくりと上体を起こすと、私の足元で愛犬が何故か正面に見えるベランダへと続く窓のほうを向き、吠えている様子が目に飛び込んできた。
気になった私はベッドから起き上がり、彼の側へと向かう。そして彼の頭を
窓から一メートル程の距離まで近づくと、突然ガタガタと窓が揺れはじめた。そして、薄暗かった屋外からスポットライトのような白い光が差し込み、室内を照らす。
磨りガラス越しにぼんやりと人影が現れたかと思えば、窓の外側から誰かがノックする音が数回聞こえる。
すると窓ガラスの中心部から徐々に波紋のような模様が広がって行き、先程の人影が立体的に浮かび上がる。
なんとも異様な光景を目の当たりにした私は、ゆっくりと後ずさりしながらこれは夢だと何度も自分に言い聞かせた。
逆光により顔は確認できないが、徐々に小柄で小太りな人影がはっきりとした姿となって浮かび上がり、その人物がようやく窓際に姿を現した。
『やあ、キミが漫画の作者さんだね』
すると、ハイトーンな声が私の脳内に響く。
恐らく昨夜の夢に登場したマースの仲間なのだろうか、彼は気さくに私に話しかけてきた。
昨夜の出来事があったためか、私はあまり動揺はしなかった。
「はい、そうですが……」
『長い間続きが描けていないそうだね。それなら良い考えがあるよ』
「何でしょうか?」
『我々の宇宙調査に地球人代表として参加すれば良いんじゃない?』
すると突然左手に振動が伝わる。
私がそちらへと目を遣ると、握っていた謎の物体がぶるぶると振動しながら中央部の蒼白い光が徐々に
一瞬何も見えなくなったかと思えば、すぐに光が消滅し、先程よりも視界がクリアになり彼の姿がはっきりと確認できた。
「サターン……」
間違いない、彼も私が創作したキャラクターだ。
彼改めサターンは、黄土色の短髪に小さく釣り上がった目をしており鼻と口は異常に小さく、一見すると地球人に見えなくもないがどこか不思議な顔立ちだ。
彼は土星人で、天然な性格が特徴である。
彼は白い宇宙服のようなものに身を包んでいる。
『これで準備完了だよ。一緒に行こう。あっ、それから後ろに居る生き物も一緒にね』
そう言われ、気付けば鳴き止んでいた愛犬へと目を遣ると、彼はなんと頭部に白いフルフェイスヘルメット着用し、白い宇宙服に身を包んでいた。
私は何故か頭が重たく感じ、右手で頭部に触れると、硬い感触が伝わる。どうやら私はフルフェイスヘルメットか何かを着用しているようだった。
そして、謎の物体が気になり頭をやや左下へと傾け自身の左手を確認すると、何やら白い手袋のようなものを着用しており、そこには何も握られていない。
よく見るとそれは手袋ではなく、袖部分と一体化しているようだ。
更によく見ると、それはサターンが着用しているものと同じ宇宙服であった。
すると、愛犬が突然キャインと悲鳴のような鳴き声を上げる。
私が彼のほうを見遣ると、彼はふわふわと宙に浮かんでいた。
そして次第に吸い寄せられるようにこちらへと向かって来て、私の手前で動きが止まる。
私は咄嗟に彼の体を両手で掴み抱き寄せた。
『さあ、出発しよう』
サターンはそう言って、私に手招きする。
拒否権はないのだろうかと疑問に思ったが、拒否したところで何が起こるかわからないという恐怖心から口にはできなかった。
そして、私は彼に案内されながら寝室を後にし、先程、彼が入ってきた窓から屋外へと出る。
すると、普段はベランダがある筈の場所に何故か巨大な階段が現れ、彼らと共にそれを
そして、暫く昇った先にはUFOが待ち構えていた。
私は愛犬を抱き締めながらオレンジ色の眩い光の中へと入って行く。
私は彼らと出会えて、しかも旅に出られることが何故か嬉しかった。
そして、この先何かとんでもなく凄いことが起こるような、そんな予感がした。
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