『ワイルドハント』『インフォメーション教授』『化け狐』
「ハン、しけてるねェ? もう少しいいお宝は無いのかい?」
如何にもな銃を大男突きつけて、顔に傷のある女はそう告げた。
頭にはキャプテンハット、腰にはサーベル。
服の彼方此方に鎖や宝石がついておりその姿は如何にも海賊。
地面に伏せている大男は憎々しげに見上げることしかできない。
「ック、何が望みだ!!」
「船、力、財宝、オマエの持つ全て以外に何も無いよ!!」
そう告げると、周囲にいた船員が一斉に笑い出す。
ここは最初の町からそこそこ離れた港町、その近くに佇む入江に作られた違法海賊の見窄らしい町。
そこに『ワイルドハント』ドレイクは陣取って居た。
「さっさと吐きな!! それとも苦しみながら死にたいのかい?」
ニヤリと鋭い犬歯を覗かせ、どんな悪役であろうと怯えるだろう笑みを浮かべた。
海賊の名に恥じぬその暴虐ぶりは、ある種の熱狂的なファン以外では忌み嫌われる行動だろう。
「もう何も無い!! 出せる物も!! だからさっさと消え去れ!! この異邦人が!!」
「そうかい、じゃぁ死にな!!」
そういうと、パンッと軽い音と共に脳天に鉛玉を打ち込む。
鮮血が飛び散り、ポリゴン片に帰すNPCを見ながら背後に振り返る。
「ヤロウども!! 依頼は達成したよ!! 例のブツの調子はどうなんだい?」
「へい、姉御!! バッチリでっせ、港に寄港して多少の欠損を直せば直ぐにでも大海に出れるぜ!!」
「ハン、悪くないね!! デカさも仮の船としては十分さね!! じゃぁ、この達磨の顔を
「姉御ー、酒樽はどれぐらいまでいいっすかー?」
「好きなだけ開けな!! けど出向までに酔いを醒さなきゃ張っ倒すからね!!」
「姉御!! コイツら財宝まだ蓄えてるぜ!! どうします?」
「勿論、全部強奪するに決まってるさねェ!!」
アッハッハと笑いながら返り血のついたその美貌は、正に野生の美女。
数多の
*ーーー*
「フム、興味深い。」
モノクルをつけ白衣を身に纏った老人は魔術の手引き書を見てそう声を上げた。
所変わって、ここは
昨日買ったばかりの家はもうすでに大量の資料と情報が錯乱しており、足の踏み場もないほどだ。
その中心で、集められた情報を的確に処理しつつ魔術の研究をしている男がいた。
「教授ー、10時間もよく座ってられますね? 紅茶淹れたんで休憩しません?」
「悪くない、今から10分の小休憩を取ることにしよう。」
掲示板ではおかしな話し方をする探求会のトップこと『インフォメーション教授』、プレイヤー名スマート。
机に置かれた紅茶を啜りながら手際よく資料を片付ける。
ゆっくりと喉を潤す熱い紅茶は、彼の思考をリセットさせた。
それと同時に落ち着いた思考に無数の思いつきが生まれどのように調べようか思案しかけ、慌てて紅茶を口に含む。
「ふむ、休息できないのは私の悪い癖だな。」
少し落ち着いて自身すら冷徹な研究対象とする姿はまさに合理の権化。
探求会というクランを開き、飽くなき知識欲を満たす化け物と称するのが相応しいほどの人には思えない。
休憩と称しながらも横目で掲示板を確認し面白い内容を発見したと目を細める。
「ドイルくん、例のレイドボス。仮称、黒騎士の能力はどうだったかね?」
「えーっと、黒い霧に剣技に……。って、今休憩時間ですよね!?」
「そうであったな、後で資料を渡してくれ。」
たまたま近くにいた青年にそう尋ねると、彼は流れのままに語ろうとして慌てて休憩時間ということを思い出す。
そしてその忠告を受けた教授も、思い出し後で渡すように要請するに止める。
「はいはい、わかりましたよ。あー、教授は砂糖要ります?」
「ふむ……。気分とは言え頭脳を働かせるのに甘い物は悪くない、三つ頂こう。」
そこまで言い切ると、ステータスの通知欄にフレンドからのメッセージが来たと表記されているのを発見した。
「……ふむ、来客のようだ。しばらく席を外させてもらう。」
「分かりました、相手は誰ですか?」
「『騎士王』だ、きっと面白い情報をくれるのであろうな。」
「あー、そうでしょうね。彼にまつわる情報は持ってます?」
「念のため聞かせてもらおう、ただし手早くな。」
「勿論、アルトリウスの情報として最も興味を引く部分は【
「そこまでで構わん、目新しい
そこまで聞くと後は不要とばかりに外套を羽織る。
次々に持ち込まれる資料を横目に教授は静かにドアを開けた。
*ーーー*
「ふーん、ドレイクも船を獲得したでありんすか。」
情報系
その首魁に座すのは悪名高い『化け狐』こと陽炎。
所謂色町に座し、数多の情報を売買し時には市場すら操る女王に対面するのは『銃撃魔』ビリー・ザ・ガール。
幾つもの戦いで放った誤射の数はもう既に数えられる範囲を超えている。
「で? なんで態々わちきを尋ねてきたでありんしか?」
「銃、欲しくないですか?」
β版で発揮したアメリカ西部にありそうなファッションは鳴りを潜め、その姿は子犬系美人。
正体を知らなければ数多の男を釣り上げることができるだろう美人だ。
「んー、わちきに持ってくる交渉素材としては微妙でありんすねぇ?」
扇子を広げ、口元を隠す。
いつもの彼女の癖だ、そしてただの癖ではなく表情を隠し自らの思惑を悟らせないようにするための行動でもある。
「いやいや、陽炎さん。間違えて居ませんか? 私が言っているのは課金して手に入る銃の安定供給ではなく……。」
「銃ギルド、でありんすね?」
「ッチ、バレて居ましたか。」
「勿論でありんす、馬鹿にしているので?」
「生憎と、私が貴方を馬鹿にできるほど力を持っているとは思ってないわ。」
互いに雰囲気が変わった。
対等の交渉から武力行使へ。
「落ち着いてよぉ〜、二人ともぉ〜。」
その緊迫を止めたのは一人の少女だった。
鼻に付く演技をしながら豪華な衣装で陽炎に近づく。
「なんの用でありんすか? リリカ。無駄な用事はやめておくんなし。」
「劇場の予約をしたいのよ、陽炎さんなら出来るでしょ? ほら報酬。」
あっさり告げるとインベントリから袋タップリに入った金貨を渡す。
「……、ハァ。半分でいいでありんす。ただし、場所は主要街道から外れましょうがよろしくて?」
「構わないわ、ファンの子がライブをってせっついちゃって……。」
満更でも無さそうな顔でそう告げると、『姫』ことリリカはそこから去ってゆく。
「さて、話が途切れたでりんすね。銃ギルドからの銃の融通でりんすが受けても良いでありんすよ?」
「え? 本当? あー、よかったー。これで銃が買えるよぉ。」
「ただし、報酬は利益の10% でいいでありんす?」
「構わないわ、ただ専属契約でいいかしら? まぁ、ほかに私みたいな鬼畜ビルド組んでる人は居ないと思うけど念の為。」
「いいでありんすよ、後良ければ銃ギルドに入会する条件教えていただいてもよろしゅうて?」
「嫌だね、貴方に教えた次の日に殺到しそうだし。」
そういうと、ビリーはインベントリの中にある大量の銃を出す。
「販売は宜しくね。」
「……、ハァ。」
プレイヤー社会、その中でもPKなどの薄暗い集団から頼られ一種のボスとも思われている『化け狐』陽炎は苦労しているのだった。
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