第24話 急展開
車内からBGMしか漏れてこなくなった頃。徹は、運転席側の車窓をノックする。
“コン、コン!”
「京一さん、運転変わりますよ。」
そんな徹の言葉で、目を真っ赤にした京一は、助手席に追いやられる。
『夕方までには、着きますよ。』
そんな徹の言葉で、車を動き出した。ハンドルを握る徹、車は九州自動車道で一本。久留米、熊本、人吉、えびの高原を通り、生駒高原。約五時間の道のりを一気に駆け抜けた。
大泣きをした京一の表情は、朝までの沈んでいたものはなくなっていた。九日間、この旅の共をしてくれた徹の言葉が、十七年間、聞こえないふりをしていた本当の自分の想いに気づいた。<自分探しの旅>が、<自分の居場所を探す旅>であった事に気づいてしまう。霧島山の麓。高千穂の峰を、少し過ぎた<高原IC>で、高速を降りる。京一の故郷<都城>は、この土地の人間の大雑把な言い方である。都城のここら辺の土地で一番大きな町。京一の生まれ育った土地は、<高崎町>と言う。都城市内ではない。いや、【平成の大合併】で、今の住所は、都城市高崎町になっている。まぁ、田舎者の見栄であったものが、今では、同じ町の一部になってしまっている。喜んでいいのか、この町の住人が判断することであろう。
国道268号線で南へ…高崎町に向かって、車を走らせる。時間にして、午後三時を過ぎていた。あと一時間足らずで、京一の実家に着くであろう。
「徹君、やっぱり、やめへんか。」
<高原IC>を降りた辺りから、ソワソワし始めた京一。
「何、いっとるん…今日中に、会うんですよ。駄目です。」
弱気な京一の言葉に、真っ向からダメ出しをする徹。
「ちゃうんよ。高速を走っている間、考えたんよ。十七年も経ってんやで、住んでいる場所も変わっているかもしれんし、新しい家族がいるかも、もうこの世にはいないかもしれんやん。」
「何、ゆうとるんですか。往生際が悪いですよ。死んでいたら、必ず息子の京一さんに一報は来るはずです。とにかく、行けば分かる事です。」
京一は、父親に会う覚悟は持っている。徹が車を運転する隣で、色んな事を考えてしまったのである。十七年もの年月が流れている。京一にも色んな事があったように、父親にも色んな事が起こっている筈、家を引っ越しているんじゃないかとか、再婚をしているんじゃないかとか、挙句の果てには、酒の飲みすぎで他界してしまったんじゃないかと、そんな事まで、考えてしまっていた。
「でも、やで、新しい家族がおったら、どうするんね。どんな顔をして、会えばいいんね。」
車窓から見える風景は、田んぼ、畑、山、緑しか見えていない。懐かしいというか、懐かしい匂いである。不思議なもので、思い込みなのかもしれないが、田舎には匂いがある。生まれ育った高崎という町の匂い。その土地の土の匂いなのか、そわそわしながらも、そんな事を感じていた。そして、田舎道に、春の息吹が芽生えてきていた。
「京一さん、そんなに深く考えなくてもいいじゃないですか。そうであっても、<久しぶり>って、会えばいい。そげんな事ばっか、考えとらんでも会えばいいです。わかりました。」
徹は、ネガチィブな京一に呆れている。別に、他人事とは思っていない。只、弱気な京一を見てられないだけである。
“キぃー…バタン!”
徹は、突然ブレーキを踏んだ。車を道の脇に止めて、外に出ていく。助手席が側に回り、京一に声を掛ける。
「運転変わりましょう。あとは、京一さんが運転してください。」
「…」
黙ったまま、ドアを開けようとしない京一。
「何、弱気になっているんですか。もう、目と鼻の先なんでしょ。ここで、会わんかったら、絶対に後悔しますよ。お願いですから、運転してください。」
このまま、徹が運転してもよかった。しかし、京一に運転させる事で、覚悟をしてもらいたかった。そんな徹の想いが、心に届いたのか、ドアを開けて運転席に移動する。ハンドルを握れば、自然と視線は正面を向く事になる。京一の視界に、見に覚えのある風景が広がる。高崎町は、農業、畜産を生業にしている田舎町。十七年経っても、それほどの変化は見られない。車の往来も少なく、ゆったりとした速度で、車を走らせている。懐かしい風景に、さっきよりは落ち着いている様である。
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