キスミークイック(幻の恋)


「好きです、ゲッコウさん。付き合ってください」

「……はい、ブルームーンです」

「あー、美味しい」

「ごめんなさい、心愛さん。正直最近、心愛さんの告白がブルームーンのオーダーにしか聞こえなくなってるのですが」

「ゲッコウさん、お付き合いされてる方いるんですか?」

「話聞いてください……いや、いませんけど。お付き合いする気もないんです」

ゲッコウさんの恋人いない宣言に反応した人がこの店内に何人かいた。

「あの、本気で言ってないでしょ?こんな人前で堂々と」

「そんな事ないですよ。OK貰えたらいつだってバッチコイです」

とはいえ、月1ぐらいのペースで好意を伝えているが受け入れて貰える気配がしない。どうしたら好きになって貰えるだろうか。


「……という訳で、今週末とかどう?」

「え、聞いてなかった。なんて?」

「!!だから、今週末一緒に飲みに行こうって!」

「ああ、予定あるからムリ。ごめんね」

同期生の男子がしつこかった。毎回はぐらかしてた私も私だが、それにしたってしつこい。さすがに興味がないって分かりそうなものだけど。

「いつもそればっかじゃねーか。1回だけでも。一度飲みに行けば良さが分かるって」

「なあ、さすがにしつこすぎるって。相手されてないって分かれよ?」

「あ?誰だお前」

私と彼が揉め始めてたのを見咎めて、衛くんが口を挟んできた。

「……ただの無名のモブだ。でもさすがに目に余ってさ?」

「そんな事言ってただのヤキモチじゃないか?お前の方こそ相手にされなくてさ」

「いや、衛くんなら一緒に飲みに行ってもいいよ?」

「へ?」「は?」

「うん、衛くんならいいよ。でもあなたは無理。名前も覚えてないし。ごめんね、今まではぐらかしてて。正直、読み取ってくれると思ってたからさ」

その私のファイナルアンサーに彼は苛立たしそうだったけど

「……わかった」

と、引き下がって教室から出て行った。衛くんに謝ることはしなかったけど、そこでまた揉めても面白くない。

「余計だったな。その様子だと自分でどうにか出来たよな?」

「そんな事ないよ。嬉しかった。ありがとう。この後飲み行く?」

「……行かない。好きなヤツ、いるんだろ?」

「そうなんだけど、ずっと振られっぱなしで」

「……それでも告り続けられるお前はやっぱり強いよ。ま、頑張れ……ってのも変か。ほどほどにな」

そういって去って行った。まいったなぁ、本当に衛くんなら一緒に飲んだら楽しいと思ってるのに。

「ん?」


「ゲッコウさん、バレンタインが近いですね」

「ええ。心愛さんは今年は誰かにあげるんですか?」

きっと聞かれたいんだろうと思ったんだろう、先回りしてゲッコウさんは訪ねてきた。

「はい、用意するつもりです。あ、相手はゲッコウさんじゃないですよ?」

「え?」

私はそれに乗って答える。シメシメ、やっぱりゲッコウさん驚いている。

「あ、今日はキスミークイックお願いします」

「珍しいですね。このカクテル言葉は……」

私はゲッコウさんの言葉を遮ってニヤリと笑う。

「あ、私も勉強してきました。『幻の恋』、でしたよね?」



「ほい、衛くん。チョコレート」

「は?」

私がチョコを手渡そうとすると、衛くんは呆気に取られていた。

「え、なんで俺にチョコ?」

「あれ知らなかった?今日はほら、義理がある人とか友達とか、好きな人にチョコレートを女子があげてもイイ日なんだよ?」

それを聞いてホっとした表情。

「なんだ義理か」

「本命だバカ」

「っ」

その私の返答に、衛くんは怯む。

「だって、おかしいだろ!お前、好きなヤツいるって言ったじゃんか!」

「あれ、私が衛くんを好きになってもおかしくないでしょ?1年の時からずっと私の事フォローしてくれてたよね。気づいてないとでも思ってた?」

「!でも、好きなヤツが別に……」

「うん、だから正直ココからは願望。衛くん、ゲッコウさんでしょ?」

「……誰だよ」

「意識して見れば顔、似てるし。飲食店で夜遅いからいつも眠そうだし。始めの頃お酒飲まなかったのって未成年だったからなんだね?ゲッコウさんしか知らない事知ってたし。

ありがとう、私に大学で声かけてくれたのって私の事、心配してくれてだったんだよね」

「……知らないよそんなヤツ。お前の言ってるのって証拠じゃないよ?」

「うん。だから私の願望。同時に二人の人を好きになったよりも、同じ人を二回好きになった方がいいなって。ねえ、私、どっちかな?」

衛くんは苦い顔して両手をあげる。そして微笑んだ。

「降参ですよ、心愛さん」

「良かった。面倒にならないで。で?」

「え?で?」

「私、あなたの事が好きだって告白したの。衛くんの返事は?」

「……お前、強いけどいつも危なっかしいんだよなぁ。衛でも良ければ傍にいさせてくれよ。俺も心愛さんが好きなんだ」

「いや、私、強くもないし危なっかしくもないけど?」

「いや、それはおかしい」

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