第3話 異能

 大型ディスプレイに映るのは大型のモンスターと、リンカ含めた他異能者達。ランクの高い異能者はこうしてモンスターが現れた時に専用の端末にて駆除要請が届き戦いに向かう。


 それでも誰よりも早く駆け付けるのはいつもリンカだった。A5エーファイブのランクを与えられている彼女は、稲生学園周辺では1番の実力者だ。

 異能力者協会から与えられるランクはEが1番低くAは最も高い。数字は5から1へ数字が小さくなる程強さを表す。リンカはA5というAランクの中では1番下だが、そもそもAランクの異能力者が世界人口の2割に満たない数なのでどこでも重宝される大事な戦力である。


 A5のリンカを筆頭にBランク異能者達がリンカの支援を行う。そんなリンカを心配そうに僕――斎木翔と他研究員は見つめる。


「やっぱり……リンカの戦い方は危なっかしい……」


 自らが傷付くのを意にも介さず、氷の異能で生み出した巨大な槍をモンスターへ深く突き刺し新たに槍を作り出す。モンスターの攻撃をギリギリで受けながら常に氷の足場でモンスターの側に張り付く。

 周りにモンスターの被害が及ばぬように最接近し反撃を引き受ける彼女は、まるで死に急いでいるようにも見える。


 僕は拳をギリギリと握りしめ、今回もリンカが無事に帰ってくるのを祈りながら待つことしかできないでいた。



 ――――――――



 異形のモンスターの体内から熊のように鋭い爪を持った腕が私――氷坂凛華の腹部目掛けて飛び出す。当たれば致命傷は避けられないだろう。

 咄嗟に氷の壁を腹に作り受け止める。氷壁の生成が遅れたか、長い爪が氷壁を貫き腹部に傷を付ける。


 あぁ気持ちいいイイイ!


 周りの心配と悲鳴の声など気にせず、私は痛みの快楽に笑みを浮かべていた。

 腹部を凍らせて止血をして、高ぶった感情と共に身体から冷気が溢れ出る。


 「これはっ……どうだ!」


 一気に冷気を解き放ちモンスターを丸ごと凍結させると、それを見た周りの異能力者達が総攻撃を始める。

 動きを止めたモンスターに総攻撃。いつもならそれで駆除は完了しているはずだったが、どうやら今回はそうもいかないようだった。それにいち早く気付いた私は口に血を滲ませながら大声で叫ぶ。


 「全員退けっ! 攻撃がくるぞっ!」


 次の瞬間。氷の中で大きく蠢いたモンスターは全方位へ向けて黒く鋭い触手を氷を貫きながら突き出した。すぐさま近くにいた異能力者数名を突き飛ばし攻撃から逃がす。


 「がっっはっ……!」


 咄嗟の判断のせいで防御に回る事が出来なかった私は、肩と脇腹、ふとももを貫通する重症を負った。


 「リンカさんっ!」

 「怯むなっ! 最後のあがきだ!」


 かばった異能力者が咄嗟に私を助けに向かおうとして更に強く声を上げる。そう、今の攻撃はモンスターの最後のあがき。あと一撃を与えれば砕け散るだろう。

 モンスターと同じくらいの大きさの氷槍を生み出し全力でモンスターへ突き刺す。その瞬間モンスターは黒い霧となり一気に弾けた。どうやら終わったようだ。

 

 気持ちよくて最高の気分だ……。

 

 深い傷を負った私は止血に回していた異能の氷すら溶けて、ふっと意識を放した。


 ――――――――


「先輩っ!」

 

 リンカが力なく倒れたのを見て思わず研究施設を飛び出そうとした僕――斎木翔を神楽カグラカエデが引き止める。


 「どいてくれっ! いつか……いつかこうなると思っていたんだ!」

 「落ち着いてください先輩! 現地に回復系の異能力者が駆けつけています! それにっ……先輩が行っても何も出来ません!」

 「ぐっっ…………」


 悔しいがカエデの言う通りだ。僕なんかが駆け付けた所で邪魔にしかならない。そんな事は分かっている。


 「くそっっ!」


 昔から僕はただ見ている事しかできない。リンカの力になれた事なんて一度もない。そんな自分に腹が立つ。


 「先輩大丈夫です……きっとリンカ先輩は無事に回復して帰ってきますよ……!」

 「そんな事……知ってるさ……」


 リンカはこのくらいで死ぬ程弱くない。そんなの嫌という程知っている。

 

 「もう……傷付いてほしくないっ……!」


 何もしていない僕にこんな事を言う資格すらないのも分かっている。

 ただ彼女を思い涙を流すだけの僕をカエデはずっと抱きしめてくれた。


 ――――――――


 病室で目を覚ました私の腕には失われた血を補給する点滴の管が繋がれている。どうやら身体の傷は回復系異能力者の手によって全て治っているようだ。


 最高に気持ちよかったなぁ……!

 

 味方を庇い身体を貫かれた時の痛みを思い出し、久しぶりに最高のドM欲を満たせた嬉しさで涙がこぼれた。

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