第2話 覚悟
「ふぅ、これでよし……と」
生徒会の雑務を1人で全て終えた私――氷坂凛華は、書類をテーブルの上にまとめて窓から外を眺める。
青く澄み渡った空、生徒達の談笑の声。平和そのものである。
「足りないな」
そう、ドM心を刺激してくれる何かが未だに足りていない。それは生粋のドMである私には致命的な事実である。
普段から生徒に嫌われようとキツい態度を取ったりしているのだが、やはりドMがドSを演じるのは難しいものだな。だがいずれこの私の地位を脅かし、独裁状態のこの学園に新たな風を吹かせてくれる者が現れるだろう。
なんなら卒業してからブラック企業を作るのもいいかもしれない。もしくは分かりやすく悪の秘密結社を作るのも悪くない。
なんて考えていると、窓がピキピキと凍り付く。
「おっと。氷系の異能は厄介だな」
私の異能は何もかもを凍らせる事が出来る。今のようにムラムラしていたりすると冷気が漏れ出してしまうのだ。
生徒会室には私1人だけ。今なら発散できるな……。
生徒会室の鍵をかけ、ドM欲を満たす日課を始めた――――。
――――――――
「う〜ん……モンスターの出現条件が不明だ……」
僕――斎木翔は、学園の研究施設で頭を抱えていた。
この学園の地下に存在する研究施設は、国から支援を受けている本格的な施設となっている。表向きはただの学園だが、一般には非公開のこの研究施設では研究員達が様々な研究を行っている。
僕は彼女――氷坂凛華をあんな目に合わせたモンスターが許せず、モンスター被害を少しでも減らすために研究員に志望した。そのせいで勉学は遅れを取っているが、こちらの分野では博士号を取っているので教授にも認められ自由に設備を使わせてもらっている。
今僕が調べているのはモンスターの生態。そしてモンスターが亀裂からどのようにこちらの世界にやってくるのか。
今世界的に分かっている事として、空間に亀裂が生じてモンスターが侵入してきている。そしてその亀裂から出てくる未知の
それ以外に分かっていることは何1つ不明だと言ってもいい。
仮説では、やはり亀裂により別世界と繋がった。というのが大きく唱えられているが、科学的根拠もない状態ではそんな仮説を元に話を進めるのは意味がない、という状態だ。
僕が今悩んでいるのは、亀裂が生じてもモンスターの出現しない事例が過去何度も見つかっており、その理由を何とかして探している――――。
「せ〜んぱいっ♪」
「うわぁっ!?」
突然ほっぺたに冷たいものが当たって、思わず椅子から転げ落ちてしまった。
「もうっ、驚きすぎですよ先輩。はいどうぞ」
「あはは……ありがとう」
冷たい缶コーヒーを渡してきたイタズラ好きのこの子は、稲生学園2年の
よくこうして行き詰まっている時に僕を気にかけてくれる良き後輩だ。よくイタズラされるのは心臓に悪いからやめてほしいけどね。
「今日も思い詰めてますね〜」
「うん……」
「やっぱりリンカ先輩の為……ですか?」
「ちっ、違うよ! ……とも言えないけど……うん。リンカは辛い過去があって塞ぎ込んじゃってるから……」
リンカが今よりもっと幸せで笑顔になれる世界の為に。なんて小っ恥ずかしい目的だけど、研究員になった理由はそれしかなかった。
「ふ〜ん……でもそれでカケル先輩が笑顔を忘れてるのは、私嫌だなあ」
「そうだね……ごめん。切り替えなきゃ!」
そうだ。1番辛いのはリンカなんだ。僕が暗い顔していて彼女を救えるわけがない。
ほっぺを強く叩いて気分を入れ替える。
「ありがとうカエ――」
――――ジリリリリリリリリリリ。
礼を言おうとしたその直後、緊急アラートの音がなる。
「亀裂だ! 急げ!」
「ですって先輩! 行きましょ!」
「ああ、うん!」
施設から半径10km以内に亀裂が現れたのだ。
僕ら研究員は今日も観測データを取るために全員で巨大ディスプレイに映される亀裂の現地カメラを熱心に見据える。
――――――――
「くそっ……良い所だったのに!」
後少しで気持ちいいところだったのに、私――氷坂凛華は協会からの要請で亀裂から現れるモンスターの駆除へと向かっていた。
まあおあずけプレイってのもいいけど。
空中に氷の足場を作り出し、それらを1つ1つ蹴るように亀裂へ向かう。
「
「氷坂さん! モンスターはあそこです!」
「貴様ら! 早く避難しないとモンスター共々氷漬けにするぞ!」
近隣住民が私の姿を見て安心したようにモンスターのいる方を教えてくれた。
ありがたいと思いつつドSを演じるのは辞めない。
どうやら今回のモンスターはかなり大型っぽいな。
一戸建て住宅くらいの大きさはある異形のモンスターの姿が目の前に現れる。生物学に反した左右非対称の化け物。
様々な生き物が混ざりあったようなドス黒く気味の悪いモンスターを前に、苦戦しそうな予感を感じてドM心が沸き立つ。
「楽しませてくれよ……!」
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