第40話 vs闇の王

 そして闇の王のもとに着いた。


「ほう、来たか。待ちわびたぞ」


 時刻はあれから三〇分経っている。確かに待ちわびるだろう。仮に私だったら怒ってる。


「さてと、プレゼントでもしてやろうか」

「プレゼント?」

「これだ」


 そして闇の王は闇の渦を空に浮かせた。何の渦だろ。


「行くぞ」


 と、闇の中から大量の魔獣が現れた。

 なるほどね。


「一対二では些か不利なのでな」

「そんなこと言ったって一対千とか不公平じゃん、あ、こっち二人だから二体千か。まあどっちでもいいけど。とにかく、そっちがずるだよ」

「うるさい。貴様ら矮小な存在など、すぐに滅ぼして見せる」


そして闇の王は腕を振り下ろす。それが突撃の合図だったのだろうか、魔物達がこっちに一斉に向かってくる。


「来ましたよ」

「うん、分かってる」


 と、私は両手から魔弾をひたすらに発射する。


「あう」


 だが、その弾にかからなかった魔獣の爪が私の胸をかすった。胸から血が飛び出る。普通に痛い。


「今だ!」


 赤い光線が私の胸を貫き、そのまま感覚がまた無くなってしまった。

 何尾見えないし、何も聞こえないし、何も匂いがしない。


「くぅまたか!」


 闇の弾を周りにガンガン撃ちまくる。もちろんこんなもので倒せるとは思っていない。奴隷を連れていくための時間稼ぎだ。だが、奴隷も大分闇の王の攻撃でやられてしまったそうで、数が少ない。


だが、奴隷の視覚を貰ったとは言え、状況が戻っただけで、向かってくる魔物が多い。竜をけしかけたとしても、何体減らせるかどうかだろう。


「うう」


 だが、行動出来ないのはリリシアも同じだった。あらゆる場所から来る闇の魔獣、それに対抗する術が無い。

 彼女は彼女で対多数相手の攻撃技をあまり持っていない。



 そんな中リリシアもまた赤い光線に貫かれた






「はあ、はあ」


 この赤い光線と多数の敵、その対策を考えなければならないのだが、リリシアにはいい方法を思いつけない。彼女は詩音とは違って不死身では無い。これもまた詩音の行動を妨げる要素である。


 だが、考えてる間にも敵は動いている。詩音の多数の魔弾によって魔獣は減ってはいるが、詩音はリリシアの位置を大雑把にしか把握していない。奴隷の視界を借りるというのも万能ではないのだ。

何しろあくまでも他人の視界に映る自分なのだから。

詩音は天才的な感覚で何とかしているのだが、あくまでもそれは日本でゲーム(画面の中の他者を動かす)

をしたことがあるからという理由でしかない。


そんな中もしも仮にリリシアが動こうとしたら、リリシアは味方であるはずの詩音の攻撃に貫かれてしまう可能性もある。

 そもそもリリシアには詩音の姿は映ってはいないのだ。


「はあ!」


 リリシアは体勢を取り直し、彼女もがむしゃらに魔法を放つ。しかし、当然リリシアには放った弾が敵に当たっている実感も、放てているという実感もない。


 それにリリシアには魔王の光線のせいで痛覚も無い。もしかしたら自分はもう死にかけの状態かもしれない。だが、彼女はそんな考えを彼方に放り投げ、無心で放ちまくる。


 実はその攻撃の一部は詩音に当たってはいるのだが、詩音にとっても同様に痛覚のない状態であり、そもそも詩音は死なないため、詩音は意識してすらいない。


「つまらんな」


 そんな中闇の王はボヤをこぼす。


 もう少しまともな勝負になるとは思っていたが、感覚操作であっという間に二人とも沈んでいる。あとは数の暴力で魔獣を放り込めば、詩音はともなくリリシアは死ぬ。

 それでいいだけだ。先程は力を使いきれず、魔獣を出せなかったが、いざ出せるとこれだ。むしろ今から魔獣を引っ込めて自分で戦おうかという気持ちになる。


「おい、闇の王」


 詩音は無感覚の世界で呟く。


「まだ終わってはないから」


 実のところ闇の王には、詩音が闇の王の位置を把握できる事は知られていない。

 ランダムに放っているのは闇の王に位置を把握できるということを知らせたくないだけだ。


「ならお前はどうする? 奴隷たちもさっきの戦いで尽きたんだろ。なら私に敵ういわれはない」


 詩音は答えない。


「まあ聴こえていないのだろうな」


 と、闇の王は自ら詩音……ではなくリリシアの首を取ろうと走っていく。詩音の首は取れない、とならばリリシアを先に始末して、あとは魔王がやっていたように拘束する。それか、もしくは封印したらすむ話だ。


「リリシア!」


 と、詩音は雷の魔法を放ち、闇の王を感電させる。

 そしてそのまま縄を創造し、それで闇の王を捕まえる。


闇の王は当然それをほどこうとするが、そこに詩音が火の魔法を放ち爆発させる。


「貴様はもう感覚が戻っているようだな」

「うん。もちろん」


 嘘である。詩音の感覚は戻っていない。ただ奴隷を通じて視力と聴覚を取り戻しただけだ。それも不完全ではあるが、


「さてと殺すか」


 と、詩音は手で巨大な火の円を作り出し、その円からたくさんの火炎が闇の王に向かい、焼き尽くそうとする。


 だが、闇の王は手でそれを消滅させる。


「なるほどね、ロストマジック・消滅魔法ね」

「そんなものはないが……」

「言ってみたかっただけ」


 詩音にとってこういうのは漫画とかに出てきそうな名称なため、好きなのだ。


 ちなみにだが、半分あってはいる。名称が違うだけだ。名称はエンシェントマジックと言う

 だが、闇の王はそんな名称にこだわる存在ではない。


「さて……」


 そして裏で彼女に思念を送る。当然さっきまでは無理だったが、やってみたら意外といけた。


(あなたは大丈夫?)


 リリシアは相変わらず魔法を連打していた。


(何ですか?)


 闇の世界に閉ざされている彼女が答える。


(分かってないなあ。闇の世界から脱出できるのか聞いてるの)

(出来るわけないでしょう。今も魔法を放つくらいしかできないのですから)

(えー私みたいにさあ、感覚共有できないの?)

(できませんよ!)

(私の感覚共有は他人と共有できないしさあ)

(ならどうするんですか?)

(コツがあると思う。私はまだ抜けれてないけど、とりあえず感覚を外に出すと、一気に抜けれる可能性があるから)

(私、それができないんですが)

(なら私に任せなさい!)


 と、再び六つの炎の球を闇の王にぶつける。


「そんな低火力の技を連発したとて、私に届くか!」


 相変わらず消滅させられてしまう。明らかな火力不足。

 溜め技を使えば行けるかもしれないが、その間にやられてしまうのがオチだ。


「行くよー!」


 詩音は複数の球をぶつけながらその時を待つ。

 溜める隙さえできれば高火力の技を放てる。


「ふん!」


 だが、もはや技も使ってこない、ただその身で受けるだけだ。

 やはりこいつは硬い、硬すぎる。並の攻撃ではと言う問題ではない、よほどの大ダメージを与えなくては倒せない。


「サンダーボルトチェイン!」


 と言って詩音は雷の鎖を生み出し、その鎖で闇の王を縛る。


「はあー!」


 詩音は力をため……


「ブルーファイヤー!」


 と、青い炎を生み出す。すこし魔力を溜める必要がある技だ。これでどうか。


「少し、痛いな。だが、この程度か」


 少しだけダメージはあるものの、ほぼ無傷だった。


「そんなあ」


 詩音は次の手を考える。役に立つと思っていたリリシアが、全く役に立たなくなっている今、どうすればいいのか。


「ねえ。あなたの目的は何なの?」

「私の目的か? そうだな、最終的には神への復讐だな」


 と言い終わると同時に、詩音の足に向けて、光線を発射する。


「問いかけている間に魔力の回復をと思ったのだろう。だが、無駄だ。そんな安っぽい手には乗らないぞ」


 どうやらダメみたいらしい。闇の王と言うのもそこまで単純ではない。

 漫画みたいな手は使えないようだ。

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