第38話 闇の王
「貴様は詩音だな」
もやもやした存在に話しかけられる。
「あなたは?」
「私は闇の王だ」
中二病みたいなやつが出てきた。闇の王って、ネーミング安直すぎる。
「なるほどねえ。それで私はどうなるの?」
「そう焦るな。焦ってもいいことはないぞ」
「それはわかってるわよ」
「今の時点で太古の魔王、ラストは命を落とした。よって次の依り代が必要になる。君は依り代になるつもりはないか?」
「それって制約とかあるの?」
「ある。私が命じたら体を乗っ取れる権利だ」
嫌だー。損な条件受けたくない。
「ならさっきなんで魔王の体を乗っ取らなかったの?」
「今はその時ではない。神に抵抗するためにはラストの体では力が足りなかつた。次の望みはお前だ、詩音!」
「断るね」
「なぜだ?」
「私の体は私自身で動かしたいもの。もしも、飛べるようになったとしても私の体を操る人が私じゃなかったら意味がないの」
他人に体を操られるなんて地獄でしかない。
私は不自由を最も嫌う。
「なるほどな。ならば今覚醒するか」
「え?」
そして次の瞬間世界が変わった。
「私は闇の王。世界を滅ぼすものだ!」
そう、闇の王が現れた。
そして次の瞬間、世界が夜になった。光のない真っ暗闇に。
「私の復活条件は宿主の死亡だ。その点で君は仕事を果たしてくれた。感謝する」
「一つ納得できない事があるんだけど」
「なんだ?」
「さっき私に乗り換えようとしてなかった?」
「ああ、ラストよりもお前を依代にした方が良さそうだった。だが、断られたから今、ラストの体を媒体として復活したという訳だ。いや、そんな問答をしているほど暇ではない。時間をかけると神が来るからな」
神とは最初に私を覚醒させたあいつのことかな?
闇の王と神は敵対関係であるという事か。
「終わらせてもらおう」
そして私の体を赤い光線が貫いた。
「きゃあああああ」
目も見えない……何も聴こえない……何も感じない……。
SIDEリリシア
「魔王に何をしたの?」
「何もしていない……ただ、感覚を遮断しただけだ」
「感覚遮断……」
つまり今、魔王は何も出来ない状態だ。
そして赤い光線が私の方にも来る。
だが、私は赤を感じた瞬間横に飛び、それを避ける。
速度は早くはない。油断しなければ大丈夫だ。
「しっかりして!」
と、魔王の肩を揺らす。しかし、なんの反応もない。
「無駄だ。そいつは精神的にもう死んでいる。あとはお前だけだ」
そう言いながら闇の王が接近する。
「えい」
私は空に飛ぶ。しかし、闇の王が放った弾丸に当たってしまい、地に落ちる。
「うぅ」
「終わりだ!」
と、赤い光線が飛んで来る。思わず目を瞑ってしまった。
あれ、死んでいない?
目を開けると、……貫かれたのはただの兵士だった。
「さてと」
魔王が声を出す。
「私の感覚はこれで戻った!」
「何?」
「私はね、使役している奴隷にも意識を移せるの。だからこうして」
魔王は一歩ずつ歩く。
そういう事か、と私は理解した。
魔王には確か他人を使役する魔法がある。
それを使って自分の位置を把握しているわけだ。
さっきの兵士は私の盾になっだけだけど。
「私の位置を把握できるって訳!」
そして魔王はどんどんと闇の王に近づいていく。
「しかし笑えた物だな。お前は自分の位置を把握しただけ、これでイーブンに戻っただけだ!」
と、闇玉をいくつも魔王に向けて発射する。魔王はその玉を全部魔法の盾で弾く。
「ふん! ヘルブレス!」
だが、魔王には効かない。魔法の盾からバリアを貼り、完全に闇の吐息を防いだのだ。
「なるほど。私の力がまだ浸透しきっていないのか……ではまただ」
と、闇の王は逃げる格好をする。しかし、魔王はその闇の王を炎を発射し、焼く。
「ふん、またな」
そして闇が晴れた。
「あ、感覚戻った」
「良かったですね」
「うん!」
SIDE詩音
「え? これって?」
王都に戻るとそこには血の海があった。
「ごめんなさい!」
すぐにリリシアが謝った。
「ねえ? なんで?」
「私が目覚めた時にはもう……」
まだ生存者はいるらしいが、そばには血の流れた死骸があるのみだった。
「そっか私が負けたからね」
ああ、もうゲームのキャラとかよりは情がわいてたのになー。
「あはははは」
「どうしたんですか?」
「いやーね、私が捕まってる間にこんな残時が起きてるとはね。笑わずにはいれないよ」
「面白いんですか?」
「どうかなあ、半分だね。滑稽さが半分無力感が半分。私も別に死んで欲しくないと思ってるのよ」
まあ理由の半分にはどうせ死ぬのなら私が殺したいというのもあるけどね。
「さてと、国を挙げて埋葬する。着いてきて」
「はい!」
そして城に戻った。すると……
「何よこれ」
城の中も例外ではなかった。一号二号三号みんな死んでた。
「そんな……」
「私はね……悲しいことにね……この状況を見ても楽しさを感じるのよ。こんなことを思いながら死んだんだなとか考えてさ。だからその光景を見れなかったことも悲しいわけ。てかむしろそっちの方が大きいかな? 私が手心を込めて育て上げたこの子たちが、私以外の手で、殺されていくのがさ。
だから私闇の王を殺せなかった事が悔しい。あの時未完全なまま殺せたら……でも今更そんなの願っても無駄だから後で一緒に闇の王を殺しに行かない?」
「私は……あなたの言っていることに共感できません。あなたにも悲しみという感情は多少なりあるのでしょう。でも、私はあなたがただ、芸術品が他人に壊されたみたいな言い方をしているあなたのことが理解できません」
「そりゃあそうでしょうね。私はね、結構前世からサイコパスみたいなところがあってさ、カブトムシを殺して絶交された事もあるの」
確か、友達がカブトムシを見せてきた時に、私はカブトムシをいじって遊んでたんだっけ。でも、遊んでいるうちにいつの間にか殺してしまっていたっけ。
「カブトムシ?」
「ああ、あなたには分からないか……でも言いたいことはそういうこと。私には元来人の感情を理解する能力はない。他人に敷かれたルートを通るのが嫌、他人に指図されるのが嫌。勝手に人間という不完全な姿にこだわっているのも嫌」
だから、窓から飛び降りたんだし。
「……」
「そういえば、言ってなかったよね。私は飛びたいだけなの。だからさあなたも今は許さないと感じるわけ。別にガーゴイルとかも嫌いで嫌いでしょうがないけど、でも仕方ないって諦めてるわ」
「つまり、私が飛べるようになったから私の事が嫌いっていう訳ですよね」
「そういう事。だからケジメをつける。私と決闘して! 勝った方が闇の王を倒す。それで良い?」
今の状態だと、リリシアと一緒に戦うのは無理。
「二人で倒した方が効率的かと。それにまた強くなってるかも知れないし」
「私がやりたいだけよ。じゃああなたが勝ったら殺された人のため、私が勝ったら芸術品を壊されたから。それで良い?」
「復讐の理由なんてどうでも良いですけど、あなたが納得できるためなら戦いましょう」
「ありがとう」
そして決闘が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます