第32話 拘束
「決めた?」
翌日の朝、魔王が私に言った。
「ええ、もうとっくに」
「答えを聞かせてもらいましょうか」
「私は……」
やはり怖い。でも!
「私が代わりになります」
「本当にいいの?」
「私はもうすでに死んだ身です。だからもう私が犠牲になったほうがいいと思って」
「偉い!」
「え?」
抱きしめてきた。
「私はその覚悟応援するよ。というわけで、今から拘束しよっか」
そう、あっけからんに言う魔王を見て、恐ろしいなと思った。
「ちょっと待ってください。私を拘束する前に彼女の拘束を外してもらえませんか?」
「注文が多いなあ。まあいいよ。こちらに来て」
「ありがとうございます」
と言って彼女の部屋に案内された。
「魔王様?」
「今から貴方の拘束を解きます」
そして魔王は手慣れた手つきで拘束具を一つずつ外していく。
「あれ、手が動く」
「それが自由っていうものよ」
そうミルに伝える。
「さて、次はあなたね」
「はい! 覚悟は出来ています!」
「最後に街探索とかいいの?」
「私の肉親は全員なくなっていますし、街に行っても特に面白い事はありませんから」
「まあ拘束済みでも演劇は見られるからね」
「そうですね」
決意はしたがやはり怖い。この拘束具がはめられれば、私は自由の味を失ってしまうのだ。ミルの自由と引き換えに。
もしかして、魔王を殺す方法を探していたほうがよかったのだろうか。そんな考えが巡っていく。
「準備は良い?」
「はい! いつでも」
「じゃあ手を借りるわね」
「はい!」
そして手を強く握られ、後ろ手で縛られる。
「これをはめていくわね」
と、目の前に今から私の体の一部となる手枷を見せられる。
「行くわね」
そして私の手に枷がはめられる。ミルの体についていたのと同じ物だ。
「はい! 完了」
そうして私の腕の自由は失われてしまった。これがミルがずっと身に受けていた不自由というものか。もう、自分の選択を後悔しかけている。私の決めた道なのに。
「次は足行くわね」
「はい!」
と、足を前に突き出す。
「ちょっと触るわね」
と言うとすぐに私の足を掴み、拘束具をはめ、右足もあげて拘束具をはめる。
「これで足も完璧。次は首ね」
と、首にも大きい首輪がはめられる。
「はい! 完璧! 完全なる奴隷の完成ね!」
「はい、そのようですね」
腕を動かそうとしても、もう一方の手から離れない。足の方も足を開こうとも全く開く気配がない。つまり私の動きはほぼ完全に封じられてしまったのだ。
一生これかと思い、もう少し考えちくべきだったかな、とかおもってしまう。自分の選択を変えるなんてことしていいはずがないのに。
「安心して、私がかわいがってあげるから」
さっきのところを見た後だとかわいがるの意味が、どちらかわからない。
いじめる、なのか。本当の意味でのかわいがるなのか。
「はい……」
「じゃあさっそくまた出かけましょうか」
「はい?」
「ああ移動できないんだったね。この箱に入れることで動けるから」
「そうですか」
そして箱の中に入れられる。彼女によると、私の処刑の間にもこうやって箱に入れた彼女たちが見ていたらしい。ということは私のあの啖呵も聞かれていたということなのか。
「別にね、私自身はあなたを拘束したいわけじゃないんだ。あなたには私の良き好敵手になってほしいからね。それに別に苦痛を与えるための奴隷は別にいるし。さっきも見たでしょ、あの感じ。でもね、これはあなたが決めたことだからその決断を否定したくない。だからしばらくはそのままでいてもらうわ」
「はい」
そのまま……つまり拘束されたままでという事だろう。
「今日も演劇身に行くわよ」
「またですか?」
「ええ。当然よ」
「まあ楽しみではありますけど」
そうして劇を見た帰り……
「今日は一緒に寝よう」
「え?」
「大丈夫、こちょこちょとかはしないから。たぶん」
「いや、そんなことじゃないんですけど」
今日魔王と寝る。つまり敵を討てるチャンスかもしれない。ただ、手足が縛られてる今どれぐらいのことができるのか……見え張って私が身代わりになりますって言わなかったらよかったのかな。いや、だめだ。そんなことを考えてたらダメだ。一回決めたことだから。
「さてと、ご飯も一緒に食べようか」
帰ったらすぐにそう告げられた。今はまだ五時。今日はお昼ご飯は食べていないはずだから初の高速状態でのご飯となる。楽しみ? いや、そんなわけがない。不自由に今もう、つらくなっているのだ。後悔してしまうぐらいには。
「ご飯はね、みんなで食べるの、でも今のあなたは拘束されている状態。だから魔王自ら食べさせてあげるわ。感謝しなさい」
と、言われすぐに部屋に行くことになった。
「お姉ちゃんおかえり」
と拘束具が外れた影響なのかいつもより笑顔なミルちゃんが話しかけてきた。
「ただいま」
「ねえ聞いて聞いて聞いて」
「うるさいって」
と、ルーズが突っ込む。
「いいでしょ!」
「調子乗らないの」
「あんたはそんな上げ足取らないの。で、お姉ちゃん」
改めえ反しかけてきた。
「私、今めっちゃ自由でさ、走れるし、腕をこんな風に自由に動かせるし、めっちゃ幸せ。ありがとう」
ああ、感謝されるのはいいものだ。
「それは良かった、でもそのあざ取れないね」
ミルの手を見て言う。彼女の手には拘束具の跡がしっかりとついてしまっている。
「もう五年間もつけられてたから仕方ないよ。でもそんなことよりも幸せなの」
「良かった」
この私の不自由も無駄じゃないんだ。そう思えるだけでうれしい。
「でも私のせいでお姉ちゃんが」
そうミルが足枷を触りながら言った。
「大丈夫。私の決断だから」
「でも」
「あなたのせいじゃないわ」
「うん!」
「私はもう寝よっかな、疲れたし、暇だし」
「暇だったら会話したらいいじゃん」
そうルーズが言った。
「あんたはわかってないなー。暇なんだよ。手足が動かせないの」
「そういう事。だから寝かせて」
「わかったよ」
「あ、お布団しくの手伝う」
ちょうど布団をどうしいたらいいのかわからなかったからありがたかった。
「いた」
いつもの感じで寝たら腕が体の下敷きになっていたい。そうか。これが拘束されている時の弊害か。
これはしんどいな。
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