第31話 葛藤
「魔王様! おかえり!」
と、拘束された少女が出迎えてくれた。
「ただいま!」
と、魔王は少女を抱っこする。彼女は両手両足がしっかりと拘束されている。表面上は笑顔だが、本当は今もしんどく苦しいはずだ。今も笑えているのが不思議なほどに。
私は何故拘束されていないで彼女だけ拘束されているのか、何故あの子は拘束されているのに幸せそうな顔をしているのか、何故私は拘束されてないのにこんな気持ちなのか。
「ほらあなたも抱っこしてあげて?」
そう言って、少女を手渡される。
「こうですか?」
「そうそう、そんな感じ!」
「お姉ちゃんありがとう」
お姉ちゃんありがとう……か。私はただ抱っこをしただけなのに。そう、感謝されるようなことはしていない。
「お姉ちゃん暗い顔をしてる」
「え?」
確かに私はあの日からほとんど笑ったことはない。全くと言うわけではないが、それでも笑いの頻度は長くなった。私はやっぱり、こいつを許せない。人を不幸のどん底に追いやってなお生きているようなこいつが、
この子のためにも、私のためにもこいつは殺さなくては!!
「私は……」
「大丈夫!」
魔王がこちらに向かって話しかけてくる。私は……
「私は死なないから、そんな事を心配しないで」
見透かされてる。だけど私は……無駄だとわかっていても、こいつを殺さなくてはいけない。
「うわあああああああ!」
少女を床に置き、魔王に殴りかかる。
「ダメダメ、そんなんじゃダメ! 私を百年経っても殺せないよ!」
腕をつかまれる。
そしてすぐに諌められてしまった。何故こうも上手くいかないんだろうか、私はどうしたらいいのだろうか……
「そう焦らなくても大丈夫! 私の殺し方を教えてあげるから」
「え?」
それは願ってもない話だ……その事を言ってくれた人が魔王本人という事を除けばだが。
「明日からやろっか。今日は私への怒りを溜めといて……ね!」
「はあ」
相変わらず訳がわからない。もう反論してやろうという気も無くした。いや、その言葉を思いつかないからと思うが……。
「じゃあ今日は残りの時間その子と遊んでおいてね!」
「え?」
「いいじゃん。妹代わりという感じでさ」
「私の村には妹同然に思っていた子もいました。その子もあなたは魔物を使って殺したんです」
「私はだめなことをしたとは思ってないよ。そもそも人の死無しで侵略なんてうまくいかないしね。それに一番のメリットとしては、私が楽しめた。それでよくない?」
「十分なわけが! 私の家族を奪った! 私の村を奪った! それもただのエゴで! なのに私は今なぜか殺されずにいる……こんなの不条理です」
もう何にも分らない。ただ、ただ、魔王を殺すか、私が天国に行くかどちらであってほしい。私が……私が……
そして私の意識は闇に落ちた。
「魔王様寝てしまいましたよ」
「そう……いきなり責めすぎ? なことをしちゃったかな。あなたと一緒に別の部屋にうつつわね」
そう言って魔王は二人をベッドで寝かす。
「はあ、まあ私のせいなんだけどね。あの子の兄を殺したのも私が楽しみたいだけだし。
詩音は彼女の兄が誰かしっかりとわかっている。あの時に救世主と偽って殺したあの人だ。
「ふはぁ」
周りを見渡すと手足を縛られた少女が私を見ていた。
「私寝てたの?」
「うん。ぐっすりと」
「そう……」
疲れてたのかな? 別に睡眠不足ではないと思うけど。
「ところでさ……」
聞きたいことがある。
「あなたは何年間ここにいるの?」
「五年くらいかな? 知らないけど」
「その間手足はそのまま?」
「うん」
「つらくないの?」
「……もう慣れたから辛くない」
「なんで? あなたは鎖につながれてるのに私はつながれてないんだよ。羨ましく思わないの?」
「思わない。だってこれが私の運命だから」
「そう」
横を見てみると、拘束具があった。魔王が置き忘れたものだろう。
「これで縛ってみたらどうなのかな?」
縛られてる子を見たら私も……いやいやそんなわけないから、これは試し、試しよ。
別にそんな変な性癖なんてないから。
そして手を前で拘束して自分で鍵を閉める。これで手が前でつながれ、手が自由じゃなくなる。
「どう?」
手をぶんぶんと振る、彼女みたいに後ろ手じゃないからあんまり不自由さはないが、軽く縛られている感じがする……て、本当にやめてほしい。私はそんな趣味がないから!
とにかくさっさと外そう。
「え? もう外しちゃうの?」
「いや、私はもともとそんな長時間つけるつもりなかったし」
やばい、めっちゃ可愛い顔で見てくるんだけど。
「わかった、もう少しだけね」
このかわいこちゃんに従うしかないようだ。
「ねえ。聞いてもいいかな」
「何?」
「もしもこの鎖が外せるってなったら、外す?」
私にはもうわからない。何をなすべきなのか。
「わからない。だって物心ついた時からこうだし」
やっぱりそうだったのか。ということは逆に言えばこの子は自由を知らない。やっぱり……わかってはいたことだけど……魔王は悪だ。
「私が絶対その鎖をいつか外してあげる!」
「まあ、ありがとう」
わからないけどか……この子が知る知識は、世界は小さすぎる。
「お邪魔しまーす」
そんなことを話していると、魔王が来た。
「調子はどう? 体調治った?」
「はい……まあ」
この無邪気な目の奥にあるのは何なのだろう。
「ん? それ手枷じゃん つけてみたんだ。もしかして君ドエム?」
「ドエム?」
意味が分からない。
「あ、ドエムっていうのはね、自分が傷つくのが好きな人のことだよ。私と対極っていうわけだ」
「そんなわけないじゃないでしょうが」
と、目標を忘れるところだった。
「この子を解放してあげてください」
「そんなことを言うんだ。私のおもちゃのくせに」
「はい! 聞けばあなたはこの子が小さいころから拘束してるって言ってたじゃないですか?」
「だったらあなたが代わりに拘束されるっていうの? それだったら考えてあげるけど。もし承諾するんだったら、一生手足拘束されたまま過ごすことになるのよ」
「……」
「そりゃあできないよね。あなたは弱虫っていう事よ」
「……考えさせてください」
「ということは拘束される覚悟があるっていう事か……ちょっと来て、この世の地獄を見せてあげるわ」
彼女は外に出て、その後を私が追いかける。
「ここよ、彼女は牢の中で一生過ごすことが決定つけられた子なの。みて、この現状を。酷いでしょ! だからその子を救ったって全部が救われるわけじゃないの」
「なんでそんなひどいことをするんですか?」
「いわなかった? 私が楽しみたいからよ」
「私にははっきりとわかります。あなたはクズです」
「そんなことを言っちゃっていいの? 私の怒りを買っちゃうよ!」
「いうことが大切なんです。罰なら受けます。でも、私は訴えることをやめません!」
「まあいいわ。別に。明日訊くわ、回答を」
「わかりました」
そして私は元の部屋に戻される。どうなのだろう、私は……拘束されるのは嫌だ。だが、あの子が可哀想なのも事実だ。それにあの子は私の死んだ友達によく似ている。
「ねえ」
彼女が聞く。
「さっき魔王様と何を話してたの?」
「大した話じゃ無いよ。ちょっとした話をね」
そう、大した話では無いはずだったんだ……あんな残場を見なかったら。
「ねえ、私はさ、あなたを助けたいと思ってるの。あなたさえ良ければだけど」
「私は、別に困難とか陥ってないよ?」
やはり、いまの状況が普通だと思っているのだ。この子は。
「助けるから」
「?」
今はわからなくてもいい。幸せになってくれたら。
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