第27話 脱出
「はあ!」
「ふん!」
こちらではまだ大戦闘が続いていた。お互い一歩も譲らない戦いだ。剣がぶつかり合うたびに軽い衝撃が生じ、周りにいる互いの部下は近づく事も出来ない。
「ここから先は死地だぞ」
「死地だろうが、関係がない。主のために戦わなくては」
確かに目の前には多数の敵がいる。だが、そんなもの、魔王のためなら朝飯前だ。
「その覚悟は無駄だ! もはやここから先はほぼ掌握している。私を倒してもまだ大勢の人がいるぞ」
「そんなことはどうだっていい。主のために命を落とせるのなら本望だ!」
そこに大勢の援軍がやってくる。だがラドルフはひるまない!
「うおおお! 覚悟しろ!」
そして強引に斬り殺し、次の敵に標的を定める。だが、その前に肩に一撃位、肩から血がとぼとぼ流れている。これでは長くは戦えないだろう。
「ここで朽ちるわけには行かないのだ!」
その頃……詩音と言えば……
「やった! 登れた!」
脱出出来た! 魔法が使えないのは外側に発する場合だけで、内側に対する魔法は使えたのか。つまりエンハンス系とかバフ系だとか言われるやつだ。私全然内側に対する魔法使ってなかったからなあ。
「ひい! かかれ!」
「次は同じ手には乗らないからね」
と言い、地面に足をだんっと打ち、地面に対する付加効果を全て消した。
「これで大丈夫」
後はここにいるモブたちを倒すだけだ。
「さてと、私ね……怒ってるんだ。手加減はしないから」
今から始まるのは一方的な蹂躙だ。もう手加減はしない。
「いけ!」
私は竜巻を生み出し、敵にぶつける。
それはただの竜巻じゃない。中に雷が入ってるのだ。そう、もう当たったら即死だ。
「ふん!」
と、隊列の後ろにいた男の風の魔法によってかき消され……
無い!
「ぐあああ!」
「そんなちんけな魔法で消せると思った? 可愛いね」
ああ、可愛い、そんな弱さが、そんな愚かさが、そんな全てが。
「でも、可愛いから免除とか全然無いからね。死ね」
そして雷が彼を撃つ。そしてあっさりと黒焦げになって死んだ。
「さてと次だね、君たち覚悟は良いかな?」
「……」
その君たちは無言で剣を構えた。震えながらだ。
「そんな怯えた感じで剣を構えなくてもいいよ。もっと戦う気概を見せなさいよ。こんなふうにさ!」
周りの魔力を膨張させ、オーラを作り出す。
「こうしたらなんかっぽいじゃん。魔力の粒子に色をつけたらいいだけだからさ。やってみ?」
やっぱり私は舐めプをする運命なのか。まあ、気をつければいいだけだが。
「馬鹿なことを言うな」
まあそれが一番まともなセリフだよね。悪役の言うことに従うような人はいない。当たり前のことだ。だが、この場合は悪役の言うことに従っといたら寿命が少し伸びたかも知れないけどね。
「いけー! 魔力の海ー!」
魔力の海が相手を襲う。これは魔力効率がクソ悪いからあんまりやらない方がいいのだが。
この魔法を使うぐらいなら普通に水をぶつけたりする方がダメージが大きいのだ。
「ぐああああ」
まあこのカスどもには関係が無いがな。
「ああ、帰ってきたか」
可愛い操り人形が帰ってきた。他の剣を見ると、たくさんの人を斬り殺してくれたようだ。
「気分はどうだった?」
訊くが答えは返ってこない。ああ、しゃべる口を奪ってしまっていたのだった。仕方ないか。
理性を残したまま体だけ操ったほうが良かったかな? それは反省点だ。だけど、もうこいつらの精神は死んでいる。もはや体だけ操るのは不可能だ。
「さてと、次も頼むよ!」
そして次の戦場に向かわす。魂の叫びを聞けないのは残念だが、これだけでも阿鼻叫喚の声が聴けるだからいいんだよね。こいつらはゾンビだ、最後の一人を殺すまで再び暴れまくれよ。
「さーて私は私の方でいろいろやるか、まあもうほとんど終わってるだろうけど」
と言って周りを見渡す。やはりもうほとんど終わっている。もうね……。
「次行こっと!」
そのころ、
「はあはあ敵が多すぎる」
ラドルフはまだ戦っていた。詩音のいたところに敵が少なかったのは、ライオスのところに行った援軍が多かったからというのもある。
「くだばれえ!」
と、敵の兵士が叫ぶ。
「くたばらん!」
ラドルフは剣を受け、力で押し返し、斬る。
「はあはあ」
ラドルフは疲れで過呼吸気味になった。
「はあ!」
ラドルフは向かってきた二人の剣士を切り伏せるが、三人目の剣士に斬られた。
「っくそ」
ラドルフは気合で立つが、血が出て、もう長くは戦えない。
「ここまでか」
「やっぼー元気?」
詩音がやってきた。
「魔王様! なぜここに!」
「あー、なんか殲滅できたから」
獲物集めにね!
「しかし穴に落ちてたんじゃ」
「それは体を強化して登ってきた」
「やはり流石ですね、魔王様」
「まあね、私強いから」
褒められるのは気持ちがいい。
「で、こいつらを倒そう」
「そうですね!」
「いくよ!」
地面から、土を隆起させ、相手の金的に当てる。
「ぐあああ!」
「流石にカンチョーは痛いでしょ」
「さ、流石です」
あれ? 変な感じで見てる。さすがにカンチョーは違うかったか。まああれ結構聞くと思うけど。
「さてと、もう敵はほぼいません。もうほとんどこちら側の勝ちです」
「うおおおお!」
ラドルフをはじめとする人たちが雄たけびを上げた。
「待て」
遠方から声がする。
「何かしら?」
「まだ終わってはいない。この勇者マクリス。お前を倒して見せる!」
と、そう言い放った。
「あれ? 勇者は私のはずだけど」
「お前は魔王だろ」
「いやいや、私はもともと勇者のはずだよ」
「いや、私は私の国にいた魔王を討伐した正当なる勇者だ」
「それはあなたの尺度でしょ。私は別に勇者なんてどうでもいい。だって私は勇者という称号を捨てたのだから」
「お前が最近有名だった魔王か……だが、こちらは負ける気はない。行くぞ!」
と言ってマクリスは向かってくる。
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