第26話 人間軍の侵攻
「戦況は?」
「著しく悪いです」
「そうか、まあすぐに戦況を翻してやる」
早くあの子たちの元に戻りたいし。そもそもこの詩音様がいて、負けることなんてありえない。
さあ、暴れるぞー!!
「さてと」
早速そう呟き、戦場の主戦場へと向かう。
「やあ、私が魔王だ」
人と魔族が戦っている間を通り抜け、最も戦いの激しいところで呟く。
「貴様ー! 魔王詩音か?」
敵の指揮官っぽい男が叫ぶ。
「うん。私の名前良く知ってるね、偉い偉い。ほめてあげる」
「煽るのも大概にしろ。奴をしとめろー!」
やっぱりだ。私の首を取るのが戦争の勝利条件と思っているから、私の方へと向かっていく。だったら話は簡単になる。私がこいつらを倒したらいいのだ。
「うおおおお!」
むさい男どもが向かってくる。面倒くさい、さっさと終わらすか。
「はあ!」
周りに電磁力のフィールドを作る。これは後出しの技だが、前もってここに作っておいたフィールドから放つというものだ。すでにここに来ていた男どもはすでにしびれたようだ。
「さあて、はあ!」
そして彼らの脳を操り、味方にした。細かく言えば、脳から、精神を壊し、私の意のままに暴れる改造人間にしたというのが正解か。
「さてと、向かってくれますか?」
そう命令を出し、操られた人たちは向かっていった。
「おい、お前やめろ」
どうやら味方を斬るのは躊躇しているらしい。楽だわ、こういう道徳があって。確か聞いたことあると思うけど、こういう場合一番強いのって感情を捨てた人らしいね、知らんけど。
「傍観しているだけでも、結構な被害を与えられそうね」
「さすがです魔王様」
まさかここまでうまくいくとは思わなかったけど、やっぱり操り人形ね、強いのは。
「さてと、私はもう少し攻めてみるわ。貴方たちは好きにしときなさい」
「は!」
そして、ここは大丈夫だと思ったのか、皆別の場所へと向かって行く。
「おい、お前こいつらを止めてくれ」
早速その指揮官らしき人が言う。
「嫌ですよ。私は好きにやってるだけです。勝手に死んでください」
止めてくれと言われて止めるような馬鹿はいない。
「こいつら強いんだよ」
「当たり前でしょ。元の実力通りなわけないじゃん。馬鹿だねー」
「魔王を倒せ! こいつを殺せばみんな元に戻るはずだ!」
そんな事を言いながらみんな向かってくる。だけど無駄。
「うわあああああ」
また、向かってきた人を操り人形にする。
「学んでよ」
だが、一人生存者がいる。
「これの欠点ね、ある程度の実力、精神力を持っていたら助かる。全く困ったものです」
そう自己分析する。その間に生存者は向かってきた。
「やれやれ、私を倒せるわけないのに」
異世界人である私を……ん?
雨が降ってきた。なるほどただのモブじゃないようだ。
「なるほどね。雷を降らすとかそういうのでしょ! 相手になってあげる」
そう言って頭の上にバリアを作る。
「ほら雷を降らせてよ」
私は手を横に広げる。
「舐めるな!」
奴はそう言い、雷を落としてきた
「痛う」
バリアを貫通して、私の体を穿ってきた。私がダメージを負ったのいつ以来だろう。痛いなあ。
「やったか!?」
それは負けフラグだって。もう私の体回復してきたし。
「くらえー!」
私は地面から土で出来た壁を作り、挟み込む。
「うわあああああ」
大体魔法使いなんて守備力が低いものだ。私を除いて。
「悪いね、私不死身なの」
そう言ってその場を後にする。別にあいつにやぶやれただけで別の操り人形は作用している。もう結構勝ってる感じだろう。
「さてと」
そう呟き、その場を後にしようとした矢先に……。
「え? 何?」
巨大な落とし穴に落ちた。そして地面の中には針がある。しまった、これは不死身でも受けきれない。
「いった!」
針によって常に死に続ける。そうか私守りの練習あんまりしてなかった。痛い。
「だっけど」
私は痛みに弱いわけでもない。痛覚を頑張って我慢して風の魔法を使う。しかし風が出ない。
「まじかー」
異世界に来てから水車に括り付けられた時以来のピンチだ。昌か魔法が使えなくなっているとは。むむむ、こんな罠初めて見た。
「はあ、どうするか……」
このままではまずいというのは明白だ。別に私は死なないからいいけど、上の状況が心配。操り人形がまだ生きてるとは言え、あいつらでなんとかできるとは思えない。
それにしても痛い。眼球くり抜いた罰が当たったかな笑
そしてふと上を見上げる。すると鳥がいた。
「……鳥……」
鳥を見るなんて久しぶりだ。忘れてた、鳥になりたい事。
鳥になれたらこの状況も打破できるのに。風で飛ぶのにまだ限界があるのだ。
助けは来ない。仕方ない、あいつら弱いんだから。
「よーし」
なんとか脱出の方法を考えなくては。まず魔法は使えない。これはなんでかわからないけど、結界とかなのかな? 操り人形も動かせない、というかあいつら大した命令聞かないんだよね。
だからなんとか魔法を使わず脱出しないといけない、この針から抜けることなんとかできるかもしれない。
「んー」
痛いけど、力を込めれば体が少しずつうえにあがっていく。めっちゃ痛い、だけどなんとか……。
「抜けた!」
はあ、なんとか針を支えにしてなんとか立ち上がる。
とはいえ上までおそらく二〇メートルはある。そこを魔法を使わず脱出するというのは正直言って難しいだろう。
「やっぱり助け待つしかないのかな」
こんな感覚は本当に久しぶりだ。こんな不安になるのは。
そういえばガーゴイルたちがいたな。あいつらなら飛ぶ力は魔法じゃないから私を助けられる。
はー、久しぶりに鳥になりたい。最近思うことは無くなってきたけど、こんな状況になったからね。
「魔王様が落ちられたぞ。助けに行くぞ」
そう、魔王軍参謀長ラドリフンが言う。
「おう!」
そしてラドルフの命令で沢山の魔族が向かって行く。詩音が落ちた穴に。
「ふん! ここは通すか!」
と、人間の兵士が言った。
「否、倒してもらおう!」
ラドルフは雷剣を持って、剣をぶつけ合うと同時に雷を放ち、周囲から攻撃を狙う。
「死ね!」
そしてラドルフは瞬神の如く兵士を切っていく。早く行かなくてはならない、早く助けに行かないといけない。
そしてラドルフが一気に駆け抜けようという時に、
「ここは倒すわけには行かない」
と、別の人間の兵士が言った。豪華そうな鎧を着ているあたり、中々の強さだと思われる。
「お前は雑魚ではなさそうだな。だが、それしきで怯む私ではない。我が名はラドルフサンダーテイン! ここは通してもらおう!」
「なら私も名乗っておくか、ミドラダー ラスティアスだ」
そして二人の剣士はぶつかる。
「はあ、もうどんぐらい経ったんだろう」
まだ私は穴の中にいた。今取れる方法は待機、ただそれだけだ。
助けを待つのも暇なんだよなー。どうにかして自分で脱する方法を探したいんだけど、うまくいかなさそう。
「あ、鳥」
横に赤い鳥が上から降りてきた。
「ああ、なるほどね」
と、鳥を腕で掴む。
「お前たちはなんで飛べるんだよ」
あの鳥はわざわざ自分からここに来た。つまり自分で上に脱出出来るのだ。
「ムカつく」
私はここから脱出出来ずに苦しんでいるのに……なぜ!!
その赤い鳥を手でさらに強く掴む。鳥は逃げようとバサバサと翼を羽ばたかせる。だけど私はそれを防ぐ風に強く掴む。
「死ね!」
と、手に力を入れ、鳥を握りつぶした。
「さてと、どうするか……」
と、再び考える。そう言えば岩は壊せるのかな? よしやってみよう!
「はあ!」
岩を殴る。だが、すごく腕が痛い。岩殴るのって痛いなー。
さてと、寝るか。
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