鳥になりたかった少女、異世界で残虐な魔王となる

第23話 グラニアス

「大丈夫か？」

　その場にいた魔族の兵士たちに問う。この救世主様が。

「はい、大丈夫ですが、敵の本軍が到達してきて、戦況は芳しくありません」

「そうか」

　まあ私がいたら余裕だと思うけど。

「魔王様、手を貸してください」

「いいよー。ちょっと魔力貯めるからその間粘ってねー」

「はは！」

　そして私は魔力を貯める。まあ正直早く終わらせたいかな。私の楽しみは勝ってからだから。

　別に魔力をためなくても強力な魔法は打てる。だが、魔力をためると、

　後々楽になるのだ。それに、圧倒的な力でねじ伏せたほうが魔王っぽいじゃん？

「はあー！」

　魔力の球を敵に向かって投げつける。その隊長っぽいやつに。

「うぎゃたあああああ」

「あなた強いでしょ。だからしばらくその球の中で眠ってて」

　その球によって、体長は閉じこめられ、その中で苦しむ。

　この球はいわば脱出不可能な拷問玉だ。

　正直悲鳴が気持ちいい。

「さすが魔王様！」

「ぬああああ。小弱な！　お前も人間ではないのか？」

「私は人などすでに捨てた。これには理由があるのだ」

　まあ大した理由じゃないけどねー。さてと、

　空中に、巨大な回転する風を生み出す。今度のは回ってる手裏剣のような物だ。

　これさえ見れば私が今からすることなどゆうに理解できるだろう。

「これに切り刻まれる覚悟はいいかな？」

「怯むな！　魔法で打ち消せ！」

「貴方たちごどきの魔法で打ち消せるかな？」

「なんだと舐めるな！」

「舐めるなって言われてもなあ。じゃあ行くねー！」

　そして風の手裏剣は敵に襲いかかる。ものすごいスピードで。

　これには私の意思を付けてあるから、兎に角敵を切り刻むようになっている。

「言っとくけど周りの風にも回転起きてるから気をつけてね」

　見える範囲だけが、攻撃対象なわけではないのだ。

「うわああああああ」

「あ、遅かったか。言うの忘れてた。ごめんね」

　そして多数の兵士たちが細切れになった。そして地面には大量の血が流れ、まるで水たまりのようになった。

「あ、やっちゃった」

　細切れにしたら痛みつけられないじゃない。

「まあいっか！」

　どうせまだいるだろうし。

「やめろ。もう殺してくれ」

「あ、存在忘れてた。死ね！」

「ぐあ！」

　そしてあの空に浮かしていた兵士も細切れになった。

　あ！　いいこと考えた。

　と、地面の血を飲む。これこれ、してみたかったんだよね。さあ、味はいかが？

「まっず」

　美味しくなかった。失敗したねえ。

「さてとこれで終わりかな？」

「流石です魔王様」

「あんまり褒めないでよー照れちゃうじゃん」

「こうなったら、老騎士セスニオル様を呼ぶしかない」

　セスニオル？　誰だ。まあ誰がきても負ける気はしないけども。

「さてと王城の中を拝見させてもらいましょうかね」

　私は王城の中に入る。もはや敵はいない。勝ったも当然だ。あとは王様を幽閉して勝ちだ。

　一方その頃

「アレグセオ様！　アレグセオ様！」

　兵士が別荘のような場所に入り、大声で叫ぶ。その声に髭を生やしたおじいさんが気づき、兵士の元に歩き始める。

「助けてください！　国が滅ぼされてしまいます」

「そうか、だが、この老兵に出来ることなどないじゃろう。帰れ」

　御年七三歳のベテランだ。もはや体もあまり動かない。

「しかし、我々のピンチを助けてくれぬのですか」

「わしには全盛期の力はないぞ」

「それでも構いません。助けてください」

「仕方ないのう。全く若いものは。何があった？」

「魔族の国ランスハルト王国の襲撃です！　中でも魔王を名乗る者が強過ぎて、食い止められません！」

「分かった、今行く」

「二〇年でだいぶ衣替えしたなー」

　まわりにはだいぶ金装束の物が増えているし、絵画や、像なども増え、豪華になっている気がする。

「さてと、行くか」

　王様のところへ、いざ！

「侵略者か？」

「はい、そうです。どうかこの国をくださりませんか」

　丁寧な感じで言う。

「そうみすみす余が渡すわけもなかろう」

「そうなれば武力行使になりますが」

「それでも構わん。わしにはまだ部下が残っておる。世の側近グラニアスがな」

「ですが私には勝てないかもしれませんよ」

　かもじゃなくて絶対に勝てないと思う。

「構わん。世の部下が負けるわけがない。グラニアスやっちゃいなさい」

「かしこまりました」

「おっと！」

　いきなり斬りかかってきた。危ないなー、私じゃなかったら死んでたよ。

「グラニアス！　その調子です」

「はは！」

　危なかしいな。どんどんと斬りかかってくる。全くどう言う教育を受けたらこんな乱暴になるのやら。

「さてと、どうしようかな」

　たぶん勝つのは簡単だ。だけど単に勝つはつまらない。なんか熱戦を起こさないと。

「ファイヤーボール！」

「ふん！」

　その球はあっさりと斬られる。

　(やっぱりこの程度の攻撃は斬られるよね)

「さあ！　この攻撃は受けられるかな？」

　空中に炎球を数個浮かせた。

「さあ！　くらいなさい」

「効くか！」

　グラニアスは剣で全て叩き落とした。

「あーらら。並の人ならこれで倒せるんだけどなー」

「戦い中に喋るのが好きか？」

「うん好き」

　だって、無言で戦うなんてなんか趣が無いんだもん。

「なら黙らせてやろう」

「いやだー喋りたーい」

　とは言ったもののどうするか。魔力を貯める暇がないからカッコよく決めることは出来ないかな。

「あんまりクールなやり方じゃないけど！」

　風の剣を生み出す。二〇年前とは違ってさらに強度になっている。

「くらえー！」

「ふん！」

　さてとこの隙に！　と、魔力を溜める。

「お前は、さっさと折れろ」

「嫌だ。私はこの国を征服したい！」

　よし溜まった！

「それよりも空を見てごらんよ！」

「なに？」

　空には暗雲が浮かんでいる。

「くらえ！」

「うぎゃああああああ」

「知らなかった？　雷は速いんだよ！」

　そしてグラニアスも散った。

「さてとあとは王様貴方だけかな？」

　少しずつ近づいていく。今回の王様も弱そうだね。

「余は死にたくない。誰か助けてくれ！」

「大丈夫！　誰もあなたを助けないから」

　大人しく絶望しなさい。

「いや、ここにいる」

「誰？」

「私はセスニオル！　ただの老兵じゃ」

「老兵かー」

　じゃあ、弱いな。

「む！　貴様はまさか詩織！？」

「え、お爺さん私のことを知ってるの？」

「ああ、たしかわしが教えようと思ったらキレてどこかに行った子」

「あーあなたか。私怒ってたんだからね。悪い教え方をして。あれじゃあ全然ダメだったじゃない」

「わしに文句を言われても。そうじゃない。なぜ魔王になどなってしまったんだ」

「うーん気分？」

「気分じゃと？」

「うん。味方側は飽きたから敵側で」

「ふざけるなよお主」

「あ、怒った？」

　そしてアレグセオは無言で斬りかかる。

「わー怖ーい」

　後ろに下がってよける。

「お前はなぜ魔の道に進んだ。二〇年前、いけ好かない娘だとは思っていたが、そんなやつではなかったはずだ」

「私は変わってませんよ。ただ楽しめればいいだけです！」

「許せん！」

「別に許されなくてもいいですよ」

「それはお前の価値観だろ！」

「あーあ怒らなくてもいいんだよ」

　あーあ怒りながらやるってクールじゃない気がするんだけど。まあいいけど。

「はあ！　行くよ」

　今度は私が風剣を持って向かっていく。