第71話 侵略戦争

 ロア王国は大国だが、ダル公国、ミリア聖国、テンダール魔法国、ベラトリア連合国の四カ国と接している。

 大陸統一を目指す為には、どこかの国に戦争を仕掛けていくしかない。


 なんと四カ国同時に戦争を仕掛ける事となり、今はその戦場へと向かっている。


 ルイス国王は、一世一代の大博打に打って出た。

 そしてジャンが率いるアウル軍は、ミリア聖国を攻める軍の中に組み込まれた。

 総大将はなんとレオンだ。


 ミリア聖国の国境付近で陣営を敷き、今は天幕にて軍議に参加している。

 レオンとその護衛、そしてロベルタ。ジャンともう一人、見たことがない男が居た。


 「今回の四カ国へ同時に攻める戦いに関して、私の見解を始めに述べておきます」

 レオンが話し出す。


 「これは思い切った作戦です。ロア王国が潰れるか、四カ国が潰れるかという戦いになります。狙いとしては、国を獲った所から隣の国へ援軍を出す事が出来ます。挟撃してすり潰していく事が狙いでしょう。四カ国を獲った後でフォルテラ王国と戦うつもりでしょう」


 「簡単に言っているけど、今まで国を獲った事も無いのに全軍を四つに分けちゃって平気なの? 一国ずつ攻めるのだと私は思っていたわ」


 「それだと時間がかかり過ぎるんです。時間をかけると国が疲弊していき、民の苦しむ時間が長くなります。ルイス国王はそういった事を踏まえて、まだ前回の戦争から立ち直っていない今を狙って仕掛けたんです」


 「それは、私達の国でも同じでしょう?」


 「そこは、大国である強みです。確かに前回の戦争でロア王国も多くの犠牲者が出ましたが、復活するまで他国よりも早いです。そして食料などの備蓄も多くあります。戦争している期間中でも兵士も育ってくるでしょう。先まで見越した戦だと私は思っています」


 「つまり今十二歳の子供が、三年経てば十五歳になる。そういう事?」

 「そういう事です。戦っている中で兵士を徴収して育てるつもりでしょう。大国だからこそ出来る思い切った作戦だと思います」


 「今、三年って言いました?」

 「言いましたが、どうしました?」

 今まで黙っていたもう一人の男が、そう言葉を発した。


 紫色の髪の毛で、腰まで長く、顔が隠れて気味が悪い。

 明らかに刀と思える武器を抱えながら、椅子の上で体育座りしている。

 

 「もしかして三年も戦うんですか?」

 「あくまで私の見解ですがね……ある程度長期戦になると思っています」

 するとその人物は急に立ち上がり、レオンに抱きついて大きな声で泣き始めた。


 「レオン様〜。僕を後ろの安全な所に飛ばして下さいよ〜! レオン様の権限ならその位出来るでしょう?」

 レオンが見たことも無い、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 「ゲルテ伯爵……あなたは副将に選ばれたんですよ? そんな事出来ませんって! それにあなたには先頭に立って戦ってもらうつもりなんですが!?」


 「ギャアアアアアアアアアアアアアア」

 ゲルテ伯爵は悲鳴を上げた。


 「無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーー!!!!」

 両手を頭に当てて、首を振りながら叫び続ける。


 「ちょ! うるさい! 静かにしなさいよ」

 今度はロベルタの方へと近づいていく。


 「ロベルタ様でもいいです! レオン様を説得して役に立たない僕を遠くへ飛ばして下さいよー」


 (おいおい! こいつ大丈夫かよ!)

 (さあ……)


 ゲルテ伯爵は、土下座する格好でわんわん泣いている。


 「ゲルテ……伯爵大丈夫ですか?」

 ジャンが優しい声で問いかけた。


 「ジャン君! キミでもいいんだ! 僕は戦いたくないんないし! 戦えないんだよ〜! 助けてくれよー!」

 「そんな事言われましても、僕にはどうする事も――」

 

 ジャンは、ゲルテ伯爵に抱きつかれて困り果てている。


 「お願いだよ〜! ジャンく〜ん!」

 「ちょっと! 二人共見ていないでどうにかして下さいよ!」


 「ゲルテ伯爵! とにかく落ち着いて下さい! 座りましょう!」

 しばらく同じようなやり取りがあったが、ようやく落ち着きを取り戻したゲルテ伯爵は、席に座った。


 「それで!? 私達が戦うミリア聖国とはどうやって戦うつもりなの?」

 「やっと本題に入る事が出来ますね……ミリア聖国とは真っ向勝負で立ち向かいます!」


 「レオン! 本当に言っているの!? あなたが真っ向勝負!?」

 「はい! 勿論です。策を講じて戦う事はとても大切です。しかし、時には真っ向勝負の方がいい時もあるという事です」


 「それが今回って言う事?」

 「はい。ロベルタとゲルテには明日、開戦と同時に突撃してもらいます! 乱れた所に私の魔法を撃ち込みます」


 「そんな簡単にいくものなの?」

 「明日だけで見れば上手くいきますよ! ただそれ以降は相手次第といった所でしょうか」


 「へぇ。レオンがそこまで自信たっぷりに言うなら大丈夫そうね」


 「私は明日、どうすればいいのでしょう?」

 「ジャンは明日、ゲルテの補佐として一緒に先頭に立って突撃してもらえますか?」


 「分かりました」

 

 「ジャンは独立遊軍として今回の戦いに参加してもらっています。何かあればすぐに動けるようにとの事です。先の戦での活躍もあって、アウル軍は出来るだけ自由にさせた方がいいとなりました。他の場所が苦戦していたらアウル軍だけ援軍に向かったりする事もあると、頭に入れておいて下さい」


 「はい」

 「それでは軍議を終了します。明日はロア王国の若い力を見せつけてやりましょう」


 「了解」

 「あぁ。僕の命日はきっと明日だ。今日が最後の晩餐なんだきっと……」

 ロベルタは意気揚々と、ゲルテ伯爵は今にも死にそうな背中で天幕を後にした。


 「レオン様、一つ聞いてもいいですか?」

 「どうしました?」


 「レオン様とロベルタ様、二人共ゲルテ伯爵をあまり責めるような事を言いませんでしたが、信用されているんでしょうか? 私はゲルテ伯爵の武勇や功績を一切知らないので……正直言って明日の戦い、不安しかないのですが」


 「私もですよジャン! 不安です! ですからジャンを補佐に付けたのです」

 「大丈夫なんですか?」


 「戦が始まる前に私とロベルタが王城に呼ばれました。今回の戦で私を大将にして副将にロベルタを置くという話でした。その時に私の父上とロベルタの父上、そしてアウグスト辺境伯もいました。今回の大将全員です」


 「副将をもう一人付ける事となり、誰を付けるか? となったのですが、私とロベルタはジャンがいいのでは。と意見しましたが、他の大将である三人全員がゲルテ伯爵を推薦したのです。結果副将にゲルテ伯爵、独立遊軍としてジャンが来る事になりました」


 「バルナ様とシャイデン様が!? それにアウグスト辺境伯も!?」

 「私とロベルタも驚きました。どんな人物が楽しみだったのですが、会ってみたら……あのような人で不安です。かなりクセが強いとは聞いてはいましたが……ただ側にジャンが居てくれれば問題はないと思いますし、私とロベルタだけでも十分殲滅出来ると思いますので問題ありません」

 レオンは、いつものように冷静に話す。


 「頼みましたよジャン」

 天幕を後にしたジャンは、自分の陣へと戻り、明日に備えた。



 ――次の日。


 「いい天気だなぁ」

 俺は、馬に乗りながら空を見上げていた。

 目の前にはミリア聖国の大軍と、背中にはアウル軍とゲルテ伯爵の軍が勢揃いしている。


 「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

 「ジャンく〜ん! 僕は死にたくないよぉ〜! なんで戦争なんてするんだよぉ〜!」

 隣ではゲルテ伯爵が、泣き叫んでいた。


 「うるせぇーな! もう始まっぞゲルテ伯爵! 覚悟決めろよ!」

 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


 ゲルテ伯爵の兵士達は、ゲルテ伯爵がこんな状態にもかかわらず、一切動じていなかった。

 むしろ独特な緊張感が漂っていた。


 なんだろう……注射が嫌いな子供が、診察室に入る時のような……。


 「ピーーーーー!!!!」

 甲高い音が平原に鳴り響き、開戦した。


 反対側に居るロベルタ軍、中央のレオン軍がミリア聖国軍に向かって突撃しだした。


 「ほら! 始まったぞゲルテ伯爵!」

 「嫌だよ〜! 死にたくないよ〜!」

 「ヒヒーン」

 ゲルテ伯爵の乗っている馬が、急に駆け出していく。


 「いやぁ〜〜!!」

 全く頼りない背中を追いかけて、アウル軍とゲルテ軍は動いていく。

 

 はぁ。

 俺はため息をつきながら馬を走らせた。


 ――死!!!!

 突然脳裏にその一文字がよぎるほどの殺気。

 つま先から脳天まで鳥肌が立つほどの殺気。


 殺気の出処は、ゲルテ伯爵からだった。

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