第63話 困った人達を助けると言うこと

 「ここが……その場所です」

 案内された建物の中へと入る。


 「いてぇ〜よ、いてぇ〜よ〜」

 「うぅ〜〜」

 その場所の床には、沢山の人が寝そべっていた。


 多少怪我している者、腕が無い者、足が無い者、目をやられている者、命があと寸前の者まで様々な人が横になっていた。


 「これは酷い……」

 ルイス国王ポツリと呟く。


 「全員が助からない事は分かっております。薬でも難しいでしょう。ですが出来るだけ処置して頂けないでしょうか?」


 「村長の期待に出来るだけ応えましょう。ジャン頼んだよ」

 「チッ! 分かったよ」

 「これから見たことは出来たら秘密にして頂きたい」

 「それは……どういう……」


 俺は重症な人間から回復魔法を使い始めた。

 みるみる内に怪我が治っていく。


 「順番に怪我人連れてきて!」

 腕も生え、目が戻り、足が元通りになっていく。


 「おおお! 俺の足が!」

 「俺の腕が!!」

 「おおおおおおお!」


 うめき声だったのが、元気な雄叫びへと変貌していく。


 「これは……奇跡か……」


 「キッツーー!!」

 (これで最後だから頑張って!)

 

 「終わったーー!」

 俺はそのまま倒れ込むように座り込む。

 額から流れるような汗をかき、息が上がっていた。


 「「「「ありがとうございます!!!」」」」

 怪我を治された人達全員が、俺に向かって膝をついて感謝の言葉を述べた。

 「村長に頼まれた依頼で、報酬を貰っている。感謝される事はない! それに……」

 ほとんど治す事が出来たが、助ける事が出来なかった人間もいた。


 「本当にありがとうございます……」

 村長のモンペールが、俺の手を取って涙を流す。


 「ここにいる皆さんに約束して欲しい事があります。今使った魔法については口外しないと約束して下さい。我々は穏便に旅を続けていきたいので、余計な事に巻き込まれたくありません。ですので今見た事は忘れて下さい」

 レオンが、その場に全員にそう発言した。


 「「「はい!」」」

 

 「ところで村長、一つ提案があるんですが、どうですか?」

 「一体なんでしょうか?」


 「今の魔法のように、私達は商人ですが戦う術を持ち合わせています。困っているという動物退治引き受けたいと思っているのですが」


 「それは願ってもいない事です。ですが、この村から差し出せるものなどもうありません」

 「ミリア聖国の地図とか持っていませんか?」


 「ありますが……」

 「その地図を譲ってもらえませんか? 報酬は地図でいかがでしょうか?」


 「そんなものでいいのですか?」

 「ええ、私達にとっては貴重な情報なんです」


 「分かりました。お譲りしましょう」

 「では交渉成立という事で!」

 ルイス国王が話をまとめ、討伐する事になった。


 三人は一旦宿屋に戻る。

 「ルイス。目立つような行動は避けるべきかと」

 「地図が貰えるんだしいいだろ!?」


 「出来るだけ何も起きず、起こさずでトドル帝国を目指すべきかと」

 「レオンが言いたい事は分かる。正しいよ……でも! これは国王だからとか王族だからとかではなく、一人の人間として困っている人を放っておく事が出来なかった」


 「はぁ……ルイス。行く先々で困っている人が居たら助けるのか!? そんな事をしていたらいつになっても到着しない。それにそのせいで私達が怪我とか負ってしまう可能性だってある! 分かっているのか!?」


 (ルイス国王ってこんな奴だったんだな)

 (昔から人一倍優しい人だったのは確かだよ)


 「それでも私が手の届く範囲であるなら、今後も助けたいと思っている!」

 「はぁ〜。仕方ありませんねぇ」

 ルイス国王がニカッと笑う。


 「ただし、ジャンが本当に危ないと判断した時だけは諦めて」

 「分かったよ」


 「えっ!? 僕の判断で!?」

 「私はルイスの戦闘能力は高く評価しているんでね。誰よりも実戦経験も豊富だし」

 「そういう事だな」


 「……任せて」

 「よし! そろそろ日が暮れる頃だ。出発するぞ」

 動物達を討伐しに、村のすぐ側にある森へと向かった三人。


 「奇妙な程、静かだな……」

 森は風によって揺れる木々と葉の音しかしない。


 「ゴォォォォアアァァァァァ!!」

 右方向から突然熊が現れて、ジャン達に襲いかかった。


 パキパキパキパキパキッ!

 レオンが魔法を使い、熊を凍り付かせた。


 同時に左からはイノシシが数頭。正面からは野犬が飛び出してきた。

 ルイス国王と俺が対処した。


 (今、魔力の気配が……)

 (魔力???)

 ジャンが地面に手を付いて集中する。


 「何やっているんだ?」

 「ごめん、ちょっと集中させて」

 数十秒経過して立ち上がる。


 (場所が分かった)

 (場所が分かったってどういう事だ?)

 (これには首謀者が居るって事だよ。つまりは魔法を使って動物達を操っている奴らが居る)

 (へぇ〜。分かった案内してくれ!)


 「二人共付いて来い! 犯人が分かったぞ」

 「おい! 犯人ってどういう――。ちょっと待てよジャン」

 俺は森の中をジャンの指示に従って駆けていく。

 向かっている間に、二人に説明をした。


 「村が襲われていたのは、人間の仕業だったという事なのか?」

 「そういう事! その犯人がこの中に居るみたいだ」

 到着した場所は、奥深くまで続いていそうな洞窟だった。


 「この中に居るって言うのか?」

 「そうだね。じゃあ早速行こうか!」

 「ちょっと待てって――」

 レオンに腕を引かれた。


 「何も準備もしないで相手のアジトに突入するんですか? 危ないだろ?」

 「大丈夫だよ。俺はこういうのには慣れてる! そんなに心配なら二人はここで待っててもいいぞ。俺が一人でやっつけて来るから」


 「一人でって……」

 「まあいいや! 俺は行くから」

 俺は二人を置いて洞窟の中へと入っていく。


 中は想像しているより暗かった。

 しかし、奥へ進んでいくと壁には松明の火がかけられ、ドアが見えてきた。


 音を立てないようにドアへ近づいていくと、ドアの向こうから声が聞こえる。


 (結構な人数が居そうだね)

 「ああ、楽しみだ!」


 俺はそっとドアを開ける。

 開けた場所に見るからに荒くれ者と言える男共が沢山居た。


 「おらーー!!」

 大声を出すと全員がこっちを向いた。


 「お前らを殺しに来た! 全員かかってこい! クックック! クックック!」

 荒くれ者達は、武器を手にして俺に向かって来た。


 「も〜もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」

 「や〜りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」

 「い〜きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」

 「そ〜りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」

 「お〜もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」

 「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」


 荒くれ共の首が、体の一部が宙を舞い、血しぶきが舞う。

 「クックック! あ〜気持ちいい!」


 (全員殺しちゃってどうするんだよ……一人位残して聞き出して欲しかったのに)

 「完全に忘れてたよ。まあ全滅させたから問題ないだろ!」


 洞窟のさらに奥から、ポワッとした白い光が徐々にこちらに近づいて来る。

 光の正体は、黒いローブを深く被った人間だった。


 「これはお前がやったのか?」

 「ああ、その通りだ!」

 相手が魔法を使う素振りを見せたので、俺は距離を詰める。

 発動する前に相手の手首を斬り落とし、右足のアキレス腱を斬った。


 「うあぁぁぁぁぁぁぁ」

 叫び声を上げながら倒れ込み、手首を抑えた。

 ローブがひらりと崩れて顔が露わになる。


 「へぇ〜。女だとは思わなかったな……悪いけど俺は女でも容赦しない!」

 その女は再び俺に魔法を放とうとしてきたので、もう片方の手首を斬り飛ばした。

 「ぐあああああああ!」


 「お前がボスか?」

 俺の質問に女は何も答えない。


 「ぎゃあああああああああ」

 太モモにダガーを差し込んだ。

 

 「まだ仲間いんのか?」

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ」

 差し込んだダガーを前後にギコギコと動かすと、動かす度に女は悲鳴を上げた。


 「仲間は……もう……居ません」

 「なるほど。なるほど」


 (こいつもう殺していいよな?)

 (この人が言うように、もう仲間は居ないだろうから別に構わないとは思うけど……)


 「じゃあな!」

 俺は女の首を刎ねた。


 洞窟から出ると、レオンとルイス国王が駆け寄ってきた。

 「心配したぞジャン……大丈夫か??」

 「平気だよルイス。雑魚しか居なかったから。あとコレ!」

 

 俺は女の首を二人の前に投げた。

 「この人は??」

 「洞窟に居たボスだよ。なんの組織か聞く前に殺してしまったけどね」


 「一応村長に証拠として持っていこう」

 レオンが大きな布を取り出して女の首を包んだ。


 「ジャンお疲れ……それじゃあ村に帰ろうか」

 ルイス国王は村に向かって歩き出す。

 


 村長の元へと戻った三人は、村長に女の首を見せた。

 「こ、こやつは……」

 「村長、この人物に見覚えが?」


 「一度だけ手配書で見た盗賊の女ボスに似ているので、本人ではないかと……」

 「この女は魔法使いで、動物に魔法をかけて操り、この村を襲っていました。戦力が無くなってきた頃合いをみて、村ごと襲うつもりだったのではないかと……」


 「襲われるギリギリに、あなた方に助けられたという事だったのですね」

 「ええ、そうだと思います」

 ジャンは村長にそう説明をした。


 「盗賊の一味を皆殺しにしてきました。ですので脅威は去ったと思います」

 「それは……本当にありがとうございます!」

 村長とその周りの人達がジャン達に頭を下げる。


 「これは正当な依頼ですから頭を下げる必要なんてありませんよ」

 「それでもお礼を言わせて下さい! ありがとうございます! こちらが報酬の地図です」

 村長がテーブルの上に地図を広げた。


 ジャン達が持っている地図よりも詳細が書かれている地図だった。

 この旅を終えたとしても、今後の戦争で大いに役に立つだろう。

 

 「では報酬を頂きます」

 ルイスが地図を丸めて手に持った。


 「それでは、我々はこのまま村を出発させて頂きます」

 「もう出発されるのですか?」


 「もう日も昇りましたから」

 「分かりました! 本当にありがとうございました。この御恩と御三方を決して忘れません」

 

 三人は準備を整えると馬車に乗り、村から出発する。

 

 「「「ありがとうーーーー!!」」」

 「また来いよーー!!」

 「じゃあなーー!!」

 


 「人を助けるって悪くないだろ?」

 「まあ、そうですねルイス」

 「それは……そうだよ」


 朝早いというのに、大勢の人達に感謝されながら三人は見送られた。

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