第62話 出国と入国。そしてハプニング
「フフフ〜ン♫」
「ご機嫌だねルイス」
ジャン達は特にハプニングもなく、数日馬車を走らせ国境近くまで来ていた。
「当たり前だろジャン。こんな旅、もう一生出来ないからな! 楽しみで仕方ないよ」
「ふと考えてみたんだが、ロア王国に戻った際、私とジャン二人が処刑とかになったりしないだろうね?」
「それは大丈夫だよレオン! ちゃんと私から説明するから! 私も含めて皆、相当怒られるとは思うけどね」
「ちなみにこの事を知っている人って僕ら以外にどの位いるの?」
「三人だよ」
「えっ!? たったの三人!? 大丈夫なの!?」
「大丈夫だって。心配するなよ! 新しい影武者も用意したからそうそうバレはしないよ」
ルイス国王は横になりながら能天気にジャン達に話す。
「それよりもそろそろロア王国から出るだろ? 心の準備はしておけよ!」
「この道となると、ミリア聖国に入りつもり?」
「そうだな。最短距離だとミリア聖国から行くのが一番近いからな」
「ルイスあれが国境?」
ジャンがそう言って示した先に、そびえ立つ巨大な門。
「あそこを越えたらミリア聖国だな」
入る為に厳しいチェックでもあるのか、同じような馬車が列をなしていた。
ジャン達も列に並び順番を待つ。
「次ー! 通る為の書類などはあるか?」
「はいはーい! こちらです」
ルイス国王が警備兵に何やら書類を渡す。
「積荷を確認するぞ?」
「どうぞー!」
警備兵達が積荷を確認し始める。積荷の中身は、なんて事はないただの作物だけだ。
「うむ。積荷も特に問題ないな! 通っていいぞ! 次ー!」
「どうも!」
すんなりと門を通る事が出来た。
「ここから先はあまり知らない土地だからな。警戒して進んで行くぞ」
「盗賊とかに襲われるかもね?」
(お! 盗賊か! それはいいな面白そうだな)
(何言ってるんだよ。馬車とか壊されたら大変だよ!? 戦って負けることは多分ないけど、面倒極まりないよ)
(ん〜確かにそう言われるとそうだな……)
「ルイスは地図とか持ってる? 今日はこの後どうするの?」
「ああ、一応あるぞ。このまま進むと三つに分かれる道にぶつかる事になるが、私達はそのまま真っ直ぐ進んで行く。その道を進むと村が見えてくるはずだから今日はそこで泊まることにしよう」
「日も傾き始めたらか少し急ぐよ?」
ジャンは手綱を操り、馬のスピードを上げた。
しばらく走らせると、確かに三つに分かれた道が現れた。
ジャンは馬を止めることなく真っ直ぐ進めていく。
夜の気配が見え始めた頃、目的地である村が見えてきた。
「夜になる前に到着して良かったな」
村に到着し、馬車から降りた三人は村の中へと入っていく。
「すいません。この村で泊まれる場所などはありますか?」
「あら? こんな村に旅人ですか? 珍しい」
「私達は商人でして……」
「尚更珍しい。泊まれる場所はあちらにありますよ」
「ありがとうございます!」
「何もない場所ですが、ゆっくりしていって下さい」
村人が教えてくれた場所へと向かうと、看板には『子羊の宿』と書かれた建物が。
ルイス国王が先頭を切って建物の中へと入っていく。
「いらっしゃい」
だみ声のばあさんが出迎えた。
「一泊したいのですか?」
「別々かい? それとも一緒の部屋かい?」
「一緒の部屋でお願いします」
「それじゃあ302号室ね。食堂は一階だよ。夕食はすぐに食べられるよ」
鍵を渡され三人は三階に上がり、302号室に入る。
部屋は簡素で、ベットが三つに机と椅子が一つあるだけあった。
「あ〜疲れた〜」
ルイス国王が、窓際のベットに倒れ込んだ。
「私はこっちで!」
「えっ!? じゃあ僕が真ん中!?」
「なんだよ!? 嫌なのか?」
「いいけども……まさかルイスが同じ部屋にするとは思わなかったよ」
「私もてっきり部屋は三つ取るものだと」
「レオンとジャンも誰かとこんな風に寝た事ないてないだろ? なんか楽しそうだと思わないか?」
「私は一人でゆっくり寝たいけど」
「レオンって本当に昔から冷めてるよな」
「そういう教育をされてきたから。常に冷静沈着にと」
「せっかく三人で旅してるから、こういうのも悪くないよね」
「だろ? それよりもお腹空いたな」
「夕食すぐに食べられるって言ってたね。食堂に行こうか」
ジャンが二人を促し、食堂へと向かう。
宿で出された食事は、質素ながら野菜がふんだんに使われた料理が多く、漂う匂いが食欲をそそる。
「ん〜! とても美味しいな!」
「ルイスがこういった料理を好むとは。僕は思わなかったな」
「王族が美味しい料理を食べているとは限らないんだよジャン……とにかく第一に安全確保。毒味の連続で温かい料理を食べる機会なんてそうそうないんだ」
(王族って毎日美味しい物食ってると思ってたぜ)
(ルイスは一人っ子だからね。余計に大事にされていたのかもしれない)
「私達はテーブルマナーが良すぎるのでは? 今後はもっと野蛮に食べた方がいいのかもしれない……かなり目立ってしまっている」
辺りを見渡すと、きちんと食器を使っている人はいない。
手づかみや間違った持ち方で食事をしていた。
三人は貴族出身なので、食事をする所作全てが綺麗で、その姿は確かに目立つ。
「しょうがない俺がマナーってやつを教えてやるよ!」
俺はジャンに代わって豪快に食べ始めた。
「なるほど、なるほど。そういう風に食べれば問題ないのか」
レオンとルイス国王も同じように豪快に食べ始める。
俺達は食事を存分に堪能した後、部屋に戻り就寝した。
「二人共……起きて!」
「ん〜。おはよう……レオン」
コンコンッ。
身支度を整えていると、部屋のドアをノックされた。
「誰ですか?」
レオンが応える。
「あんた達にお客さんだよ! 一階に来てるから早くしな!」
ドアの向こうからばあさんの声が聞こえ、そう言われた。
「私達にお客? 誰が?」
顔を見合わせ首をかしげた。
三人は部屋を出て一階へ向かうと、入り口に男性が二人立っていた。
ジャン達を見た二人は、頭を下げた。
「初めまして、私はこの村の村長。モンペールと言います」
レオンが一歩前に出る。
「村長ともあろう方が我々に何用でしょうか?」
「あなた方は商人だとか……薬などを扱っていないでしょうか?」
「薬ですか? 何故でしょうか?」
「実はですね……」
村長の話では、ここ最近森にいる動物達に村の畑などを荒らされる為、退治しようと村の若い男達で森に入ったそうだが、動物達に返り討ちにあったそう。
さらに森の動物達は、人間の味を覚えてしまい、村の近くまで出没するようになり、夜は常に見張りを置くようになったのだとか。
ただ、そのせいで怪我人が続出してしまい困っていると。
「なるほど……だから薬が欲しいという事なんですね」
「そういう事です」
「なんだ、そんな事ならここにいるジャ――」
ルイス国王の口をレオンが止める。
「我々は商人です。薬が欲しいと言われて持っていたとしても無料で渡す訳にもいきません! それは村長も分かっていると思います。何を差し出す事が出来ますか?」
「私達が差し出せるのはこれしかありません――」
渡されたのは袋に入ったお金だった。
「少々お待ち下さい」
三人は円陣を組むようにして、ひそひそ話で話す。
「ジャンの回復魔法で解決出来るんじゃないのか?」
「ミリア聖国のお金ってルイス持ってる?」
「勿論持っていない」
「ならこの依頼は好都合ですね。ジャンはどう? やれるかい?」
「問題ないよ」
(ユウタ大丈夫でしょ?)
(えっ!? マジかよ~。仕方ない……やるよ)
(ありがとう)
「よし。それじゃあこの依頼受けよう」
「分かりました村長。承りましょう! 怪我人が居る場所へと案内してもらえますか?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
宿屋を出て、村長の後を付いて行く。
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