第60話 故郷への帰還と温泉

 「うおおおおおお!」

 民衆達による歓声の正体が判明する。


 激闘からの凱旋。

 どうやら総大将三人の軍が、王都へと帰ってきたようだった。


 「どうやら戦いは無事に勝ったようですね」

 「ルイスが王城に居ないと大騒ぎになるんじゃない?」

 「……影武者の死体もありますからね」

 「確かにそいつはまずいな! 急いで戻るぞ」


 ジャン達は急いで王城へと向かう。

 到着した時には既に手遅れで、王城内はとんでもない大騒ぎになっていた。


 ルイス国王はローブを外し、堂々と王城へと入っていく。

 「「「ルイス国王!」」」

 さらに王城内はパニックになった。


 「安心しろ! 私は生きている!」

 ルイス国王がテキパキと指示を出していき、整理していく。

 

 王城内には、あちこちに死体が転がっている。

 そしてルイス国王の影武者が死んでいたらそりゃあパニックにもなる。

 

 「悪いがジャンとロベルタも手伝ってくれ!」

 「かしこまりました」

 「分かったわ」


 後処理には数日かかった。


 そして現在、謁見の間にて。

 「そうか。三人共ご苦労だったな」

 「「「はっ!」」」


 バルナ侯爵、アウグスト辺境伯、シャイデン侯爵の三人による戦果の報告が終わる。

 被害はあれど、壊滅的な被害はなく無事に勝利したようだった。


 (今回の戦争、無事に終わったな)

 (そうだね……でも今後の課題を多く残したから、ルイス国王はこれから大変だろうけどね)

 (どういう事だ?)


 (歴史上ですら起こった事がない戦争がルイス国王の在位時に巻き起こった。きっと責任追及されるよ。他の国と仲良く、外交出来なかったのか? ってね。つまりは国の運営向いてないんじゃないかとね)


 (あぁ!? そんな事言われるのか!? 国王になってそんなに時間経ってねぇーだろ!?)


 (文句が言いたい連中からしたらそんな事は関係ない。それに戦争は事実として起きた。それだけでいいんだよ。ルイス国王の野望である大陸統一に向けての行動も出来なくなるだろうしね……戦争が終わったばっかりなのに侵略戦争なんてやろうものなら、民から反感を買う可能性だってある。動きづらくなるだろうね)


 (面倒くさ。ルイスが国王なんだろ!? 一番偉いんだから好きなようにやりゃあいいのに!) 

 (ハハハ。おかしな事を言うなユウタは! そんな事をしたらリグリットと一緒じゃないか。これが政なんだよ。ルイス国王が目指す大陸統一なんて本当に途方も無い事だよ)


 (ジャンは大陸統一に賛成なのか? 反対なのか?)

 (反対だった……かな。現実的に考えて出来る訳がない。でも今では出来るかもしれないと思い始めてるよ)


 (俺とジャンは一心同体だからな。ジャンの好きにすればいいさ!)

 (これからもよろしく頼むよ)


 「それでは一同解散!」

 脳内で会話しているうちに話し合いが終わったようだ。


 「ジャン様行きましょうか」

 「そうだなジェイド」

 ジャンは皆と合流し、久しぶりにダラムへと戻る事に。


 「へぇ〜。ここが旦那の故郷かい?」

 「そうだよシャオ。だけど……」


 「ドクター! ドクター! なんだかくちゃい!」

 テディが鼻を摘んでいる。

 ダラムに異臭が立ち込めていた。

 

 異臭? いや、その臭いには覚えがある。

 温泉街に嗅ぐ臭いそのものだった。


 (この臭いは一体何なんだ? 何かあったのか?)

 (温泉の臭いだよジャン!)

 (これが!? 大丈夫なのか!?)

 (へーきへーき)


 屋敷に到着すると、皆が外で出迎えてくれた。

 「おかえりなさいませジャン様」

 「ただいまベイル」


 「お兄様ーー!」

 エミリが抱きついてきた。

 「ただいまエミリ」


 ヘレナ嬢も出迎えてくれた。

 「無事で何よりですジャン様」

 「ありがとうございますヘレナ嬢。この臭いは温泉なのですか?」


 「その通りですジャン様! ジャン様の帰還と共に、温泉に入れるように準備しておきました。いつでも入る事が出来ます! 戦の疲れを存分に癒やして下さい」


 (温泉入れるのか! やったじゃんか! 入りに行こうぜ!)

 (えっ!? この臭いの風呂に入るの!?)


 (嫌なの? ジャンが入らないなら俺が入るよ)

 (いいけど……珍しいね)


 「ヘレナ! 温泉に案内してくれ! 野郎共全員付いて来い! 皆で入るぞ!」

 「ジャン様……皆で入るのですか?」


 「温泉ってのは皆で入るもんなんだよジェイド! 女性専用もあるのか?」

 「勿論ございます」

 「ならリリア達も行けるな! おら行くぞ!」


 ヘレナに案内され、温泉へと到着する。

 目の前に広がるのはまさに温泉だった。


 今まで気にしたこともなかったが、温泉に入れると聞いてテンションが上がった俺は、なんだかんだ元日本人なんだと実感した。


 「よぉ〜し! 皆で入るか!」

 服を脱ぎ始め、男の分隊長全員で入る事に。


 「うっぴょーー!!」

 バシャーン!


 テディが温泉に飛び込んで水しぶきが上がる。

 「飛び込むなよテディ!」

 「おっきなお風呂すごーい」


 「いい風呂だな〜」

 シャオは風呂に入りながら酒を呷っている。


 「温泉って最高だな」

 俺は温泉に浸かり、空へと昇っていく湯気を見上げる。

 そこには綺麗な月と星が輝いていた。

 

 温泉で疲れを存分に癒やした後、屋敷に戻り空腹を満たしていく。

 全てを終えてダラムに戻ってきたからか、強烈な眠気に襲われた。


 俺は食事を終えてすぐに自分の部屋へと入り、ベットに飛び込んだ。

 「久しぶりにゆっくり寝れるぜ」

 (今日まで怒涛の日々だったね)


 「ああ、そうだな……本当に」

 目を閉じた俺は、すぐに意識を失った。


 帰ってきてからの日々は、平穏そのものだった。

 朝起きてダンと特訓を終えると朝食。その後はジャンが書類整理や領地に関しての仕事を行う。

 ヘレナが行っている温泉事業の進行状況などを確認したりと多くの仕事を処理していく。

 ダラムへ訪れる人々を迎えられるだけの準備は、すでに整っているのだとか。

 

 温泉だけではなく、それに伴っての宿泊施設やお店も出来上がっていた。

 必要な人材も、十分に用意してくれた。


 「ジャン様、このまま進めてよろしいでしょうか?」

 「ええ、お願いいたしますヘレナ嬢」

 「では進めていきます」


 翌月からダラムは温泉街として名前を売り出し、人を呼び込み始めた。

 最初は商人が休憩地点として使っていたが、商人による口コミによって徐々に人がダラムに来るようになっていった。


 温泉には特殊な効能があるもので、怪我や美容に効果があると人から人へと伝わっていき、たったの半年で、貴族から商人まで訪れる温泉街へと変わっていった。


 (おいおい。ヘレナの手腕凄いな! ダラムがあっという間に変わったぞ)

 「そうだね! ダラムがここまで変わったのはヘレナ嬢のおかげだよね」


 (それで!? 結婚すんのか!?)

 「どうしよっかぁ……」

 (どうしようって、ジャンはどうしたいんだよ)

 「……」


 ジャンの結論は出ないまま時は過ぎていった。

 そんな折、一羽の鳥によって文書が届く。


 ルイス国王からの秘密の文書だった。

 中身には、こう書かれていた。



 『ジャン一人で王城に来い』

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