第59話 ルイス国王の弟

 「それじゃあ二人共頼んだぞ」

 「はい」

 「任せて!」

 朝を迎えて準備を整えた三人。

 三人はローブで姿を出来るだけ隠し、それぞれ分かれて出発する。


 ジャンとロベルタは、ルイス国王から離れてそれぞれ尾行した。

 出来るだけ人目を避けて、ルイス国王は目的地へと進んでいく。


 中央の広場や賑わっている箇所を通り過ぎ、王都の奥へと進む。

 目指している場所は、昨日泊まったあばら家の反対側だ。


 (魔法の気配とか、人に見られてる気配とかあるか?)

 「誰かに見られているような気配はないかな。索敵魔法も今の所はない」

 特に変わった事もなく、順調にルイス国王は道を進んでいく。


 徐々に人の行き交いが少ない場所に入り込んでいき、一軒の家の前にルイス国王は到着した。

 門や塀、外壁は蔦が絡まり、所々の窓は割れ、庭は雑草が伸び放題で手入れは一切されていない。人が普段出入りし、住んでいるような雰囲気はない。


 ルイス国王は門を開けて中へと入っていく。

 ジャンは近くの建物の屋根からその様子を窺っている。

 ロベルタもどこかでその様子を見ているはずだ。


 建物に入ってから暫く時間が経過した。

 (何も……起きないな)

 「話し合いをしているのか、それとも何かが起きたのか?」


 ルイス国王が、雷の魔法を使う事が合図になっている。

 その瞬間、建物に侵入する事になっているが、仮に魔法が使えないような状況になっていたらマズイと、今になって頭をよぎった。


 建物に目を向け、様子を見ていたが、突然辺りが暗くなっていった。

 ジャンが空を見上げる。


 先程まで快晴だった空が突然曇り、天上では不穏な音が鳴り響く。

 すると、目の前が真っ白になった。


 何があったのかと周りをキョロキョロしていると、遅れて音が降ってきた。

 ドカーン! ゴロゴロ〜!

 登っていた建物が揺れ動いた。


 「ユウタ! 出番だよ! 二階の正面の窓!」

 

 「オッケー!」

 俺は仮面を被り、建物に向かって全力で飛ぶ。


 パリーン!

 窓を割って部屋へと入る。反対の窓からはロベルタが入ってきた。

 ダガーを抜き、ルイス国王と複数人の男の間に入る。


 「どいつをりゃあいいんだ!?」

 「正面で寝ているリグリット以外は殺していい」

 その言葉を聞いて、目の前にいる敵を片っ端から殺していく。


 一人……二人。三人、四人! 五人! 六、七、八。

 「おっとっと――。こんなもんでいいかな?」


 「ああ、ありがとうジャン! それにロベルタも!」

 ルイス国王は弟であるリグリットに近づいていく。


 「ハハハ。兄上一人じゃなかったのかよ。それになんだそのデタラメな強さは!」

 「リグリット……本当にお前がやったのか?」


 「さっきも言っただろ!? 俺が手引きしたってな!」

 「なんだよ! 怪しんでた通りだったって事か?」


 「ルイス国王は殺したって俺は聞いてたんだけどな〜! まさか生きてたとはな!」

 「リグリットだっけ!? お前はなんでルイス国王を殺したかったんだ?」


 「なんでかって?」

 リグリットは立ち上がる。


 「そんな事決まってるだろ! 俺が国王になれるからだよ! ロア王国の王様になれたらなんでも思い通りに出来るんだぜ! 楽しいだろ?」 

 「たった一人の人間を殺すだけでそれが実現出来るんだ。殺したくもなるだろ?」

 リグリットは目を見開き、俺達に向かって叫んだ。


 「俺はさ、ここにいる中で誰よりも頭が悪いし世の中の事もほとんど知らない! そんな俺でも確実に言えることがある。お前は国王の器じゃない! それになったとしても国が滅ぶだろうよ」

 吐き捨てるように俺は言った。


 「実際になった訳でもないのにお前に未来なんて分かるのかよ!?」

 「どっちみちあなたはもう終わりよ! 国家反逆罪で処刑ですもの」

 「そんな事分かってるっつーの。あ〜あ。もうちょっとだったのにな!」

 リグリットは落胆したのか、糸が切れた人形のように座り込んだ。


 「リグリット……いくら腹違いとはいえ、お互いに身内は私とお前しかいなんだぞ? 尊重は出来なかったのか?」

 「尊重? 馬鹿かよ! 出来る訳ないだろ!? もういいだろ? さっさと殺せよ」


 「……」

 ルイス国王は、少し俯いて口を閉ざした。


 「身内だからって躊躇ためらってるのか? ここで殺しておかないと、こういう奴は何度だって命を狙って来るぜ?」


 「分かってる……分かっているよ――。ジャン頼めるか?」

 「任せてくれ」


 ルイス国王は天井を見上げ、深く息を吐いた。

 「ロベルタと先に外に出て、入り口で待っているから……苦しまないように頼む」

 「了解!」

 ロベルタとルイス国王が部屋を出ていく。


 「さてと、最後に何か言いたいことはあるか?」

 「お前、どこのどいつなんだ? 兄上の親しい人間でお前程の腕が立つ奴を俺は知らない。それに殺されるならせめて教えてくれ!」


 俺は般若のお面を外した。

 「俺の名前はジャン・アウル。聞いたこと位はあるだろ?」

 「お前があのアウル家の人間か! 噂では弱いって事しか聞いた事がなかったが、嘘じゃねえかよ! そうかそうか。兄上はお前みたいな実力者を隠していたんだな」


 「じゃあそろそろいいか?」

 「ああ……」

 リグリットの首を斬り裂き、胴体から切り離す。

 ゴロゴロと転がり、リグリットの目と合った。


 布で首を包み込み、右手に持つ。

 二人が待つ建物の入り口へと歩を進めていく。


 「終わったか?」

 「ええ、終わりましたよルイス国王……こちらが証拠になります」

 ジャンはルイス国王に布を手渡す。


 その時に遠くの方で、歓声のような声が上がるのが聞こえた。

 「この歓声は何なの??」

 「行ってみようか」

 三人は、歓声がする場所へと向かって行った。

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