策士


「今日は兄ごっこがしたい!」


「あ、兄ごっこって?」


俺はクラスのみんなに今日はどんなことをしようかと聞くと園児の1人が『兄ごっこ』という不思議な遊びを提案してきた。


「捕まった子は鬼をお兄ちゃんと呼ばないといけないの!そして、捕まえた鬼はその子を妹として扱わないといけないの!」


「そ、そんな遊びがあるのか...」


「鬼はパパと先生ね!」


「俺は強制的に鬼なのね。まぁ妹キャラは無理だからいいけど」


俺たちは運動場に出ると園児たちは一斉にあちこちに走り出す。準備運動なしで走るだと!?若いな!?いや、若いか!

俺は少しだけ準備運動をしているとその隣に春先生が屈伸をしていた。さっきから膝がポキポキと音が鳴っている。


「春先生は体力に自信ある?」


「全然!子供の体力には驚きよ」


春先生はため息をついて、遠い目をしている。捕まえたとしても数人ってところか。そういう俺もかなり不安だ。なんせ鬼ごっこ的なものをするのは小学生以来だ。


「まぁ頑張ろうか」


「そうね。出来るところまで頑張ろうね」


俺たちは拳をぶつけると2方向に別れる。すると、俺の方に美海ちゃんがやってきた。


「美海ちゃん?なんで来たの?俺、鬼だよ?」


「ふふふ、あの子たちは気づいていないの。先にタッチされた方が長い間、妹の扱いをしてもらえるということに」


ジリジリと寄ってくる美海ちゃんに俺は距離をとる。何か嫌な予感がピンピンしているからだ。


「逃げても無駄」


「捕まえましたわ!」


俺が後ろに下がっていると桜が俺を背後から抱きしめる。コンビネーションだと!?


「しまった!離せぃ!」


「無理矢理にでもタッチさせて私たちを妹のように扱ってもいますわ!」


俺が必死に抵抗し、タッチさせないようにしていると遠くのほうから笛が一斉に鳴った。


「「「「「反則!」」」」」


「「ちぇ」」


ビシッと園児たちは桜たちに指を指す。

桜たちは渋々俺を離し、トボトボとクラスの方へと歩いていった。


「ルールなんてあったんだね」


「さっき作ったの!間違いなくパパは逆に狙われるから!」


元気にそう言うとその子は自分の頭を指をさす。


「そうか。ありがとうな」


俺は頭に触れようとしたその時、その子は俺の手を重ねる。


「これって私はタッチされたことになるよね?」


ほかの園児たちを見ると親指をサムズアップさせていた。良いのかよ!これはルール違反だろ!?まさか自発的だったから大丈夫ってことか!?


「ふふふ!今から妹扱いしてよね!お兄ちゃん!私のことは晴菜はなって呼んでね!あとちょっと馬鹿だよね!」


「うるさいやい!正々堂々やってただけだやい!」


俺は園児に負けたことに少し悔しい気持ちになった。

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