第13話 想いと想い
プロジェクトの成功から数週間が経ち、幸也は仕事に忙殺される日々を過ごしていた。そんなある日、幸也は菜々子との会話の中で、彼女を異性として意識するきっかけを得ることになる。
その日はいつもと変わらない平凡な日だった。ランチタイムに、幸也は中村大蔵と一緒に食事をとっていた。中村はガサツな見た目と適当な言動で、幸也とはまったく異なる性格だが、気の置けない仲間だった。
「高橋、今日の午後は新しいプロジェクトのミーティングだぞ。ちゃんと準備してるか?」中村がハンバーガーをかじりながら尋ねた。
「ああ、一応な。でも、やっぱり不安だよ。」幸也は苦笑いを浮かべながら答えた。
その時、菜々子が現れた。「お疲れ様、二人とも。ここ、座ってもいい?」菜々子は明るく笑いながら尋ねた。
「もちろん、どうぞ。」幸也は少し緊張しながら答えた。
菜々子は席につき、持ってきたサンドイッチを広げた。彼女の笑顔がいつも以上に輝いて見えたのは、幸也が最近感じ始めた微妙な意識の変化のせいかもしれない。
「最近、どう?仕事は順調?」菜々子は優しく尋ねた。
「うん、なんとかやってるよ。でも、まだまだだな。」幸也は控えめに答えた。
その時、菜々子が手元の書類を取り出し、幸也に見せた。「実はこれ、昨日の会議で使った資料なんだけど、君に助けてもらったおかげでとても良いプレゼンができたの。ありがとう、幸也君。」
「いや、俺なんか大したことしてないよ。でも、役に立てて良かった。」幸也は照れくさそうに答えた。
菜々子の言葉に心が温まった瞬間、彼女の視線が幸也に向けられ、その目が彼をじっと見つめた。ふとした瞬間に、幸也は彼女を異性として意識し始めたことに気づいたのだった。
その夜、幸也はベッドに横たわり、菜々子の笑顔を思い浮かべていた。彼女の優しさと明るさ、そしてその美しさに、幸也は自然と惹かれていった。しかし、その気持ちをどうすればいいのか分からず、戸惑うばかりだった。
数日後、中村が幸也に恋愛相談を持ちかけてきた。いつもガサツな中村が、こんなに真剣な顔をしているのは珍しいことだった。
「高橋、ちょっと相談に乗ってくれ。」中村は居酒屋のカウンターで、ビールを片手に言った。
「どうしたんだよ、大蔵。いつもと雰囲気が違うじゃないか。」幸也は驚きながら尋ねた。
中村は一瞬ためらった後、深呼吸して話し始めた。「実は、俺、好きな人がいるんだ。」
「へぇ、それは意外だな。誰なんだ?」幸也は興味津々で聞き返した。
中村はしばらく黙った後、小さな声で答えた。「菜々子だ。」
その名前を聞いた瞬間、幸也の心臓が一瞬止まったかのように感じた。彼もまた、菜々子に対する特別な感情を持ち始めていたのだ。しかし、中村が先に気持ちを打ち明けてきたことに、幸也は困惑した。
「そうか……菜々子か。どうして急にそんな話を?」幸也はなるべく冷静を装いながら尋ねた。
「最近、彼女と話す機会が増えてさ。気づいたら、俺、彼女のことが気になって仕方なくなってたんだ。だけど、どうやってアプローチすればいいか分からなくて。」中村は困った表情で言った。
幸也はしばらく黙ったまま考えた。自分の気持ちを隠しながら、中村を助けることはできるだろうか。そして、どうすればいいのか分からないまま、幸也は深い溜息をついた。
「分かったよ、大蔵。俺も協力するよ。」幸也は重い心で答えた。
その後も、幸也は中村の恋愛相談に乗りながら、内心で葛藤を続けていた。そんな中、彼の心にさらに波風を立てる出来事が起こる。
ある日、幸也は街中を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。「幸也君?」
振り返ると、そこには幼馴染の美香が立っていた。彼女は看護師の制服を着ており、その姿がとても清楚に見えた。
「美香?どうしてここに?」幸也は驚いて尋ねた。
「実はね、この街の病院に就職が決まったの。だから、これからしばらくここに住むことになるの。」美香は微笑んで答えた。
「そうなんだ。偶然だね。」幸也は少し緊張しながら答えた。
「偶然……そうかもね。」美香は意味深に笑った。
二人はカフェに入り、昔話をしながら時間を過ごした。美香は変わらず優しく、幸也を温かく見守る存在だった。しかし、彼女の言葉にはどこかしらの意味深さがあり、幸也はそれを感じ取っていた。
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