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訥々と語り聞かされる他人の人生の合間に、
コマーシャルの如く自分の人生が走馬灯する。
温い液体が流れ出ていくように、
一つまた一つ実存を失ってゆく。
残らず失ったら僕は誰になるのだろう。
僕だったものは誰のものになるのだろう。
この人だろうか?
見ず知らずの不幸者に
骨まで全部くれてやらねばならぬのだろうか。
自らを省みて他者を愛せよ。
個の持つ愛を他に渡してこれ全となる。
然らば僕はすべからく奪われるべきなのだ。
神などいない。是とする信条もない。
ならばたった今拓かれた言葉は誰のものだ。
怒濤の脱力感。
あと一吐きだけ残された空気。
溶けだす意識のその先があるのなら、
良いだろう、
僕から全部奪うがよい。
赤の他人よ、
慎んであなたの糧になろう。
生き永らえて己が人生に向き合いなさい。
僕は先に行く。
あなたの終着が僕と同じかは分からないが。
さようなら、見知らぬ不幸者。
胎に居残る憎しみを吐き出して
結びの挨拶とする。
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