15


濁点の母音にまみれながら

俯せになったところで

胸ポケットの塊を思い出す。


跳ね起きて少し眩暈。


つまみだした君の白が魂の底をさざめかせる。


僕の執着がこれに帰結するなら、

手放すべきは物質としての君だろう。


迷わずゴミ箱の前へ。

蓋を開け、プラスチックの穴を覗き込む。


空元気の様相で

万事が上手くいくような気がしてくる。


手放した瞬間の焦燥を僕は知っている。

クローゼットの奥に

ストックされた君が待っているのを

僕は知っている。


そのいずれをも、僕は知らないふりをする。


高い位置で指を開いて、

君をプラスチックの奈落に落とす。


瞬間的な喪失感を味わう間もなく

僕の中から君が引きはがされる。


奈落から君が這いあがってくるのを恐れて

バスルームに逃げ込む。


頬にこびりついた体液の痕を

熱いシャワーで洗い流す。

躍起になって擦った肌が赤い。


降りしきる湯に佇んで、

君を思い出してやらない。

取り残されたのは僕だろうか君だろうか。


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