149話 総攻撃、開始
カルミアさんと目を合わせて頷き、ホールのドアを開け放つ。ケインには端的に『開始』と伝えた。
単身で駆け出し、三つ並んだ椅子の左端に立つログマへ向かう。彼に覆い被さり共に伏せながら、地属性の対物理攻撃シールドを円状に展開。
三方から銃声が轟き、いくつもの銃弾をシールドで弾く。そのうち何発かは、隣の席に座ったままの死体が受け止めてくれた。逆端の席に座っていた気弱そうな傭兵は、変な声を上げながら一目散にその場を逃げ去っていった。
正面の二人がぼやいている。
「あークソ、通らねえ」
「だったらこっちだろうが!」
精霊銃だろ? それで一回仲間が痛い目見せられてるんだ、同じ轍は踏まない。あれから勉強も対策もしている。
金髪と眼鏡が腰元から別の銃を取り出す。一般的な銃よりも大きく、見た目も複雑なそれは、やはり精霊銃だ。横の二人は精霊銃を持っていないらしく、弾切れであたふたしている。
幸い、奴ら二人の立ち位置は、両方前面。装填し、銃口を向けられる少し前に両手を前へ突き出した。集中力と気力を一気に使う。
「うおおおお!」
渾身の全属性複合シールド。面積は心許なかったが、眼鏡と金髪が撃ち出した金と青の銃弾を弾き落としてやることができた。
代償に、頭が内側からズキンと痛む。
「ぐっ……!」
もう霊術力がカラだ、脳に来始めてる。精霊銃の方は連射ができない仕組みだった筈だが、次は防げない。
だがここで、奴ら四人の銃が次々と氷の塊に包まれる。ログマが俺の渡した強力ペンチで腕輪の封印を脱し、杖のアクアマリンを強く輝かせていた。
「ルークにしてはよくやった」
「……はは! 『キャロル』には敵わねえよ」
やむなく銃を放り捨て、武器を持ち替え始める四人。俺ももう霊術攻撃は無理だ、長剣を抜いて迎え撃つ。
一番位置の近かった大剣使いの男が、獲物の刃を横に寝せて俺を薙ぎ払わんとする。咄嗟に
刃を交えたまま、競り合いとなる。
「ぐ……!」
重厚な刃と大男の筋力に、じりじりと押し負けていく。刃が首元へと迫り来る。相手はこのまま力技で俺を捩じ伏せるつもりのようだ。どう回避して反撃に転じるか――。
その背後で、ピィンという特有の高音がした。霊術シールドが霊術攻撃を防いだ時の、精霊同士がぶつかる音だ。――ログマが何者かの霊術に対処したということ。
必死で大剣を押し返しながら、声だけで呼びかける。
「ログマ……」
「逆側のアイツ、術士だ。対処しておく!」
「頼む……!」
言っている間に、大剣からの圧がフッと消えた。横から静かに肉迫したカルミアさんが男の前腕を二本まとめて貫いていた。この暗さの中、的確に防具の隙間を縫っている。
「ぎあぁっ――!」
男の悲鳴など気に留めず、容赦なく槍先を引き抜くカルミアさん。彼は、床に崩れ落ちて大剣を取り落とし、痛みに呻くのみとなった大剣男の様子を確認した後、正面で俺達を睨む残り二人の敵にハルバードを構える。
「さて。これで丁度三対三になるね」
「ありがとう、助かった!」
正面の二人、ヒュドラー組員の小柄金髪と傭兵の灰髪眼鏡は、武器を構えながらも何やら揉めている。
彼らは俺とカルミアさんの臨戦態勢に気付いたようだ。灰髪眼鏡はレイピアを構え、妙に余裕のない顔で怒鳴ってきた。
「この雑魚が! どこの誰だか知らねえが、邪魔してくれてんじゃねえ! 生きて帰れると思うなよ!」
小柄金髪はため息をつきながら双剣を構え、一人だけ別のことを考えているような顔をして言った。
「熱くなるなって言ってんだろ。雑魚どころか、見た感じこいつら強いぞ」
「あぁ? 俺が冷静で居られるわけが――」
「はいはい、あんたが必死なのは分かったから……」
奴らは尚も言い争って向かってこない。様子を見つつ、術士同士の戦闘を続けるログマの三つ編みが揺れる背中へと尋ねた。
「ログマ、そっちの術士、任せられそうか?」
彼の声には余裕と張りがあった。
「ああ。弱くはないが、一対一でなんとかなるだろう。こっちは気にするな」
「助かる。任せた!」
言いながら駆け出す。狙うは本命のヒュドラー組員、小柄金髪。双剣の手数を考えると、先制攻撃でペースを握りたいところだ。
――と思った時には、喉元に切っ先が迫っていた。
「うわっ!」
その刺突を仰け反って避ける。体勢を低くして数歩後退し、唇を噛んだ。
こいつ、物凄く速い。その上で双剣による二倍の手数で攻め立てられれば、俺の強みである速さの面で上回られてしまう。ロングソードのリーチで優位を保てればいいが、懐に入られればやりづらい。分が悪い……!
奴もまた数歩下がり、双剣をゆったりと構え直す。カルミアさんが、横でむうと唸った。
「……悪いけど、俺じゃちょっと厳しすぎる。俺は眼鏡対決をさっさと終わらせて、ルークの方の支援に回るよ」
同意見だ。いかにカルミアさんが槍の名手でも、槍自体の弱点である近距離戦に持ち込まれる可能性が高すぎる。かと言って、カルミアさんから見ても、小柄金髪は俺一人で倒せる相手じゃないってことだよな……。厳しい勝負を覚悟し、ふうと息を吐いた。
「……了解。頑張るよ」
頷いた彼は駆けていき、未だ余裕の無さそうな灰髪眼鏡へと流れるような刺突攻撃を仕掛けて行った。
各々の交戦を尻目に見ながら、俺は小柄金髪と睨み合う。勝負を焦り、相性の悪い相手に突っ込んでいく必要はないのだ。落ち着いて観察し、的確に隙を突きたい。
そんな保守的な姿勢を、奴の据わった紅の瞳に、隙と捉えられてしまったようだ。
「来ないのか? ……来れないのか。じゃ、俺から」
間合いが一瞬で詰まる。
「うっ――!」
腿を狙った左剣を弾き、即座に手首を返して、肩に迫った右剣を受け止める。反撃に転じる間もなく、再度迫った左剣が俺の腹部を横一文字に斬り裂いた。
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