37話 ウィルルの努力
あまりに凄まじい威力に開いた口が塞がらない。俺の精霊術も弱くはない筈だが、ここまでの玄人には到底敵わない。
汗だくで荒い息をするログマが、流し目に俺を見た。
「ルーク、お前、剣技の認定を何か貰っているだろう。何級だ」
「え……。一応、プラチナ……」
「へえ、国内有数の剣士か。道理で。剣技の質と動きの速さは見た事がない水準だった、思ったよりやれるんだな」
実力を示すつもりではあったが、まさかログマに褒められるとは思わなかった。つい狼狽える。
「あっ、ありがとう。ログマの本気の霊術力を見てちょっと自信なくしてるけどな」
「たまには褒めてやるよ。お前が矢面に立ち続けたおかげで想定以上に早く強い力が溜まった。とにかく見直した」
「なんだよ、いきなり優しいじゃんか! すげえ嬉しいよ」
「河の流れに吸い込まれる様も綺麗だったぞ」
「それは見逃してくれよ……」
いつもの皮肉にため息が出るが、この捻くれ者はお世辞を言わない。今まで見た中で最強のロングレンジアタッカーに認められて、自然と口角が上がった。
ログマは、背後のウィルルを振り返った。
「ウィルル、今日はかなり助かった。お前の補佐と護衛はその都度最適だった。毒の事前情報といい、今回一番活躍したのはお前だな」
杖を握ったまま肩で息をしていたウィルルは岩のように固まった後、顔を真っ赤にして震え、ぼろぼろと涙を溢した。
ログマはこちらに背を向けているが、肩がびくっと動いて足を一歩引いたのが見えた。
駆け寄って来ていたケインが怒る。
「ちょっとログマ、何を言ったの!」
「悪いことは言ってない! むしろ褒めた!」
水術で全身を脱水して鞘と剣を乾かし、背に納める。そしてケインへと歩いて苦笑いを向けた。
「ケイン、本当だよ。ログマは、今日の勝ちはウィルルのおかげだなって言ったんだ」
「あれっ、そうなの?」
「うん。意外だったけどね」
俺だって、彼女には改めて礼を言いたい。もっと泣かせてしまう気はするけど。
「……ウィルル、俺からもありがとう。ウィルルの情報がなかったら、俺は死んでたよ。命の恩人だ。後ろを守ってくれて頼もしかった」
ウィルルはうぅと声を詰まらせた。身につけた膝丈のフレアスカートが、強く握りしめられている。やがて俯くと、美しいホワイトブロンドの長髪が、涙と共に前へ流れた。
よろよろと後から歩いてきたカルミアさんが、やや青白い顔で笑った。
「いやあルーク、ありがとう。今日は俺がまともに盾になれなかったからさ。ウィルルもありがとね! そっちの方にいた細かい奴らを近くに飛ばしてくれて、随分楽させてもらったよ」
カルミアさんに俺も感謝された。嬉しい!
ウィルルは袖で目元を覆って泣き始めた。俺と一緒で嬉しいのだろうと思ったが、胸が締め付けられるような切ない声を漏らしていた。
「わ、私。凄くダメな子なの。馬鹿で、空気が読めなくて。いつも役立たずで足手まといで……。こだわりだけ強くて……! 誰にも好きになってもらえない嫌われ者で! ううっ、こんな風に……お母さん以外に……うええぇん、嬉しいよぉ」
いつも辛くて泣いていた彼女が、今は嬉しくて泣いている。彼女を囲む皆の目は、温かかった。その雰囲気に心を打たれ、俺の目まで潤んできた。
ケインが、しゃくりあげて震えるウィルルを抱きしめた。
「ルルちゃんが皆を助けてるのは、今日だけじゃないんだよ。嫌われ者なんかじゃない、大好きな、頼れる仲間なんだからね」
「ひええぇん……! あのね、私ね。色々勉強して、練習したの。ずっと全部上手くいかなくて、何度も迷惑かけて、沢山怒られたの。でも、諦めなくて、良かった……。ううう……!」
頑張り屋な彼女が、自分の努力が報われるのをようやく感じられたと言うことなのか。
ついにもらい泣きして目元を押さえていたら、めざといログマに嗤われた。
「お前、また泣いてんのかよ。水属性が得意なだけある」
「……うるせえな」
でも俺はどうしても心配で、もう一歩だけ踏み込みたくなってしまった。涙を払ってウィルルに近づく。ケインが気づいて、ウィルルから離れた。
「ウィルル。一つだけ聞いてくれる?」
「うっ、グズっ、なあに?」
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