第9話「人魚姫の正体」
聞き間違いだろうか。つい数時間前に僕を睨みつけた女の子の名前にそっくりな気がする。
「……ごめん、もう一回言ってもらえるか?」
「天谷汐里」
うん、聞き間違いじゃなかったみたい。
マジで……?
「天谷汐里って子。近くの高校に通っている二年生」
頭を抱える僕を見て、もくずはまた聞こえていないと思ったのだろう。慈悲深い心で再度名前を伝えてくれる。その優しさは残酷な現実を叩きつけているから、僕にはダメージしか入らない。
「天谷さんかぁ……嘘でしょ?」
「なにその反応。もしかして知り合いだった?」
「クラスメイト……」
「おぉ~それなら話が早いね、ラッキーだ!」
「それがそうでもないんだよなぁ」
「なんで? クラスメイトなら話しかける難易度そんなに高くなくない?」
その発言は類まれなるお喋り能力とポジティブさを兼ね備えた彼女だから言えることであろう。
あいにく僕にはどちらの能力も高くなかった。というか高かったとしても、それ以前の問題が立ちはだかっている。
その問題を口にしたくなくて、僕は濁した質問をもくずに投げかけた。
「記憶の共有とかってされてないのか?」
「配信したいって気持ちそのものだから、配信に関係ない事は殆ど知らないなぁ。実際、『切り抜きたくて』としての目代くんは知ってたけど、クラスメイトとは知らなかったし……」
「そうか。じゃあ言っておくが僕は昨日、天谷さんに『興味がない』と言い放ってしまった」
「おぉ~言うね! それは頭も抱えるね」
「ここから挽回することは元同一人物として可能だと思うか?」
「えぇ~と、うぅ~んと……んんぅ~…………やってみれば分かるんじゃないかな!」
投げ出したよ、この子。
いや、絶対無理! とか言わないところが、もくずの良さなんだけどさ。
丸腰で冷たい視線を扱う人魚姫に立ち向かえるものか……?
「頑張れ頑張れ」
推しから僕だけの応援ボイスを貰っちゃあ頑張るしかない。でも、その前に一つだけ確認がしたい。
「失踪理由って、もくず分かったりしないのか?」
配信に関係あることだし、もしかしたらと一縷の望みを持つ。しかし、もくずは首を横に振った。
「ごめんね。ちょっと覚えてなくてね……」
「だろうな」
理由が分かってたら彼女は僕の元へ来ていないだろう。だから、代わりに解明するのが僕の仕事だ。
勇気を振り絞って、いざ行かん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます