愛しい君と相合い傘
まったく、梅雨が始まっているのだから、傘の持参は当たり前じゃないのか?
大きい物は無理でも、折りたたみの傘だってあるんだから…ね?
それとも、やんごとなき方々のご令嬢は、傘を持ち歩かないのが流儀なのだろうか?
しかし、傘を持参している娘も居るんだよなぁ…。
おっと、思わず愚痴から始まってしまったね、申し訳ない。
いよいよ、6月
えっ?何を愚痴っていたのか?って。
実はさ、最近の通勤時に、やたらと相傘を頼んでくる女子生徒が多くってね。
君も知っている通り、通勤電車で最寄り駅から正門に向うまでは、そこそこの距離がある上に、地下道やアーケードなどの整備も出来ていないからね、傘が必要なんだよ。
まぁ、僕の使っている傘は、他の方よりも大きいものだから、潜り込んできているとは思うんだけれど…。
先日は、四人ぐらい潜り込んできたものだから、傘を明け渡すしか無くなってね、例の折りたたみ傘を引っ張り出す羽目になったんだよ。
そう、君が虫除けの傘と言っていた、あの真っ赤な折りたたみ傘だよ。
…でもね、その傘にも入り込んでくる娘が居るんだよねぇ。
本当に、あの傘は虫除けの傘なのかい?
何だか、集まって来るんだけどねぇ…女子高生達が。
ああ、すまない。
君の呆れ顔が目に浮かんだら、現状との落差に吹き出しそうになってしまったよ。
そう言えば、同僚の先生が今月ご結婚されるようです。
おめでたい話なんだけど、スピーチを頼まれてしまったよ…僕は
一番のサプライズは僕の方なんだけどね。
さて、困ったのは礼服の新調が必要になってしまったということだ…しかも期日は押し迫っているし、はてさてオーダーメイドで間に合うのだろうか?
まぁね、君の予想通り、女子生徒達が集まってきて、何処とは言わず洋服屋のハシゴをする羽目になってしまったよ。
まったく、僕は着せ替え人形ではないんだけどなぁ…女子生徒達はあれやこれやと礼服を持って来ては、僕を試着室へ送り出すんだよねぇ。
お陰様で、礼服は間に合ってしまったよ。
つくづく、君の後輩くん達は、実に優秀だよ!…僕の感性そっち除けだけどね。
「6月の花嫁」だっけ?
君から聞くことはなかった単語だけれど、年頃の娘達が多いせいなのかな?
それとも、今度の披露宴スピーチのネタ探しをしていたせいだろうか?
やたらと耳にする機会が増えてしまったよ。
「先生!数式で6月の花嫁を解説しちゃダメだからね?」
と、とんでもないツッコミを入れてくる娘もいたよ。
何だか、君から言われそうな言葉だったから、大笑いしてしまい、ツッコミっ娘を当惑させてしまったよ。
でもまぁ、人の出会いというのは突然に訪れ、予定外の紆余曲折を経て、くっついたり、くっつかなかったり…それが自己の歴史として心のなかに沈殿していく。
恋愛は、タダの沈殿物に、酸い甘いのスパイスをフリカケルようなものだと思うんだけどね。
さて、スピーチの準備もボチボチ始めないと、本当に数式で6月の花嫁を解説しそうだよ。
それじゃ。
愛しい君へ
変わらぬ想いと共に
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