15冊目 時を知らせる時計塔
空は、夜明けの光によってわずかに明るくなり始めていた。
そんな朝日が顔を出そうか出さないかという頃、老人と少年は、古びた時計塔の下で出会った。
老人はその時計塔の守り人であり、世代から世代へと時を刻む責任を受け継いできた。
そして少年は、村で一番好奇心が強く、未知への探求心に溢れていた。
「なぜ、時計塔は動かないのですか?」
少年が老人に尋ねる。
そんな好奇心いっぱいの少年の問いに老人は口元をわずかに緩める。
「この塔は、ただの時を刻む機械ではないんだ。過去と未来を繋ぐ門なんだよ。」
少年の目は輝いた。
彼は常に新しい発見を求めていたからだ。
しかし、少年は村に残された母を思いやる心も持っていた。
「過去や未来へ行けるなんて、本当ですか?」
「本当だよ。しかし、その旅は大きな代償を伴う。時間は、そう簡単に弄べるものではないからね。」
少年は考え込んだ。
彼の心は冒険に駆り立てられていたが、同時に、家族への愛という重みも感じていた。
「私は、過去に行って、死んでしまった父さんに会いたい。でも、母を一人で残すわけにはいかない…」
老人は優しく頷いた。
「時間旅行は、それ自体が一つの試練だ。過去や未来を見ることで、我々は現在をより深く理解できるようになる。しかし、それは同時に、現在がいかに貴重であるかを教えてくれるんだ。」
少年は深く考えた後、決意を固めた。
「ぼくは、過去に行かない。今、この瞬間に全てを注ぎ込みます。父は、私が母を守ることを望んでいるはずですから。」
老人は、少年の成長を認め、時計塔の鍵を彼に手渡した。
「この鍵は、いずれお前が守り人となった時のために保管しておくんだ。時は、我々が思う以上に脆く、また貴い。それを守り、敬うことが、お前の役目だ。」
少年は鍵を受け取り、新たな決意で村へと戻った。
時計塔は静かに時を刻み続け、少年と老人の間に交わされた約束は、未来への希望として残った。
夜が明け、日は高く昇り、少年は母と共に新しい日々を迎えた。
彼は、過去ではなく、現在の瞬間に価値を見出すことを学んだのだった。
そして、時計塔は今もなお、静かに時を守り続けている。
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