約束

@ichigodoropp

第1話

約束

あの人は最後に真面目な顔で、

「死んじゃったらめっちゃ悲しい」

と、温かい手で私の手を包み言った。

そして、少し寂しそうに笑って、

「っておまじないをかけておこうかな」

と言う。

そこでいつも夢が終わる。

ブォォン。

バスが出発する。少しうたた寝をしてたようだ。

「次は、幸町さいわいちょう一丁目、お降りの方は、お近くのボタンを押してください」

「ピンポ〜ン」

ボタンを押す。

まだ停留所まで時間がある。

「…まもなく幸町一丁目」

私が降りるのはまだ先だ。

零れたこぼれたオレンジソーダのような空を見ながら黄昏れる。

私はこの時間が大好きだ。

周りのお客さんが、がやがやしてる音も入ってこない。

またあの人に思いを馳せる。

「足音で察知したでしょ。どう?調子は?」

「お家に帰れそう?」

「うん。」

「あっ、ちょっと待って。すぐ戻る。」

何をしに行ったのだろう。私は、足をばたつかせ、部屋を見渡した。三ヶ月お世話になったこの部屋も今日でお別れだ。

「色々なことがあったな…」

「…おまたせ。はいこれ」

あの人はそう言って、チューリップのマスキングテープをくれた。

約束覚えててくれたんだな。と内心で思う。

「今も死にたい気持ちはあるの?」

「今はない」

「あなたからは死にたいって気持ちが見えないんだよね。入院した頃は、この子は社会で生きていけるのかって思ってたけど、色んな話していくうちに、今は大丈夫だなって思ってる」

そして私の目を見て、

「強くなったね」

と頭をポンポンと撫でてくれた。

あったかい安心する手。

私はこの人に撫でられるのが好きだ。

「将来、何になりたいの?」

私は照れくさくて、少し間をおいて、

「あれ、言ってなかったけ?」

と笑った。

でもあの人は、優しく笑って、

「言ってるよ。それに立ち向かう勇気ありますか」

と私に言った。

私は、少し自信がなかった。

でも、

「あります」

と言った。

そしたらあの人は、自分の子どもが旅立つ時みたいに、優しく、それでもどこか寂しそうな顔で、

「先生になってください」

と言い指切りした。

あなたと指切りした小指は、まだ誰とも指切りしてません。

あなただけです。これからもしません。


あれから、五年が経つ。

私は先生にはなれなかったけど、人を救う仕事をしています。

昔、私みたいに悩んだ子を助けるために、家庭教師になりました。ゆくゆくは、塾を開きます。

約束が違うって怒られるかな?

それとも、あなたにぴったりだよって言って、またぽんぽんしてくれるかな。

そろそろ私が降りる停留所に着く。

「…次は、幸町二丁目。お降りの方は、近くのボタンを押してください」

「ピンポ〜ン」

あと五分もしないで着くだろう。

私は、スマホケースをみる。

チューリップのマステが貼ってある。

「鈴木さん、初仕事です。」

とマステに呟いた。

「まもなく、幸町二丁目。幸町二丁目。」

そろそろ降りる準備をしよう。

バッグにスマホをしまい、ICカードを出す。

プシュー。

ピッ。

「ありがとうございました」

と言い礼をする。

バスから降りると、綿毛が風に吹かれ舞い飛んでいる。

「よし、初仕事頑張るぞ!」

気合いを入れ直し、生徒の家へと向かった。















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