第74話~心を縛る鎖~

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「だから!なんでも正面から叩かないで!」

声を荒げるメイレーンだった。

「正々堂々の正面突破!なにが問題ですの?」

不貞腐れた感じでカノンが応える。

「まあまあ、二人供落ち着いてよ」

なんとか険悪な雰囲気を払拭しようとセレンが奮闘している。

セレンの奮闘も虚しく、二人の言い争いは続く。続く言い争いにカノンも声を荒げはじめる。

もう、何が発端かわからない罵詈雑言の応酬になっているメイレーンとカノンだった。

…あ~あ。遮音結界を張ってなかったら、酒場の皆の注目の的だね。


メイレーン、セレン、カノンはボルケーノで顔合わせをした翌日に、アークの地下迷宮へ赴いた。

仮称だが<魔道戦士隊>の準備を本格的にはじめるためだ。

三人が部隊設立の中心となるのは既定路線となっている。

そこで、親睦を深め、互いの実力を確認する意味で三人で依頼を受けようとした。

だが、水晶級二人と黒曜石級を求める高難易度の依頼は簡単には見つからなかった。

それならばと、シュヴェの提案で地下迷宮に赴くことになった三人だった。

地下迷宮の一部はアークの手によって三人の実力に合わせた物にされている。

三日三晩を地下迷宮で過ごした三人が戻ったとの連絡があり、七海と私は冒険者酒場に来たのだが…

「正面ばっかで背中がガラガラなんだ!私達はあんたのケツ持ちじゃあないの!」

<ドン!>

突然に剣を抜いたカノンが、地面に剣を突き立てた音だった。

席を立ちあがったカノンの横に、カノンの背より長い片手剣が立っている。

「では、勝負ですわ!どちらがセンターに相応しいか実力で決めましょう」

…あのお~センターってなんですか!?歌って踊れる冒険者かいな?

「わかった!受けて立つ!」

話し合いでは埒が明かないと感じたメイレーンだった。

「まあ、なににしても…腹がへったのですが…」

…っと。七海ぃ~。マイペース過ぎですよ。

七海の声で少しだけ冷静さを取り戻した二人だった。

「これは大変な失礼を致しました」

剣を納めたカノンは、七海に陳謝の礼をした。

「ご飯を食べながら勝負の方法を決めようか」

二人は私の提案を受け入れてくれたので、一時休戦で食事を済ますことになった。


食事は毎度のメネシス式だ。まずは、腹を満たすまで黙々と食べて飲む。

黙々とだが、普段であれば多少の会話はある。

だが、今日は不機嫌なメイレーンとカノン、少しオドオドするセレンと会話も少なく静かな状態だ。

早々に満腹となった私は飲み専モードに切り替え、二人に話かける。

「勝負は第一師団の訓練所でやろう。私が結界を張るから全力でオッケーだよ」

食事の手は止めないが頷く二人だ。

「基本は、なんでもありの実戦形式ね。当然だけど魔法も使い放題でいいよ。怪我は七海が治癒するから気にせず全力だよ。即死だけは回復出来ないから、状況を見て本当に危ない時だけは私が介入するね。勝ち負けは最後まで立っていた方が勝ちだよ。」

「ありがとうございます。その勝負方法で問題ありません」

「私も、その勝負方法で異存はありませんわ」

二人が私の提案を納得してくれたみたいで、安堵する私だった。

…結果は、予想が付くけどね。

私の中では勝負の行方は読めている。だが、二人を戦わすのは、遺恨を残さず今後の関係を構築するには必要なことだから。

◆◆◆◆

王宮の第一師団訓練場に到着すると、陽は傾きはじめ空は茜色に染まっていた。

「さて、手早くはじめないと真っ暗になっちゃうね」

何人かの訓練中の団員がいたが、私が声をかけると二人が勝負するには十分なスペースを空けてくれた。

「魔法物理結界」

私が結界を張り、メイレーンとカノンを囲む闘技場が完成した。

七海とセレンは結界の外で勝負の行方を見守り、私は結界内で不測の事態に備えている。

「はじめ!」

私の掛け声と同時にカノンが剣を抜く。

「どりゃあああ!」

カノンは正対するメイレーンの頭頂部を目掛けて巨大な片刃剣を振り下ろす。

体位を横に滑らすようメイレーンは移動して、カノンの剣を躱した。

「うおぉおお!」

再び雄叫びをあげるカノンだ。カノンの剣は物理法則を無視したような動きで、メイレーンの腰高さくらいで真横に軌道が変わった。

…あの重さの剣を、全力で振り下ろし中に軌道を変えちゃうの!?

まったくカノンの馬鹿力には驚くしかない。

メイレーンは跳躍をして剣を飛び越え空振らせる。そして、驚くべきは空振りしたカノンの横向きになっていた剣の平地にメイレーンは着地をした。

…サーカスを見ている気分だよ。

カノンは次の動作をどうすべきか困惑をしているのが見て取れる。

剣の上に相手が乗っている状況は、滅多に見れる光景ではない。

一見すると剣を握る者が相手の生殺与奪剣を持っているように見える。

だが、実際は剣の上に乗るメイレーンが絶対的に優位な状況なのだ。

メイレーンを剣から振り払う動作は、必ずカノンの隙を生むことになる。

カノンの剣より高い位置にいるメイレーンは、振り払う動作をした剣が戻って来るまでガラ空きのカノンに攻めれる。

…この状況を打開するには、剣を手放すしかないカノンだね。

カノンの手から離れた剣は落下し、メイレーンの足場として意味を失う。

落下する剣を蹴り出してたとしても、十分な反動を得られない跳躍しか出来ないメイレーンは攻めに転じるのは難しい。

…その次を、どうするかだけどね。セオリーなら、剣から魔法戦に切り替えればカノンの勝機も残るけどね。

困惑するカノンが次の動作を決められない一瞬を使い、メイレーンが動いた。

剣の平地を走り抜けカノンとの間合いを詰めたメイレーンは、バック転を決めると同時にカノンの顎を蹴り上げた。

<ゴキュ!>

吹き飛ぶカノンの顎から不快な音が響く。

…あ~あ。顎の骨が砕けちゃったね。

メイレーンの蹴りは凄まじく、カノンは吹き飛び地面を転がっている。

バック転を決めたメイレーンが華麗に着地して余裕感満載なのと対照的だ。


地面を転がるカノンが魔法の詠唱に入る。

顎が砕かれているのでカノンの発音は不明瞭だ。

…まあ、詠唱は精神集中だから発音関係ないのが救いだね。

立ち上がると同時にカノンは、

「めちゃおすとらいく(メテオストライク)」

詠唱を終え叫んだ。

砕かれた顎、咥内から溢れる血潮で発音は不明瞭だが術は発動した。

メイレーンの頭上に直径数メートルの光星が出現し落下をはじめる。

「剣よ…」

メイレーンの掌中に日本刀の形をした水晶の剣が現れた。

…あっ。メイレーンの新しい魔剣をはじめてみれたね。

「火葬」

すでに詠唱を終えていたメイレーンが火葬を発動すると、透明に近かった刀身が深紅に染まり炎を纏う。

…火葬を魔剣に送り込むとか。どれだけメイレーンは成長してるの!?

落下してくる光星にタイミングを合わせメイレーンは剣を振り下ろした。

<パーン>

深紅の刀身が光星に触れた瞬間だった。刀身から放たれた炎に包まれた光星は、凄まじい破裂音と供に粉々に砕け散った。


メイレーンが光星に対処している隙に、カノンは治癒魔法を自分に使っていた。

治癒魔法でカノンの砕けた顎は治っているが、口元は血まみれのままで痛々しい姿だ。

絶対の自信を持ちカノンが放った光属性の最高位攻撃魔法だった。

それを、意図も簡単に砕かれたカノンの悲痛な叫びが響く。

「なんですの!?光星を剣で砕くなんて!聞いたことありませんわ!」

完全に表情の消えたメイレーンはカノンの叫びに応じない。ゆっくりとカノンに向け歩み、メイレーンは間合いを詰める。

正面から静かに向かって来るメイレーンに気圧されたカノンは、巨大な片刃剣を振りかぶる。

「どりゃあああ!」

カノンの間合いにメイレーンが入った瞬間だった。メイレーンの頭頂部を目掛けてカノンは巨大な片刃剣を振り下ろす。

脚部強化を使いメイレーンは前方に跳躍をし、カノンの剣をすり抜ける。

「うおぉおお!」

すり抜けたメイレーンの気配を感じたカノンは、又も馬鹿力で剣の起動を横に変化させる。

カノンは、背後のメイレーンに横向きの一撃を狙ったが…

「あえ!?あれ?」

<ドン>

突然にカノンが地面に倒れ込んだ。

すぐに起き上がろうとするカノンだが…

…あ~あ。こりゃ絶対に起き上がれないよ。

起き上がれない理由がわからずカノンが混乱しているのが見て取れる。

起き上がれなくてもメイレーンの次の攻撃に備えようと、地面に寝転んだ状態で振り向いたカノンの視界に入った物は…

「脚ぃーーー!なんで、私の脚がそこに…うっわああああああ!」

太腿で切断された一対の脚が地面に立っていた。

あまりに見事に斬られたので痛みを感じなかったカノンだったみたいだが、地面に立つ脚を見て感覚を取り戻したのか痛みで叫び、地面をのたうち回りだした。

カノンは半分だけ残った太腿をバタバタさせている。

そして、太腿の切断面から凄い勢いで血が噴き出しはじめた。

高速の刃筋で切断をされた時に時々あることだ。。

斬られた瞬間に傷口の筋肉が収縮することで出血が抑えられ、一瞬だが出血が遅れる。

脚部強化の跳躍でカノンの横をすり抜ける時に、メイレーンが放った一撃の結果だった。

「うわわああ…」

カノンの叫び声が小さくなり消えていく。

急な大量出血で意識を失ったカノンだった。

カノンの状況を私が確認すると、白目を剥き、全身がビクンビクンと痙攣している。


「結界解除。七海!よろしく!」

結界が無くなり、七海がカノンの元へ駆けつける。

血が噴き出るカノンの太腿の切断面に、七海が手を当てる。

切断面が薄く光ると、噴き出る血が納まった。

「まずは止血完了。次は接合だな」

両脇にカノンの切断された両脚を抱えたメイレーンもやってきた。

「七海さん。お願いします。」

「じゃあ切断面をあわせて。彩美!痙攣を押さえつけてくれるかな」

カノンの右脚の残っている太腿を私が固定すると、メイレーンが切断された脚の傷口を合わす。

合わされた傷口に七海が手を当てると、傷口が光輝き始める。

数秒で光は収まり、接合部分に一筋の赤い筋はあるが右脚は綺麗に繋がった。

「よし、次は左脚だな」

七海の合図で、左脚も右脚と同じように処置を施した。

「傷跡は数日で消えるけど…かなり強烈な回復痛が二、三日は残るかな」

…治癒魔法も、ご都合主義じゃないんだよね。繋がっても…一度、切り離された肉体を取り戻すには相応の痛みがあるんだよ。

◆◆◆◆

メイレーンに背負われ、私達の部屋に戻ったカノンをベッドに寝かした。

ベッドでは、カノンが細い息を繰り返し寝ている。

七海の治癒魔法で脚は繋がったが、大量の出血で体力が限界のカノンだった。

メイレーンとセレンがカノンのプレートアーマーを脱がすと、カノンはシャツと短パン姿になった。

薄い呼吸に合わせて上下するカノンの胸に七海が手を当てる。

七海が手を当てたカノンの胸が薄く光りだす。

少しずつカノンの呼吸が深くなって行き、普通の呼吸に落ち着くと七海は手を離した。

「体力活性化を施したから、少しすれば目を覚ますから」

治療を終えた七海も私達がいるソファーにやって来た。

メイレーンが七海にワイングラスを渡す。

「七海さん。ありがとうございました。ちょっと、やり過ぎちゃいました」

本当は治癒魔法を必要としない決着方法も選べたメイレーンだった。

だが、あえて完膚なきまでに叩きのめす手を選んだのは、禍根を残さず想いを伝えたかったのだと私は感じた。


「<私達の手で>をカノンは少し間違えて解釈していたんです。私達も<特別な存在>になってはいけない…<私達>は、特定の誰かに依存しないこと。でも…カノンは…」

メイレーンは本当に私の考える<私達の手で>を理解し、行動をしてくれている。

カノンが目を覚ますまでワインを飲みながら話は続いた。

「<私>が表舞台を去ったあと、メイレーン達が<私>になっては意味がないからね。それでは、私の責任をメイレーン達に押し付けただけだから…」

「彩美さんであればダブネスですら赤子同然なのは感じています。誰も傷つかず、死なずにメネシスの脅威を排除できる。でも…それでは救世主頼みで…次に脅威が訪れた時に彩美さんがいなければ…破滅しか待っていない」

メイレーンは私の想いを理解していくれている。。

「だから<私達の手で>脅威に立ち向かわなければならないけど…当然、中心になる<私>は必要な存在だけど…<私>が個ではダメなんだ…<私>を失っても<私達>から新たな<私>が生まれないと…」

…本当にメイレーンには驚きだよ。釈迦問答のような私の想いを正確に理解してくれている。


メイレーンの話は続いた。

三日三晩を供に過ごした地下迷宮でメイレーンは、カノンが目指しているのは私<彩美>の代わりになることと感じた。

何回もチームプレイを望むメイレーンとセレンの願いを無視して、カノンは三人でのチームプレイでなく一人でパワープレイの戦闘スタイルを貫き通した。

三人の中で唯一の光属性。一般的に光と闇属性の戦闘力を他の属性が凌駕することはない自信。そして、光属性最高位攻撃魔法の光星襲来を使える自信。三人の中で圧倒的な力を持つはずの自分なら<私達>の中心になる<私>になれる。

名誉欲、光の国王族貴族として誇り…同じ階級の冒険者でも庶民とは違う存在とカノンは二人に従属を求める感覚にメイレーンとセレンは危機感を感じた。

魔道戦士隊が結成されれば円滑な組織運用のために役職は必用だ。隊長は強いから隊長なのでなく、隊を纏める能力が他者より高いから隊長という立場にいるだけ。万が一、隊長が戦闘中に失われても、次の適任者により速やかに穴が埋められる組織で無くては、<私達>でなく<私>が集まっただけの集団だ。

生まれながらに大貴族の娘として培われた、貴族は先頭に立ち庶民を先導する者との感覚は、冒険者として多くの経験を積んだはずのカノンでも逃れる事が出来ない鎖になっていた。


「貴族も庶民も関係ない。属性も関係ない。一定以上の戦力と、<私達の手で>をきちんと理解した者達が、適材適所で配置された組織。組織が自律性を持つまでは私達三人が組織の核になるのは仕方ないですが…私達より適材の者が現れれば組織の先頭に立ってもらう。彩美さんから<私達の手で>を聞き、魔道戦士隊の構想に行き着いた時に…私が考えた答えです」

「うん。そうでなければ特定の<私>だけが全て背負う事になり、結果は特定の私が<救世主>扱いになってしまうからね。」

「だから…今回は完膚なきまでにカノンを叩きのめす必要がありました」

完全に芽吹き、ルシファーの一歩間違えれば死が待つ苛烈な訓練に耐え抜いてきたメイレーンだからの自信を感じた。

「今のカノンは芽吹き中のセレンでも余裕な相手とも気が付けないほど、カノンを縛った鎖は強いと感じましたから…その鎖を断ち切るには…」

メイレーンと同じ訓練をセレンもルシファーから受けて耐え抜いている。

セレンはメイレーンのサポートに徹しているから目立たないけが、個の戦闘力としてはカノンを大きく凌駕している。


「う、う~ん」

ベッドから声が聞こえる。カノンが目覚めたようだ。

視線をベッドに向けると、カノンが上半身を起こして周りを見ている。

「ここは、どこですの」

私は準備していた水の入ったグラスを持ちカノンの元へ向かう。

「はい、まずは水を飲んで。」

差し出したグラスをカノンは受け取り、一息で飲み干した。

「ここは黒泉館にある私と七海の部屋だよ」

「私はどうしてここに?」

…少し混乱して記憶が飛んでるかな?

ソファーに居るメイレーン達を見付けたカノンは、ベッドから立ち上がえり向かおうとするが…

「うぎゃあああぁああ!」

床に足を付けた瞬間に、盛大な悲鳴を上げ床に座り込んだカノンだった。

七海がカノンの元にやってくると太腿の接合痕に手を当てる。

接合痕が薄く光り輝くと、大粒の脂汗を流して苦悶の表情だったカノンの表情が少し和らぐ。

「痛覚を一時的に麻痺させたから、少しは楽になるよ」

「ありがとうございます」

七海の魔法でも完全に痛みを取り除くことは難しく、立ち上がるのが限界なカノンだった。

「もう…」

メイレーンがカノンの元に来ると、抱っこをしてソファーまで運び座らす。

私達もソファーに戻ると、七海が傷に関して説明をはじめる。

「切断面は凄く綺麗だったから、接合による回復痛は二~三日で治まると思うから」

「脚の切断…ああああ!」

痛みも落ち着いたのでカノンの記憶が戻ったみたいだ。

向かいに座るメイレーンに向け、深々と礼をするカノンだった。

「本当に申し訳ございませんでしたわ。リーダーはメイレーンに…」

カノンの話を遮るようにメイレーンが話し出す。

その内容は先ほど話した<私達の手で>の本当に意味だ。

話を聞き終えたカノンは、かなり落ち込んだ表情になっていた。

「私は鎖を断ち切ることが…」

「一緒に…少しずつ…頑張っていこう!」

言い終えるとメイレーンがカノンに手を差し出す。

「ありがとうですわ・・・」

カノンがメイレーンの手を握り返した瞬間だった。

「い、い、痛たたた!」

メイレーンの悲鳴が響く。

「あっ!また、やってしまいましたわ」

全員大爆笑で場の空気が和やかになったのが感じられる。


「ここまで接合の回復痛が凄まじいとは驚きましたわ」

…まあカノンの力量なら手足が千切れる様な怪我の経験はないよね。

「慣れちゃえば大したことないよ」

さらっと言うセレンに驚愕の表情になるカノンだった。

「ルシファー様の訓練だと毎回十回以上は手足が千切れるの普通だしね」

メイレーンの言葉にカノンは驚きを通り越し、ポカンと口が開いた状態になっている。

「この立つことも出来ない激痛でも訓練を続けているのですか!?」

「体の痛みなんて…これから成さなけれならないことのためなら…いくらでも耐えれるから…」

覚悟を決めたメイレーンの言葉は重かった。

「私は覚悟も…甘かったのですね」

会話も一段落したのを察した七海がジョッキをカノンに差し出す。

「大量出血してるから、造血に必要だから水分をいっぱい取って」

ジョッキになみなみと注がれた水をカノンは一息で飲み干した。

「一日に何回も手足が千切れたら、出血多量で動けなくなってしまうのでは?」

カノンの問いにセレンが応じる。

「コツがあるんだよ。切られたり、千切れるの感じた瞬間に傷口に目一杯力を入れるの。傷口の筋肉が収縮して出血が抑えられるからね」

「まあ、死ぬかと思うほど痛いけどね」

…筋線維密度がガイア人に比べて三倍だから出来る荒業だよね。

メイレーンの言葉にカノンは完全降参したみたいだった。

「心構え、訓練と御指導、ご鞭撻、お願いいたしますわ」

◆◆◆◆

大量出血の影響でカノンの疲労感も限界だったので、メイレーンが背負って自室まで送ることになった。

メイレーンとセレンも地下迷宮から戻った疲れで、今晩は二次会とか無く自室に戻っていった。

「お疲れ、なんとか収まったね」

七海が私を抱き締めて労をねぎらってくれる。

…少しだけ…いいよね。

七海の胸に埋もれていた頭を少しだけ起こし、下から七海を見上げる。

「まったく…そんな甘い顔を見ちゃったら我慢出来る訳ないでしょ」

私の脇に回した腕を七海は引き上げ、私の顔が七海の顔の正面になる高さまで持ち上げられた。

「彩美は女として完全に芽吹いたんだね」

私の意識は言葉を紡ぎ出す、七海の紅く妖艶な唇に染まっていく。

ゆっくりと近づいて来る愛おしき唇。唇が重なり、至上の柔らかくも張りのある感覚が私の脳を襲う。

…最高だよ…この感触…

私の唇を割り七海の舌が咥内に入って来る。私の中に入った七海の舌は、舌自身に意識があるかのように私の舌に絡み付き絶え間なく快感を与えてくる。

…あっ…もう…もう…あああ…

私の脳が白く染まり、膝が崩れるのを感じると…意識が闇に落ちていく…


意識が戻ると、いつもと違う感覚に戸惑う私だった。

いつもならソファーで七海の膝枕…だけど、今、身体に感じる感覚はベッドの上で、首の下に柔らかく温かい枕の感触だった。

目を開けると視界一杯に七海の笑顔が映った。

「戻ったね」

首に感じた枕の感触は七海の腕。そう、私はベッドで七海に腕枕をされていたのだ。

…なんか、初めてのパターンだよ。

「ごめんね。我慢出来なくて…意識が飛んでたけど…食べちゃったの」

七海の言葉で気が付いた。私は一糸纏わぬ姿でベッドの上にいた。そして…この体の芯に感じる感覚は何回も絶頂に果てた後の…快感の残滓だった。

「美味しかった?」

私の問いに七海が応える。

「それ聞く?」

「わかっていても確証の欲しい時はあるから…」

いつもの七海と私のやりとりが逆になっている。

「この世の何よりの美味だったに決まってるじゃない」

七海の眼が少しトロンと艶を帯びはじめ、二回戦を望んでいるのを感じれる。


「少しだけ…話していいかな」

「何かな?」

「ほら。私が女の顔とか、甘い顔になると…どこで覚えて来たのかな?ってツッコミが入る刻があるけど…」

「いや。その、それネタだし」

「わかってるよ。でも、ちゃんと伝えたいの…」

そこから私が語ったのは先史代で人間だった刻の話だった。

幼くして両親を失った私の農作業では十分な収穫はなく、常に栄養不足で発育は平均より大幅に悪かった。

餓死してもおかしくない状況をアークの一家が支えてくれて、なんとか生きていた。

アークの一家も裕福だった訳ではないので、私の支援は餓死しない最低限が限界だったけど。

「私が人で無くなった、ガイアの十二歳位の刻でも栄養不足で成長出来なくて…胸はペッタンコだったよ。生理だけは十歳位の時に来たけど…周期とか乱れまくりでね」

私が何を伝えたいか把握出来ない七海が少し困っている表情になっている。

「そのね。先史代で体があった刻は…恋とか…一人エッチですら…する暇も余裕もなかったの」

「なんか…彩美は…その…」

「いいよ。気を使わないで。繰り返す過酷な人生…でもね、結果は七海に出会えたから、今は最高の人生を過ごしてるよ。でね…私の<女>を芽吹かしてくれたの全て七海だよ」

…これで伝わるよね…七海なら…

「そうか…先史代の人の刻は<女>を意識する暇もなく…体が女体化してから…心が<女>として芽吹いたのは…全て私の為だったのね…嬉しいよ…最高だよ」

添い寝する七海が私を力強く抱きしめる。

…ダメ!これだけで逝きそう。でも…流石の七海だよ…全部伝わった…私が異世界転移でも、女体化でも…過酷な現状でも前向きに強く生きれるのは七海と刻を一緒に過ごしたいからの想い。そして…七海が望む理想の<女>になりたい私の決意を…


静かに七海は私に口付けをして…舌をバストトップに向け私の体の上を滑らせる。

そして、バストトップを甘噛みすると…一番敏感な部分に向けて再び舌を滑らせる七海だった…

「あっ…あっ…ああああ…」

意識を失った間に七海から与えられた快感の残滓と合わさり、私の脳は激しくスパークを繰り返す。

…そうか…身体が気持ちいいから快感を感じるのでなく…心が満たされるから…快感を感じるんだね…

「ダメぇ~!逝っちゃうよ~」

それから…何回も七海から与えられる快感で私の脳は白く染まる。

ついに、限界を迎えて快感の海に意識が溺れる瞬間だった…

「私は…どこまでも一緒だよ。最高な旦那の嫁になれて幸せだよ…だから…今日はオヤスミだよ」

耳に響く七海の言葉が、身体で感じる快感と別の快感を私に与える。

そして…身体で一番敏感な部分に七海の吐息を感じた瞬間に、背骨が折れるのではないかと思うほど反り、快感を感じて…意識が闇に落ちていく…


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