第73話~回り道~

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「ここは、どこ?」

ゆっくりとベッドから上半身を起こすカノン。寝起きで意識がはっきりしないのか、動作は非常に緩慢だ。

声をかけるのは、もう少し意識がはっきりするのを待つ。

周囲をゆっくり見回していたカノンは、ベッドの横に並べられた金色に輝くプレートアーマーを見つける。焦ったように視線を自分の体に移し安堵している姿が見て取れる。

‥‥服を着ているのを確認出来て安心したのかな。

プレートアーマーと一緒に服も脱がされているのではないかと焦ったらしい。現状把握より貞操の危機を先に確認したくなる女性の本能を感じる。

‥‥そうだよね。今の私なら同じことしちゃうよね。

さて、そろそろ頃合いだ。私は、グラスを手に持ちソファーから立ち上がるとベッドへ近づく。

「彩美殿!?」

視界に入った私の姿を見て驚くカノン。

「はい。まずはこれ飲んで落ち着いて」

手に持っていたグラスをカノンに手渡す。カノンはグラスを受け取るが口元に運ばない。グラスの中身に警戒しているのを感じる。

「ただの水だよ」

私の言葉に安心をしたのかグラスに口を付ける。一口飲み水と確認すると一息で飲み干す。

「もう一杯いかがですか?」

私に続いてソファーから水差しを手にした実体のアークがやってきた。

「あ、あなたは。そして、この声!」

水晶人形のようなアークの姿を見たカノンの表情から驚きと困惑を感じる。

‥‥ドラゴンから送られた念通の声と同じで困惑してるね。

「先ほどは驚かせてしまい申し訳ございませんでした」

謝罪の言葉を伝えるアーク。同時に水差しからカノンが手にするグラスへ水を注ぐ。よほど喉が渇いていたのか、再びグラスの水を一息に飲み干すカノンだ。

「その‥‥状況がまった理解できないので説明をお願い出来るかな?」

喉の渇きが癒え、落ち着きを取り戻したことをカノンから感じ取れる。貴族としての誇りからなのか、持ち前の力なのかは判別出来ないが、動揺で取り乱してもおかしくない状況で冷静を保つ胆力には驚きを感じる。

「落ち着いたみたいだから、きちんと説明しないとだね」


場所をソファーに移すとシュヴェがコーヒーを準備していた。私が持って来た菓子もテーブルに並べられてお茶会の準備は整った。準備を終えたシーヴェがソファーに座ったので話を切り出す。

「聞きたい事はたくさんあると思うけど順を追って話すね」

「はい。では、彩美殿にお任せをいたします」

「先ほどのドラゴンは驚かしてごめんね。もう気が付いていると思うけど、ここにいるアークの変化した姿だよ」

「アーク!?もしや伝説にあるダブネスの娘!?」

ダブネスに関する伝説では「ダブネスの娘であるアークが龍の姿に変化し、父に挑み破れた」となっている。伝説と自身に起きたことを瞬時に結び付けたカノンの反応は驚くべきものだ。そしてカノンの反応はダブネスの話が<御伽噺>でなく<史実に基づく伝説>と把握していることがわかる。

「御伽噺でなく史実に基づく伝説と知っていたの?」

次の会話に繋げるため、わかっていても質問をすることも新宿の夜で培った会話のテクニックだ。

「はい。我が家は末席といえども光の国王家に連なる家系ですので」

世間では人心を保つために御伽噺にすり替えられた史実。しかし伝統ある王家達に限り「いつの日かのダブネスの復活」に備え<史実に基づく伝説>と語り継がれている。

「ダブネスの娘で間違いございません」

アークが自分は先史代であること。そして、父が御伽噺の世界であっても赤子ですら恐れる魔王になった道のりをカノンに語った。

「アーク殿に関してはわかりましたが・・・」

異世界転移を受け、色々な道のりを経てきた今の私ならカノンの想いはわかる。聞きたいが、聞いたら戻れなく道。でも、進むしかないことも。その葛藤がどれだけ重く次の言葉を紡ぐのに必要な勇気を。だから、今ここに七海がいたら「やっぱし彩美は優しいね」と言われることが間違いない言葉を紡ぐ。

「私も先史代だった。そして、かつてはこの世界の紡ぎ手だった・・・」

「彩美殿!?」

もっと知りたい・・・・カノンの欲求を感じる。ここで全てを伝えて区切りをつける方法もある。だけど、私が選んだのは、

「全てを知りたくば闇の国へ行きなさい。あなたは、全てを知る刻を迎えたから」

私が言葉を紡ぎ終わったのを理解したシュヴェが役割を理解してカノンに語りかける。

「では、私がご案内をさせて頂きます」

今は私の言葉に従うしかない。本能を超えたなにかで感じたはずのカノンにシュベが金色に輝くプレートアーマーの着用を促す。しばらく無言で見守る私とアークの前で、出立準備を終えたカノンの前に転移の魔法陣を私は出現させた。

「では、先に闇の国へ向かいます。帰着をお待ちしております」

呼びかけに私が頷くのを見届けるとカノンは転移の魔法陣に踏み出した。


転移を終えカノンの姿が消えた瞬間、私はテーブルにうつ伏せる。

「うわ~疲れたよぉ!」

「ふふふ。彩美に似合わないキャラを演じたもんね」

「事実は小説より奇なり。自分の想いだけで紡ぐ世界では絶対にない緊張感だったよ」

「卵が先か鶏が先か。鶏が先と彩美が思えば逃げ出しても誰も咎めることはな無い状況だけど。彩美は卵が先と信じて行動をしている」

私が、私の紡いだ物語と関係なく。私が先史代で<知っている過去>を物語にしただけであれば。そうだよ。私が割り切れれば、どれだけ楽で逃避も出来るのか。でも、私は知っているの。この世界は、私が・・・・私が・・・・紡いだ世界。だから逃避はしない。

空想が現実になる。そんな夢物語なんて・・・・でも、今私はその世界にいる。私の紡いだ卵は孵化して現実となった。なら・・・・

「彩美の記憶から人の言葉を借りるなら。俺ツエーでもなく、俺は全能者権限付与の自由自在キャラの歴史改変でもなく。彩美は全てを受け止めたね。そして、空想に生み出した私にすら敬意と愛情を抱いてくれてる。だから・・・・私も・・・・」

・・・・ありがとう・・・・アーク・・・・

テーブルから立ち上がった私は、アークを全力で抱き締める。

「はじまりは空想だったけど、今は現実。今、私の記憶にある先史代時代の記憶。これが本当の記憶なのか、世界により私の物語現実化に整合性を求め作られた記憶かもわからず悩んだ刻もあったよ‥‥」

腕の中のアークが私の背に手をまわし抱き締めてくれる。密着度が上がり柔らかく温かいアークの存在を強く感じる。

・・・・この温もり・・・・記憶がどうであれ・・・・アークはここに存在をしてるよ・・・・

「アークは間違いなくここに存在してる。そして、私の大親友だよ」

これが幾度も悩んだ私が辿り着いた答えだ。メネシスに転移した私は、悩むより受け入て行動をすることで道を切り開いてきたのだから。もう、全てを失った現状を受け入れられなく、ただ街を彷徨うしか出来なかった頃の私とは違う。

お互いの存在を温もりで確かめ終えた私達は、自然と体が離れテーブルに座る。冷めてしまったコーヒーをアークが淹れ直してくれたのでお茶会を再開する。

「本当に彩美は強くなったね」

「七海と出会い、プロポーズをした刻に感じたんだ。七海の人生に責任を持つ重さと喜びをね。その時に決めたんだ。私が出来ることからは絶対に逃げないってね」

「本当に・・・・アークねーちゃんって私の腕の中で泣いてた頃からは信じられないよ」

「って!今、それを思い出すんかい!」

先史代時代の私は両親を失った幼き日から一人暮らしをしていた。幼き子供の力と知識では思うように畑仕事も出来ない日々。どれだけ強く生きようと頑張っても、心が折れる日は幾度も訪れた。そんな時の私をアークは涙果てるまで優しく抱きしめてくれた。

「ふふふふ。嬉しいんだよ。彩美に再会出来たこと。そして、私を思い出してくれたこと・・・・私を思い出して欲しい・・・・私の我儘で・・・・人で無き存在にしてしまった。でも、彩美は待ち受ける苦しみを感じていても、気にもせず解放を受け入れてくれた」

アークの話を聞きながら、私はコーヒーを一口飲む。コーヒーの心地よい苦味と酸味が・・・・あの日の記憶を思い出さす。

・・・・私は感じたよ‥‥解放を受け入れれば感じていた疑問に解を得られること・・・・

だが、解放を受け入れることは<人>との決別であることも感覚でわかった。

メネシスとガイア。魔力と科学、寿命の長さ、生活様式・・・・違うことは多いが、本質としての性質は大きく変わらない。だが、先史代は違う。肉体から解放される前は先史代は人としての本質に大きな違いはなかった。そして、肉体から魂が解放されたことで得た物は多かったが・・・・失ったものも多かった・・・・再び肉体を取り戻しても同じ存在に戻れないほど。

私は、朧げに取り戻していた先史代としての力で感じていた。全てを取り戻すことで得るもの、失うものを・・・・逃げないと決めていた私は、新たに待ち受けると思われる困難より、歩みを進めることに喜びを感じ受け入れた。

・・・・私も我儘だったんだよ・・・・アークとの想い出を・・・・取り戻したかったのは私も同じだよ・・・・

やがてコーヒーと菓子は、酒と肴にかわり二人だけの酒宴は続いた。

「さて、そろそろかな?」

まだアークと言葉を重ね想いを紡ぎたい欲求が激しいが、私はやらねば成らないことをアークの言葉で思い出す。

「うん。また、お菓子とお酒をいっぱい持って遊びにくるね」

「楽しみにまってるよ。ぜひ今度は七海さんも御一緒にね」

帰り支度を済ませた私はアークの家を出る。見送りに来たアークを抱き締め一時の別れを済ますと、転移の魔法陣で地上に戻る。

厩舎にダークを受け取りに行くと、既に見惚れる白馬の姿はなかった。

・・・・さて・・・・もう一仕事だね。

私はダークに跨り闇の国王都へ向かう。

◆◆◆◆

「おかえり!」

黒泉館の部屋に戻ると、胸に七海が飛び込んできた。

「ただいま」

胸の七海を抱き締める。心地よい柔らかさと温もりに、この上ない安らぎを覚える。私の胸に顔を埋めていた七海が笑顔で私を見上げる。

・・・・ああ・・・・可愛いよ‥‥我慢出来ない・・・・

私の視線は七海の愛らしい唇に惹き付けられ離せなくなっている。視線に気が付いた七海が、ゆっくりと唇を重ねてきた。自然と唇の力が抜けると、七海の舌が私の中に入って来た。咥内の舌は、それ自身に意思があるかのように私の舌に絡みつく。舌から全身に広がる快感に身を任せていると・・・・

・・・・あっ‥‥逝っちゃうかも‥‥

膝が崩れる私を七海が支えてくれるのを感じた瞬間。脳が白く染まり・・・・意識が・・・・闇に落ちていく・・・・


 意識を取り戻した瞬間に状況の把握は出来た。何回も、何十回、幾千万回・・・・私を受け止めてくれた、柔らかく気持ち良い七海の膝枕でソファーに寝かされている。目を開くと笑顔の七海が私を見つめている。何回経験をしても飽きることない最高の目覚めを迎える瞬間だ。

「再起動スイッチは入ったかな?」

耳に届いた、七海の声で自分の体の状態を確認してみる。

「うん。まだ組み込みがはじまったばかしで僅かだけどね。感じるよ…」

なんと表現していいのか。感じる全てが少しだけどクッキリとし始めている。意識と肉体が<何か>を通してでなく直接繋がってゆく感覚。魔力で補完されていた部分が正しい姿を取り戻しているのだろう。

「これは・・・・やばいかも‥‥」

起き上がり七海の横に座ると、ワイングラスを渡される。

「何がやばいのかな?」

小悪魔のような少し悪戯を感じる笑顔で私の顔を覗き込み七海が問いかけてきた。間違いなく七海は答えを知っている。

・・・・七海だもんね‥‥恥ずかしくないよ‥‥

渡された赤ワインを一口飲み、恥ずかしさを忘れる。

「その。えっと・・・・間違いなく感度があがるよ。私・・・・どうなっちゃうの・・・・」

恥ずかしさを忘れてる覚悟を決めて話したはずなのに、頬が熱くなるのを感じる。

「ふふふふ。それは楽しみだね」

鈴を転がしたような心地よい笑い声だ。幾度聞いても飽きることがなく、いつまでも聞いていたい誘惑が激しい。

七海はわかっている。自分の方程式の一部を組み込んだ結果、私が本来の肉体的感覚を取り戻しはじめたことを。そして、それは七海がより多くの快感を私に与えることが可能になることを。

「今すぐ感度のあがった彩美を楽しみたいけど、先に・・・・だね」


 ソファーの傍らの空間が霞むとシュヴェが現れた。

「お楽しみの所に野暮で申し訳ございません。ルシファー様からボルケーノまで来て頂きたいとの伝言です」

「野暮とか気にしないでよシュヴェ。ありがとうすぐに行くね」

「では、御伝えに戻ります」

シュヴェの姿が霞み消える。

「シュヴェ?」

転移をシュヴェが終えると七海が聞いてきた。

「えっと・・・・」

幻体のアークが個を得たこと。そして、幻体、原体と呼び合うのでなく幻体のアークに<シュヴェ>という名が与えられたことを伝える。

「ややこしくなるからシュヴェは原体と一緒でない時はアークでいいと言ったけど。やっぱし駄目なんだ・・・・」

「名はその人の存在と同じ・・・・大好きだよ彩美の考え方は最高だよ」

◆◆◆◆

「彩美殿!」

ボルケーノの二階にある個室の扉を開くとカノンの声が耳に飛び込んできた。この部屋は防音だけでなく地獄耳スキル等の魔法に対する対魔処理も施されている。秘匿を伴う会話をしながら食事を楽しめる場所だ。部屋では既にルシファー、リナ、メイレーン、セレン、シュヴェ、そしてカノンがテーブルに着き食事を楽しんでいた。テーブルに並ぶ大皿からコースでなく居酒屋状態で食事をしていたことが見て取れる。

「カノンも色々と聞きたいことは残っておると思うが、空腹の七海が怖いのでな。」

ルシファーに促されてテーブルに七海と私が着く。部屋の扉が開き、VIPルーム専用のウエイトレスが新たなワイングラスを七海と私の前に並べ、赤ワインを注ぐ。VIPルーム専用のウエイトレスは口が堅く、決して訪れた客や見聞きした内容を絶対誰にも漏らさないスペシャリストが務めている。

「それでは乾杯だ」

ルシファーの掛け声で皆が軽くグラスを掲げる。ここからはメネシス式の飲み会となる。まずは黙々と食事をして腹を満たす。その後に酒を片手に語り合う。もう慣れて来た慣習だが、食事と酒を楽しみながら語るガイア式に比べてしまうと忙しなさは否めない感覚を感じる。

次々と届く大皿の料理が皆の腹に消えていく。料理によっては辛さ加減を調整した別皿が七海と私に用意される。激辛料理が売りのボルケーノだが、シェフは辛さがほとんどない味付けも上手だ。安心して七海と私は料理を楽しむことが出来る素晴らしい腕が本当に嬉しい。店によっては「辛さを限界まで抑えめ」で頼んでも口内の火事に苦しむことも多いから。

・・・・うん!・・・・この鳥煮込みのカレーソースは風味豊かで楽しいね。

メネシス組が食べている皿と同じ真っ赤なソースで見た目は恐ろしい。だが、見た目は同じでも香辛料の赤さでなく、トマトを煮詰めた赤さなので安心して美味しく、楽しんで食べることが出来る。そろそろ私はお腹がいっぱいなのでワインを楽しみながら皆の食事光景を眺める。

・・・・本当に何処に入るんだろう?

毎度、感じる疑問だ。一皿でも私なら食べきれない量の料理が次々と皆の胃袋に消えていく。

・・・・そろそろかな。

皆の食べるペースが落ち出してきた。しばらくすると、全ての大皿から綺麗に料理が無くなる。

・・・・本当に食べ残しなく綺麗に食べるよ。毎度思うけど本当に素晴らしいよね。

皆が食事を終えたのを見届けたルシファーが会話の口火を切る。


「さて、カノンを先に我国へ向かわせた理由は理解して話をしたつもりだが・・・・」

ルシファーの問いにカノンが答える。

「全ては私達の手で。それが答えでよろしいのでしょうか?彩美殿」

・・・・うん・・・・想いは間違いなく引き継がれているね。

アークの部屋でカノンに全てを伝えることは簡単だった。だが、それではパズルは完成しても想いは伝わらない不完全な状態だ。<私達の手で>これを完成させるには、始まりも<私達>でなくてはダメなんだ。

メイレーン、セレンとのはじまりは友達だった。友としてメネシスの未来を託す。二人はそれに応えようと頑張っている。運命や宿命との想いでなく、ましてや命令でもない。友から託された襷を受け継ぐためにと。これは二人とのはじまりが友だったから出来たことなのだ。

だがカノンは違う。地下迷宮にて、アークの手でメネシスを託す一人としての実力は十分とわかった。心も僅かな会話の時間で感じた胆力や心構えで十分な可能性を感じた。だがカノンには大きな弱点も感じることが出来た。それは骨の髄まで浸みこんだ光の国貴族としての忠誠心だ。

ウリエルからの指名依頼で地下迷宮を訪れ、私との出会いからの流れ。敏いカノンであれば、寝起きの視界に私を捉えた瞬間に気が付いていたはず。全ては私と出会いのため地下迷宮にウリエルが導いたことを。

あの場で、私の言葉で伝えたとしても・・・・

「あの場で彩美殿から理由を聞きたいと思っておりました。しかし、闇の国へ行くように促された理由が今ならわかります。主君の命でなく、冒険者として想いを受け取らねばならなかったのですね」

・・・・嬉しいなぁ‥‥ここまで想いが伝わると・・・・涙が出ちゃいそうなくらい嬉しいよ‥‥

テーブルの影で七海が私の手を握ってくれる。柔らかく温かい心地よい感覚と同時に「もう少し頑張るんだよ」と七海の呼びかけを感じる。テーブルを挟んでカノンに並ぶメイレーンとセレンも笑顔で私に頷き応援の心を感じる。

・・・・そうだね‥‥感動の刻は・・・・きちんと役割を果たしてからだね。

「うん。きちんと想いが伝わってうれしいよ。私達の手で。長く苦しく辛い旅になるかもしれない・・・・それでも・・・・」

「はい。命として受けるのでなく、私自身で決めた道です。覚悟は出来ております」

・・・・もう・・・・もう・・・・いいよね‥‥

私の頬に涙が伝う感覚。

「まったく彩美は・・・・最後まで決めきれないんだから」

叱責に聞こえるけど声色は「がんばったね」と褒めてくれている七海だ。

「本当に出会ってから、実は先史代だったとか色々と驚くことがあったけど。この感じが彩美さんで安心するよ」

メイレーンの言葉が美香にそっくりで何かわからないけど押さえられない笑いが込み上げてくる。

「はははは。あらためてだけど、よろしくねカノン」

私が手を差し出すと、カノンが強く握り返してくれた。握り返す力に安心感を感じるけど、

「痛ててててて!」

私の悲鳴に慌てて手の力を抜くカノンだ。

「す、す、すいません。私・・・・馬鹿力なの忘れていました」

ガイア人の平均から三倍の筋力と馬鹿力に想いが加わわった握手は痛かったけど、カノンの決意を強く感じられた嬉しい事故だ。

「頼りにしてるよ」

先程まで感動の涙と違い、痛みで薄涙を浮かべ耐える姿に一同が大爆笑をしている。


「さて、統括ギルマスからも連絡が来ている」

少し緩んだ空気をリナが再び引き締める。

・・・・そうだね‥‥酒宴はもう少しお預けだよ。

「カノンの身は闇の国ギルドで当面は預かる事になった。アルデヒト候からの御許可も頂いている」

カノンが黒泉館の長期滞在者部屋を利用する準備が出来ていることも伝えられる。計画をしている正式な<私達の手で>の部隊発足までは、「冒険者と国家が協力関係を結び邪教団への対抗に成功している事例を学ぶため」に光の国冒険者ギルドから派遣された冒険者として過ごす。爵位を持ち立場も十分なので、正式な役職ではないが対邪教団部隊顧問であるメイレーンの顧問補佐としてセレンと一緒に席を並べる。これで王宮への自由な出入りや、対邪教団部隊の会議や訓練に参加する形式も整う。

リナから現状と今後に関する一連の話が終わると、話は少し寛いだ酒宴の席へ移りはじめる。メイレーンやセレンとも、すぐに打ち解けたカノンは三人で闇の国の食の話や、飲み屋の話で盛り上がっている。

・・・・よかった・・・・三人の馬も合いそうで本当によかったよ。

三人の会話を楽しく聞きながら酒杯を傾けていたら、

「彩美殿は・・・・本当に男だったのですか?」

少し聞き難そうにカノンに問われた。

「ぶはぁ~」

思わず口に含んでいたワインを、私は吹き出してしまった。

「こんなに美人で・・・・女性らしくて・・・・信じられなくて・・・・」

もっと複雑な現状は受け入れることが出来たのに、私が元男性だったことは受け入れられいのか!?なぜ、そう思うのかをカノンに問い質したい気持ちはあるが、その前に・・・・

「ルシファー!またもなのか~い!」

「おや。彩美の物語が現実化した話をする時の・・・・そう・・・・なんていったか・・・・ああ、お約束というやつではないのか?」

わかっている。私の物語が現実になった話。聞く者が受けた衝撃を和らげ、受け入れる心の余裕を作るための時間を作る。その緩衝材としての戯言話として女体化の話を挟んでいることは。

「うん。メネシスに転移して来た刻は男の肉体だったよ」

「信じられない!お聞きした話だと、転移して目覚めてから・・・・まだ数ヶ月。それで、この圧倒的な女子力とは」

しばらく私の女体化の話を肴に酒宴が盛り上がる。

「はじめて来たアレで四苦八苦している彩美の姿は楽しかったぞ」

・・・・おいおい。女性しか席にいなからって‥‥ルシファーさん。少しは話題を選んでよ。

「まったく。男のスケベ心で趣味を決められた私の立場は・・・・」

・・・・あの。リナさん。・・・・なんか漏れ出してますが・・・・いいのですか?

「はじめて添い寝をしてもらった時には父を感じてしまいました」

・・・・まあ、これは。・・・・許容範囲だよメイレーン。

「思い返せば先史代でも人の時代は純粋無垢な可愛い女の子だったね」

・・・・おーい。シュヴェさん!・・・・って、今は純粋でも無垢でもないのであってますが・・・・とかの前に。シュベの個性が強くなって来てるのを感じられて嬉しいよ。

「ねぇ!私の旦那様!最高でしょ!」

・・・・特大級の惚気を投下しないの七海さん!嬉しいけどさ・・・・私達以外は独り身の皆の視線が痛いよお~。


話も落ち着いて来ると、

「さて、私とリナは大人の話をしに行くから」

ルシファーとリナが席を立つ。

「じゃあ私達はカノンに闇の国の夜の街を案内するね」

メイレーンはセレンとカノンを連れて夜の街に行く。私達も誘われたが、少し旅とアークの施してくれた再構成で疲れを感じるので辞退をさせてもらった。

◆◆◆◆

黒泉館の部屋に戻ると、旅路の汚れを風呂に入り落としてスッキリする。白酒の入ったグラスを片手にテラスで七海と紫煙を巡らし息を休める。

「旅の疲れと再構成の疲れもあると思うし・・・・まだ再構成も完了してないと思うけど。どうする?」

童女のようなあどけない表情で私の顔を覗き込んで質問してくる七海だが、内容は大人の世界でギャップ感が激しい。でも、このギャップ感が私の体に火を着けてしまうんだ。

・・・・絶対に・・・・狙ってやってるよね‥‥この、小悪魔的乙女な七海!

「わかっているでしょ」

呟く私に七海が応える。

「わかっていても確証が欲しい時もあるんだよ」

そう言うと七海は私を抱えてベッドへ。

・・・・いや・・・・まじなの・・・・この感覚・・・・これは私・・・・私・・・・壊れちゃうかも!?

女体化してすぐにナタリーから受けたマッサージで感じた感覚。その後の自慰・・・・で感じた男性としての性感と違う女性の体に驚いた衝撃。その時の何倍もの衝撃に、今私は襲われ翻弄されている。

肌を伝う舌の感触。バストトップに感じる吐息。そして・・・・あそこに感じる・・・・

「うわああ・・・・ああ・・・・ダメ・・・・あああああ・・・・うううん・・・・」

何も考えることが出来ず、七海から与えられる快感で喘ぎ声の製造機と化した私だ。

「おやすみ彩美。今宵は私が一緒にいるから‥‥安心して休むんだよ‥‥」

意識の最後に耳に届く七海の声。強い安心感を感じて心が解き放たれる。それと同時に一番敏感な場所に感じる甘噛みの感触。

「うああああ。逝っちゃうの・・・・」

今まで感じた事ない、今までと比較も出来ない快感で激しく仰け反る体を感じた瞬間だった。ブラウン管テレビの電源を落とす瞬間の瞬く画面のように、私の意識は真白に染まり・・・・意識が闇に落ちていく・・・・


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